第2話 嵐の前のなんとやら
自室から出たところで凪沙と一緒にリビングに向かうことになった。……普段ならどちらかが行けば良い話だけど今回はそういうわけにもいかない。
「今年ももう終わるね」
「そうだねぇ。なのに、おねぇちゃんによる風物詩というか」
「デスマーチね。死への誘いね」
「……ほんと嫌になるよね」
……何の話をしているか?そう、さっきの電話の話である。
我が家は海外出張で不在がちな両親の要らぬ配慮により無駄にでかい家……うん、二世帯住宅どころか三世帯住宅を名乗れるくらいにはでかい。……縦に。
僕たち兄妹の寝室は4階にある。で、目的地のリビングは2階である。ちなみに1階は車庫とかちょっとしたジムとか遊戯室とかで、3階は風呂とかいろいろある。
……リビング遠いな。
リビングにたどり着くまでに絶対電話鳴るとか思っちゃダメなんだ。フラグになってしまうから。
「今年の夏も大変だったのに、おねぇちゃんはまた懲りずに同じことやらかしたんだね」
同人作家でもある幼馴染は僕たち兄妹が毎回手伝っていることを良いことに修羅場になると電話を必ずかけてくる。
さすがに2年で5回は多いかな……。
「一度説得しないとね(精神面で)」
「そうだね、説得しないとね(物理で)」
……どちらが僕かはあえて言わないことにしよう。だって男子だもの。理由があっても無抵抗の女子?に手を挙げたという噂が流れるだけで大変よろしくない。
リビングにたどり着きました。そして、固定電話だけど……
「鳴ってるね……」
「鳴ってるねぇ……。どうする?」
やっぱりというか、鳴ってました。草木も眠る丑三つ時に……。
「とりあえず……」
電話線を抜こう……と言おうとしたら凪沙が抜いてくれました。なか良きことは美しきかな?……ごめん、地獄行きが怖いだけだ。
「これで、今度こそ大丈夫!……だよね?お兄ちゃん?」
「だったら良いんだけど……」
人間追い詰められたら何をするかわからない。それは僕たち兄妹になると、経験として語れる程度には身に覚えがあるのです。
「…………」
「…………」
…………。ん?なんか嫌な予感しかしない。というか、フラグ立てまくってる気がする!
「一刻も早く寝よう!」
「そうだねお兄ちゃん!」
ピンポーン。
「……鳴ったね?」
「インターホンが鳴ったよ?お兄ちゃん」
ピンポーン。ピンポーン。
「どうする?」
「無視一択で」
……誰かいませんかー!ってうっすらと聞こえてきてるけど、無視しよう。
「……」
「気にしたら負けだよ?お兄ちゃん?」
「そだね」
ドンドンドン!
ねぇ、いるんでしょー!開けなさいよー!
……2階まで聞こえてきてるよ。
「それじゃ、おやすみ!」
「おやすみ、お兄ちゃん!」
出たら最後、地獄行きだ。一刻も早く寝よう。うん、それが良い。
おっ、静かになったな。
……出てきてくれないと、兄妹で仲良くエロいことしてて、私は被害にあいましたってありもしないこと言いふらすわよ?
「…………」
「…………」
視線を交わし、こくりと頷きあう僕たち。僕も凪沙も同じことを考えてたようだ。
「「さてと、説得しに行こっか、物理で」」
…………兄妹が風評被害と地獄行きを天秤にかけた結果である。
……次回、幼馴染登場になります。
私は演劇で割と修羅場慣れしてきているのですが、それでも修羅場は経験したくないのですよ。