第19回 世界平和と海岸線捜査網 その2
飛翔・人型から生まれてくる子供の数は平均6、7匹で、多い時には10匹程度らしい。母親は出産で体力を消耗するため、つがいの相手を捕食する。また、生まれてきた子供もその残りを食べるのが通常らしい。
うげえ。おっかない。
そういえば、昆虫にもメスがオスを食べちゃう種類がいたような気がする。なんだっけ、かまきり? そういえば、飛翔・人型はかまきりに似ているような気もする。
母親は子供達に仮の仕方を教えるために、獲物をさがす。海岸での出来事は、まさに子供が生まれて以降のそれだった。
「ここから一番近い、ひとがたくさんいる場所は?」
「そこから東へ3キロ。そこに住宅地があるわ」
「ぼくはそこに向かいます」
「わたしたちも人員を割くわ。気をつけて。母親は子供がいるから気が立っているし、子供も凶悪よ」
いちど大通りへと戻る。圏外では地図がはっきりわからないからだ。戻るだけでも1キロの距離がある。息が切れる。半年前はあれだけ駆けずり回っても大丈夫だったのに、ちょっとだらけるとすぐにこれだ。
それでも立ち止まっているわけにはいかなかった。
ナビが示す方向に検討をつけるとふたたび走り始めた。
しばらく走ると、すこんっと膝のちからが抜けて体が傾いだ。
疲労感が予想以上にたまっている。
体力的なものもあるだろう。走るのはもともと好きではない。
でもそれだけじゃないのもわかっていた。
やっぱり人型は嫌いだ。
これが飛翔型で、戦闘が広範囲にわたっていることも体力的な点で嫌だけれど、それよりもぼくはキャンプ地の戦いや、海岸での光景があたまから離れなかった。
魔王が召喚したモンスターは多岐に渡った。形態、特徴、使える能力も様々だった。
なかでもやっかいだったのが人型だ。人型はさらに細分化されている。種類によっては魔王と同じように魔法が使え、ほんとうに人間と見まごうようなやつもいた。
正直、そういうモンスターとの戦いは気が進まなかった。異世界からの招かれざる客との戦いなら、まだいい。それでも相手が同じ人間にみえると、ただの戦争のように思えてしまうからだ。
キャンプ地の戦いも、海岸での出来事も、ぜんぶモンスターだ。ひとじゃないんだ。それはわかっていたけれど、そうやすやすと飲み込めないことだってある。
ナナミさんもぼくが人型との戦いを嫌っていることはわかっている。
だから「ごめんなさい」なんて普段は言わない言葉が出てきたんだろう。
仕方がないよ。ふいに記憶の中のかえでが笑って言う。わたしたちにはひとを救えるちからがあるんだから、まずは救うことを考えようよ。