第17回 世界平和と避難キャンプ戦 その3
ちからの差を見せる。複数との戦いではとっても重要なことだ。ちょとしたことで、戦いは決着する。そのちょっとしたことをこっちの味方にすることが、いちばん大事だ。
今回はこのひと太刀がそれだ。
すぐさま、ぼくは踏み出した。
2匹目は、仲間があっけなく切り倒されたことに思考停止中だ。
人型の弱さはここにある。下手に考えてしまう。感情的になりすぎること、理性に頼りすぎてしまうことはこの場合、的確ではない。本能の”恐怖”に従うべきなんだ。
でも遅い。ぼくだって待ってあげるほど余裕はないしさ。
近くの車を踏み台にして3メートルほどの高さで躊躇を見せていたモンスターに切り掛かる。
ナイフを持ち替え、腹につき立てると、大きく飛行体勢が崩れた。
一気に肩口まで駆け上る。
むんずと禿頭をつかみ、地面へと叩きつけた。
3メートルでも、頭から地面に叩きつけられたら、モンスターだってたまったもんじゃない。しばらくびくびくと痙攣を起こしていたけれど、ぐったりと地面に伸びた。
これで2匹だ。
2体目からナイフを回収すると、避難キャンプへと向かった。
火事は仮設住宅から燃え上り、公園の樹木を飲み込み拡大を進めている。
悪いことに北西からの強い風が炎を踊らせていた。
公園の周りは広い道路が占めている。類焼はこれより広がらない。
それでも、早急に消化の手はずを整えなければならない。
ぼくはもう一度ふえを吹いた。だけど、もう2匹は反応を見せない。さらにもう一度。今度はもっと大きく。それでも反応がない。
まさか。いやな予感がした。移動しちゃったのかもしれない。
全頭に発信器がつけられたわけではないだろうし、もしかしたら、避難者を追いかけていったのかもしれない。それはまずい。避難者は八方に逃げただろうし、モンスターがどっちに向かったなんて、ぼくにはわからない。
「ああ、もうちくしょう!」
思わず悪態もつく。
とりあえず、ナナミさんに一報を入れようと端末を取り出したときだった。
燃え上がる建物のなかで、黒い影がゆらりと動くのが見えた。
それも2体。
よし、いた!
ぼくは壊れた窓から覗き込んだ。
激しく燃え揺らめく火炎のなかで、飛翔・人型が2匹あたりを警戒するようにきょろきょろしながら、牙を剥いていた。
もしかしたら、怪我でもしたのかもしれない。さっきのおまわりさんは拳銃で応戦している、と言っていたし。足止めできていたのなら、めちゃくちゃラッキーだ。
ぼくはモバイル端末のタイマーをセットした。
2分で電子音が鳴る。動けないとしても、注意は向くだろう。それで十分だ。最大の音量にセットしたものを地面におくと、身をかがめて建物の反対側に向かった。
幸い、入り口がこちらを向いている。
ドアは外れ、中を覗くことができた。
2体は体を寄せ合い、部屋の中央に居座っている。
さっきの2体と比べて体格は小柄で、華奢な様子だ。
入り口から奴らまでの導線に余計な障害物はない。警戒心はかなり高いようだ。それでも一瞬でも、電子音に気を取られればいい。
轟々と燃え上る炎の音のせいで、ぼくには電子音が聞こえない。
カウントは頭のなかで続けていた。ぼくのカウントなんて、正確性にはたかがしれている。それでも、十分だ。
カウントが120を数えた時だ。2匹のモンスターの注意が反対に向いた。炎の音の中でもわかるぐらい、低い唸り声をあげながら、建物の外にむけ、飛びかかる体勢をとって見せた。
いまだ!
入り口から滑り込み、全力で炎の中を走った。
雄叫びなんて出さない。
チャンスを不意にすることはない。
手前。首元。ナイフをつき立てる。完全にしとめなくてもいい。まずは行動を不能にさせる。
もう1匹が驚いたようにこちらを向く。
ここで雄叫びをあげる。
ひるませる。
からだがのけぞったところで胸元に蹴りを入れ、上から体重をかける。
ぐええええと悲鳴が上がる。
おぞましいほどの声だ。耳を塞ぎたくなるぐらいの。それはそうだろう。ふえの出すまがいもの声じゃない。ほんとうの、恐怖からの声だ。
勝負はすでに決着がついている。
時間をかけている場合でもなかった。
もう一箇所いかなければならない先があるのだから。
ぼくは2匹にとどめをさした。
でも、このとき、もっとぼくは冷静に考えなければいけなかった。
推測する要素はいくつもあったのに、だ。