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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第一話 魔王さん、お断り
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第16回 世界平和と避難キャンプ戦 その2

 大型のバンはモンスターの襲撃を逃れようと、大通りを蛇行しながら、だんだんと速度をあげていく。

 だけど、だめだ。モンスターは動くものを標的にする。

 ましてやスピードが最大の武器である飛翔型にとって、速度の早い獲物は最大のターゲットなんだ。


 荒野なら、まだ車は大きな弧を描いて撹乱させることができるかもしれない。

 都心なら、ビルの合間に逃げ込めるかもしれない。

 でも、車が走るのは、ただただまっすぐに伸びる地方都市の幹線道路だ。行動の範囲が狭い。モンスターにとって格好の餌食でしかない。


 いけない。

 バンの運転手は、冷静さを失っている。冷静さを失うと行動は単純にしかならない。

 そして、あの方向はこの避難キャンプのひとたちが逃げていった方向だ。


 舌打ちした。かえでがいたら頭を叩かれる、悪い癖だ。でも仕方ないじゃん。あの速度で移動する対象を追いかけるなんて、ぼくにはできない。


 なら、やることはシンプルだ。モンスターの注意を惹きつける。ほんとうは1匹ずつたおす方が楽なんだけれど、そんなことは言っていられない。


 ぼくは緊急用のカバンから小さな笛を取り出した。


 モンスターは生物だ。魔王のコントロールで意図的に操ってはいるけれど、基本は生来の生存本能が彼らの行動基準だ。

 いま、彼らがやっているのは狩り。捕食だ。人型の特徴は群れをなして行動すること。1体の攻撃力はさほどではないけれど、その分、組織立って行動し、ほかのモンスターよりも効率よく捕食を行う。

 そう、群れだ。彼らの一番大事で、そして重要視するのは、群れの安全なんだ。


 ふえにはダイヤルがついている。細かい設定ができる。

 いま必要なものは、他の飛翔型の「悲鳴」だ。


 ぼくはふえを思い切り吹いた。

 ぐえええええ、というモンスターの断末魔のような鈍いおとが辺りに響き渡り、音は一転、超音波のように高音へと変わっていく。

 最初の断末魔は近くの、そして超音波は中距離の仲間に助けを求める音だ。

 もういちど吹く。

 こんどはもっと大きくだ。

 断末魔から超音波への変化が一層早まる。


 すると、車を追いかけていた2匹の飛翔型が大きく中で反転し、ぼくのほうへと速度をあげて飛びかかってきた。


「よしっ」


 成功だ。

 この陽動の利点はふたつある。モンスターの対象をそらすこと、そして、怒りに我を忘れたモンスターの行動は直線的で単純だ。さっきの逃げ回る車のように。


 ぼくが飛翔型を苦手とする理由は、やつらのすばしっこさだ。

 向かってくるだけのやつらなら。ぼくは右手に小さなナイフを握りしめた。感触はわすれていない。たった半年前だ。まだ、戦火といってもあながち間違いじゃない。


 ぼくはありたっけの脳みそをぐるぐると回転させる。


 一匹目。冷静さを失ったばか。体勢=低く……もっと、もっと、”もっと”だ。空からの対象=ぼくまでの入射角を算出しろ、厳密に、厳密に、”厳密”に。初撃一体撃破=それが最初で最大の一撃。「あんたは感覚では戦えないんでしょ」かえでの言葉がノイズのように脳裏を走る。「だったら徹底的に考えて、相手の行動を予想して叩き出せ」


 まだだ。

 ぼくは全身の筋肉の調整を図る……あと5秒……

 足は一歩を踏みこめるように……4秒……

 腰は回転をつけて斬りこむよう……3秒……

 腕はしなやかにしなる剣のように……2秒……

 モンスターが大きく腕を振り上げる……1秒……いまだ!


 踏み込む。腰を回す。腕をしならせ、その後に筋肉を引きしぼる。肩。胸。腹。一刀が切り裂く。悲鳴もあげることなくモンスターはぼくの斜め上をすり抜け、地面にどうっと落下した。


 まずは、一匹目。

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