表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第一話 魔王さん、お断り
2/153

第2回 世界平和と学校開始のお知らせ

 学校が再開したのは、政府が危険度のレベル9を段階的に下げて、安全圏内であるレベル5を発令してから2週間経ってからだった。世界が崩壊を免れてから勘定して、8カ月目ぐらいだ。早いといえば、早いんだろう。


 学校の校門に一枚の張り紙が張られて、連絡網で「明日から学校を再開します」という電話が掛かってきた。あいては沖縄へ疎開していたはずの藤村だった。


「おまえ、いつ沖縄から帰ってきたんだよ」


「ん。先週」


「なんだよ、だったらさっさと教えろよ」


「いやいや、こっちはこっちでちょー大変だったんよ?」


 しまりのない口調に、何だかほっとした。こいつの口癖は「ちょー大変」だ。その線引きはかなり不鮮明で、世界崩壊も、ショップのオープン日の徹夜も、ちょー大変。


「だけど、突然だなあ。クラスでも、海外に疎開していたやつもいるだろう?」


「うん、俺への連絡だって、ふたりとばして夏目からだぜ?」


 世界的軍事作戦の一環で、一般旅客機、船舶の航行は規制されていた。レベル5になってだいぶ緩和された。国内の鉄道関係や一般道路ですら、レベル6になってから交通規制が解かれたのだから、「学校始めました」といってすぐに全員が集まれるはずがない。疎開した先でよろしくやっているやつらだって、たくさんいるのだろう。


「で、お前はあした学校いくのか?」


「行くと思うよ。やることないし」


「救国の英雄も、世界が平和になればお役御免か」


「そんなもんさ。平和ばんざい」


「平和ばんざい。お前が生きていることにも、ばんざいだ。神様は英雄の悲劇的な死を良しとはしなかったみたいだしな」


 そんなこと良しとされてたまるか。そういうと藤村はけらけらと能天気に笑った。


「じゃあ、あした、学校でな」


「おう」


 そういって通話を切ろうとすると、藤村が「んー」としばらく唸った。ややあって、


「あのさ」


「どうした?」


「世界を救ってくれて、ありがとうな」


「なんだよ、変なの」


「いや、だってさ、お前世界的英雄じゃん。そんな奴に普通お礼なんてなかなかいえないししさ。かといって昔からの友達に、面と向かっていうのもなんかこっぱずかしいし。だからさ、電話で。ありがとう。俺の感謝なんて屁でもないだろうけどさ」


 そんなことないさ。そんなこと、ない。

 そのたったひと言で、ぼくのなかをぐるぐると絡みついていた大きな鎖が、まるで紙細工だったかのように、ほどけていくような不思議な感覚を味わった。


 8か月間、ぼくの生活はバタバタとしていた。まったく落ち着かなかった。そこにぽつんと「学校」という言葉が飛び込んできて、ようやく日常がぼくの足元に広がったように感じたんだ。


 あしたから学校だ。

 銃も、戦車も、恐ろしい敵もいない。

 授業や勉強に追われて、友達に囲まれた小さな白いコンクリートの世界のなかにようやく戻れるんだ。


 電話を切ってから、ぼくは空白のカレンダーに登校日と書いた。しばらく考えた末に赤丸で囲った。誇ったっていいよね。ぼくらが勝ち取った世界平和なのだから。


 寝る前に、モバイル端末からかえでにメッセージを送った。

 学校が再開するんだって。お前もいくよな?

 でも、いつまでも既読にはならなかった。あいつにとってあらゆる連絡手段は発信器でしかないのだから仕方ない。それに、かえではまだ方々を駆け回っているんだろう。彼女にとって世界は止まっているものではなくて、自分から動き回るものなんだ。そんな生活は、ぼくはもうしばらくはいいや。


 時間は11時を回っていた。災厄に見舞われる前だったら、まだまだ夜更かしの時間だけれど、娯楽は正直まだまだ少ない。


 それにあしたは学校だ。そんな楽しみが控えているんだから、はやく明日になることを望んで静かに眠るのもいいものだよね。


 おやすみなさい。

 また、あした。

5/12 改稿

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ