第1話
草木も眠る丑三つ時……
それは突然のことであった。
スマホから心がウサギのように跳ね回る着信音が鳴り響いているのを聞いて、僕は目をさます。
「だれだよ……こんな時間に電話してくるバカは」
スマホ画面に表示された名前は「同人作家」。幼馴染のあだ名だった。
「…………」
今月も残りわずか。さらに言うと今年もそれぐらいしか残っていない。
つまり年末、12月である。そんな年末も間近の深夜に電話をかけてくる同人作家こと幼馴染。
電話は未だに鳴り続けている。
「……やな予感しかしねぇな。無視しよう……」
スマホの横のスイッチを切り替えてサイレントマナーに移行し、再び眠りにつこうとする。
年末間近に同人作家の幼馴染から電話がかかってくるなんて、想像したら大体オチが読める。
…………行き着く先は地獄だ。
お、スマホが静かになったな?なったよな?よし寝るぞ。
……今度は隣の部屋から聞こえてきたな。肉弾戦を繰り広げた魔法少女のテーマが聞こえてくる。
あ、唐突に聞こえなくなった。うん、そうだよね。普通そうするよね。
寝ようかな。
……いや、ちょっと待て。固定電話の電話線抜いとくか。万が一ってこともあるし。
「はぁ……夜遅くだから余計寒いってのに。待ってろよ?羽毛布団。すぐに戻ってくるから。」
僕は渋々羽毛布団という天国から冷え切った自室の外へと行くことにした。
「あれ?お兄ちゃんも?」
扉を開けると凪沙が同じく自室の扉を開けていた。
性格良し、プロポーションよし、勉学よし、なのに料理ダメという典型的妹である。
「……おにいちゃん?なにか失礼なこと考えてない?料理ダメとか?」
……勘も非常に鋭い。よくできた妹である。
「い、いや、そんなことは考えてないぞ?」
「本当に?」
「ああ、かあさんに誓って。……なあ、凪沙、お兄ちゃんもって言ってたよな?凪沙もか?」
さっき、スマホが鳴ってたし、多分幼馴染からだとは思うが……。
「うん、お姉ちゃんから電話きたよ。こんな時期のこんな時間に」
「ということは……」
「うん、だよね……」
「「一刻も早く固定電話の電話線を抜こう」」
12月某日。年末までのカウントダウンが刻まれるなか、深夜という時間にも関わらず自分たちの安息のために手を取り合い固定電話の電話線を抜きにリビングへと向かう兄妹。
……兄妹の仲が良いことって素晴らしいね。