第14回 世界平和と大事なお仕事の電話
女の子の買い物、ましてや服なんてさっぱりわからない。
どうせならエリカにも同性の友達ができればいいだろうと、ほのかに予定を聞くと、すぐさま回答があった。
というか、電話がかかってきた。
「え、なに、あんたと買い物? ど、どうしたのさ、急に」
「いや、別にこれといった理由があるわけじゃないんだけどさ、女の子の服を買う場所なんてわからないし、ほのかだったら詳しいかなって」
「女の子の服?」
「うん」
といって、ぼくは経緯を話した。勿論、エリカが魔王云々という部分は省いている。いらない混乱は起こさないほうがいい。まとまりのない話はほのかが嫌いだから、要点をまとめて完結に。
だけど、途中まで話をすると、なんだか電話越しにほのかの鼻息が荒くなるのがわかった。
「ほのか、なんか怒ってる?」
「はあ? あたしが? なんで?」
「いや、なんとなくだけどさ」
「つーか、あたし、忙しいの。わかる? こっち戻ってきてから荷解きも十分じゃないの。付き合ってられないの。わかる?」
「ああ、うん、そうだよな。忙しいならいいんだ、気にしないで」
たぶん、ぼくの声がだいぶ情けないことになっていたのだろう。
ほのかは大きくため息をついた。
彼女は小学校からの同級生だ。子供のころから、ほのかは負けん気が強くて、ぼくは彼女の後をついて回っていたと親からも聞いたことがある。どうやら子供の頃からの習性で、ほのかの苛立った声に無条件に声が小さくなってしまっていたようだ。
「あー、もう。くそっ。服買う場所でしょう? 教えてあげるから、その子と行ってくればいいじゃん」
本当に助かる。
やっぱり持つべきものは、異性の幼馴染だ。
手近なメモ帳に場所を書き取ってお礼を言うと、鼻を鳴らしてほのかは通信を切った。
なんだか今日はいろいろと怒られてばかりの日だ。主に女の子に。まあ、仕方ない。かえでと一緒にいたころはそれこそ口を開けば怒られていたぐらいだ。
さて。ぼくは時計を見た。7時5分。晩御飯にはちょうどいい頃合だ。
冷蔵庫にあるもので簡単に夕食を済ませてしまおう、と野菜室を開けたとき、電話が鳴った。
ぼくは着信音を3つにわけている。かえで用と、友達用と、政府・自治体用。
着信は、政府・自治体用だった。
「佐倉くん、緊急よ」
電話の主は、復興対策こと旧転特担当のお姉さん、真木村ナナミさんだ。
ぼくと政府……おもに復興対策本部との窓口はこのナナミさんの仕事だ。そして、彼女の電話は大抵、緊急案件と決まっていた。
「モンスターが大量に発生したわ」
「種別は?」
「飛翔・人型」
一番やっかいなタイプだ。
人型はそもそも知性が高い。さらに飛翔型というスピードも早くてふわふわと飛び回れるモンスターは得意なタイプではない。ましてや、大量なんて、面倒極まりない。
「かえでちゃんとは連絡がつかないし、復興対策本部の戦力じゃあ、いちぶしか抑えきれないの。すでにいくつかに分散して方々で破壊活動をしている」
「どれぐらいです?」
「5グループ。うち3つはあたしらで抑えられる」
残り2つか。
ぼくが思案をしていると、ナナミさんは続けた。
「同方向に飛んでいった対象をまかせたいの。発信器もつけてある」
「具体的な場所、端末に送ってください」
「オーケー」
復興対策本部のアプリを立ちあげると、地図アプリと連動して目標の位置が表示される。たしかに、青と赤、ふたつに分かれている。距離はここからでも近い。
「優先度は?」
「青」
ナナミさんは答えた。
「赤も青も4匹ずつのグループなんだけど、青の4匹が向かった先には大規模な避難エリアがある。数千人が仮設で暮らしている」
モンスターにとってみたら、数千の獲物だ。
「すぐに向かいます」
「お願い」
ナナミさんはそこから少し息を吸い込んで苦しそうに言った。
「ごめん、君をまたまきこんでいるね。ごめん。お願い」
「了解!」