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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第一話 魔王さん、お断り
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第18回 世界平和と海岸線捜査網 その1

 赤い点が示しているのは、避難キャンプから南に約8キロ。街に面する海辺だ。


 崩壊危機の際、周辺の堤防が壊れ、いまもそのまま。居住区として適していないため、夜半にひとの被害は少ない。

 それでも、モンスターの動きは把握しにくい。いつひとのあつまる場所へ移動してもおかしくない。


 キャンプまで運んでくれたパトカーはもうない。ナナミさんとの連絡も途絶えたいま、頼れるのは自分の足しかない。

 正直、体力は消耗したくないけれど、そんなことを言っている場合じゃない。

 ぼくは走った。補修が進んでいるとはいえ、それは一部の道でしかない。ナビも補修具合まで完璧に記録しているわけもない。がたがたの道を走り、こわれた家の残骸なんかの障害物をよけながら、南へと向かった。


 走るのは得意じゃない。時間ばかり食う。

 海辺につくのに、40分かかった。

 その頃にはもうへとへとだった。


 改めて位置を確認しようとモバイル端末を取り出したところで、ここが圏外だということに気づいた。電波復興も市街地を中心に行われているんだ、こんなひとのいないところではそれもそうだろう。


 40分。この時間をどう考えるか。

 モンスターがひとつのところにい続けている可能性はけっして否定はできない。群れでの行動を重視するやつらだ。さっきのように、怪我をしているやつを守るため、拠点を動かさないかもしれない。


 怪我をしているやつ。


 なんか、ひっかかった。

 ほんとうにあの屋内にいた2体のモンスターは、怪我をしていたっけ。

 拳銃でもなんでも、たしかにモンスターにはダメージを与えられる。でも、そこまでのダメージをモンスターたちが受けているようには思えなかった。


 いや、考えるのはあとだ。まずはこのエリアを探そう。ぼくは海岸沿いを捜索した。


 堤防があるころは、ここも大きな公園があった。いまは堤防が壊され、海水にほうぼうが浸ってしまっている。木はなぎ倒され、視界も悪い。さらに悪いことに、月も雲のなかに隠れてしまった。目はあまり頼れない。


 あとは、音と、匂いだ。


 海岸線を東へぐるりと回ったときだった。

 焦げ臭い匂いが鼻をついた。避難キャンプのモンスターも炎を吐いた。近くにいる、そう思った。

 耳を澄ませた。

 だけどなんにも聞こえない。

 まるっきり生き物のいないような静けさが海岸を満たしていた。

 ぼくのなかでの疑念がむくむくと膨れ上がっていった。

 なんか、おかしい。


 ぼくが壊れた堤防の瓦礫をまたいだ時だった。

 それまで雲に隠れていた月のひかりがあたりを照らし、その姿はぼくの目の前に飛び込んできた。


 むちゃくちゃになったモンスターの体だ。

 いくばくかは原型を止めているけれど、明かりがなければ、それがモンスターだったとはちょっとわからない。2体。そのうちの一体に、復興対策本部が打ち込んだ発信器があった。


 正直、めちゃくちゃ気持ち悪い。

 でも何があったのかは把握しなくちゃいけない。

 モンスターだったものの周りを見回すけれど、あたりで戦闘行為があった気配はまったくなかった。

 それに、このモンスターは倒された、というよりも、"何かに食われた"という方が表現として正しい。


 ぼくのなかで疑念が大きく広がった。これは、きっと普通じゃない。


 その時、端末が鳴った。受信エリアに入ったらしい。


「よかった! ようやく繋がった!」


 ナナミさんだ。


「ごめんなさい、どうやら端末が圏外だったみたいです」


「佐倉くん、今どこにいるの!?」


「いまは赤い点のところ……海岸です。避難キャンプのモンスターはもう倒しました。ただ、ここはどうにもおかしくて……」


「”母体”は!?」


「え?」


「避難キャンプの”母体”は完全に駆除した!?」


 母体だって? その言葉にぼくの頭の中のピースがぱちぱちとはまり始めた。


 偶数で動いていた群れ。

 ふえの音に駆けつけなかった2匹。


 ああ、くそ!


「繁殖だったんですね!?」


「ごめんなさい、わたしたちも把握できていなかった! こっちの対応で、群れのメスが子供を抱えているのがわかったの!」


 飛翔・人型はもともと火山帯を好む。

 火炎で周辺を燃やしていたのは子供を生むための準備だったんだ。

 そして、この食い殺されているのはたぶん、子供の父親だろう。出産のために母親に食われたのか、それとも生まれたばかりの子供に食われたのかもしれない。


「ナナミさん、そっちが片付いたら、大至急避難キャンプへ応援をお願いします! 親は倒したけれど、子供はわかりません!」


「わかったわ!」


 ナナミさんは端末を切らずに大声で周囲に指示を出す。


「ユウタくんも合流して頂戴」


「いえ、ぼくは海岸あたりを捜索します」


 ぼくは口元を歪めた。「こっちも、もう、生まれているんです」

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