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BL 童話集  作者: 椙口音織
桃太郎-PEACH!!-
7/7

桃太郎-PEACH!!- 【7】



ゆらゆらり



長い夢から覚めるようにして現実に目を向ける。

真横で眠る邪鬼を見てからぼぅっとした意識は天井へと向けられる。


(鎖之と共犯した人は身近な人…?)


夢の中で薄らとだが見えた影は日数ほど浅いもののこの屋敷内に仕える人。

そういえば誰かすぐに分かった。

おみん――おみんは鎖之となぜ手を組んだのか。おみんも妖刹の事を妬んだのか、あるいは桃太郎を…?

そうこう考えているだけでは何も出来ないと思えば邪鬼が寝ているのを確認してはまだ早い朝日を浴びて廊下に出る。

木製の床を鳴らさないように忍び足で歩き、おみんがいる場所を探していると部屋から漏れる蝋燭の明かりに気づいた。


(この部屋は…?)


蛇之間(じゃのまと書かれた札が下りた部屋を見ると障子越しに見える影と光を眺めるとすぐにおみんがいるのに気づく。

ゆらゆらりと動く影の尻尾と耳を見ていると障子の傍に寄りスッと扉を開けると一人でお粥を食すおみんがいた。


「ああ、桃太郎さん。起きたんですか?」

「……おはようございます」


いつも通りの笑み、優しい声をかけるおみんを見ていると何処からどう見ても鎖之に加担したようには見えない。

いや、何年も昔の話かと思えば忘れているだけなのか。

真相を知りたいという欲を更に深まらせると真向かいに腰を下ろし正座すれば問いかける。


「…何故、鎖之さんに手を貸したんですか」


そう問いかけた時、一瞬表情を歪めるもすぐに喉を詰まらせゲホゲホと咳込めば喉をなでる。


「何の話ですか?……お疲れじゃなくて?」

「…はぐらかさないでください。知ってるんです、夢を見た時に貴方が桃太郎(はなのかみ)を引き離す時に鎖之と手を組んでいた事を」


問いかける度におみんの顔は少しずつ歪み、きれいな顔は化けの顔を露にするようにみるみると狂気染みていった。

それだけに留まらず、小言でぽつり。「変ですねぇ」と相変わらずの緩い間伸びた言葉を口にしたのにイラッとすれば僕は口角を下げへの字を浮かべる。


「そんな事はないはずなんですよ?僕はそんな覚えないですし、寧ろ僕は妖刹様のお役に立てたんですよ?」


視点が妙にずれている気がする。自分を見ているのではなく、何かをぼんやりと眺めている。

口先だけの言葉を耳にしてはギリリと歯軋りを立てたくなるもこらえ、ただ眺める先に目を見やると蛇之間という名の通り大きな蛇を模した置物が壁にかけられている。

それを見るたびにうっとりと頬を染めて嬉しげに笑うおみん。化けの顔を剥がせたかと思った先にはおかしな事を口にする。

それ故に話しは息詰まり、どうしたものかと思えば不意にある事を思い出した。

あの後、桃太郎は何処に言ったのか。暗い水の中に堕ちるような光景が見え、眩い光を放つ地上に手を伸ばすのが最後、それ以降はどうなったか夢が覚めた為わからない。


「…おみんさん、はなの…かみは今何処に?」

「!……さぁ、どこかしら。鎖之さんが持って行っちゃいましたから」


話しかけたとき、何かを思い出したかのように口元に手を当てるもすぐに困った顔を浮かべる。

嘘か、それとも……。しかし、何かをはぐらかしたのだけはすぐに分かるものの追求するのだけは何故か気が引けてしまう。

席を立ち「失礼します」と告げて部屋を出ようとした時……。



「桃太郎さん、桃太郎(はなのかみ)と貴方の意識は共有していてね、親子だから色んな所もそっくりなんですよ」



その言葉を聞きながら僕は戸を閉めて頬を撫でる。





―――





長い廊下を歩き部屋に戻る最中、布団で寝ていたはずの邪鬼が廊下で一人、盃を口にしていた。


「邪鬼さん、何してるんですか?」

「ん、ももたろーか。いや、何も酒飲んでた」


小さな身なりでありながらも顔の布を外し大人のようにぐびぐびと酒を飲む姿を見ていると背伸びをしているように見えてついクスッと笑う。

「何故笑う」とでもいいたげに頬を薄く染めながら見つめる目は半開き、相当飲んでいるのかと傍にある瓶を手にすれば左右に振っても音すらならない程空になっていた。


「これ何本目ですか?一本目?」

「当たり前だ、お前がいないからその隙に飲んで…ヒクッ」


話している間もしゃっくりをする度に言葉が詰まる。その様子をみれば一目瞭然、潰れそうと思い盃を手に優しく離させ床に置けば優しく子供を抱っこするように抱き上げ布団に運ぶと寝かせる。

子供のように「寝ない」と駄々をこねるのも無視をして布団を被せ瓶と盃を手にした時、ほのかに香る酒の匂いに気づけば盃を見る。

左右に軽く揺らすとゆらゆらと揺れる、まだ残っているのを見ては口にして飲む。

なんともいえない味にへの字を口元に浮かべ卓袱台に置けば自分も布団に潜り込み、寝ようと目を瞑るとぽふぽふと頭に何かが触れる。

目を開けてみると邪鬼が眠たげにしながら緩く笑う。






「我が守る。お前はお前のままでいるといい」





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