桃太郎-PEACH!!- 【4】
「神になる事か?……さぁ、それは知らぬ」
邪鬼は視線を反らすと同時にはぐらかす。
その行動が許せず、自然と手を伸ばしては頭からアホ毛を掴んでは怒鳴り散らした。
「妖怪だか知らないけどそんな神になる為に死ぬなんて嫌なんだ!!この白ハゲ!」
「「「し、白ハゲ!?」」」
大きく声を上げて怒ると周りの部下は驚きざわつき始めた。
つるつると丸っこい頭かつ白色の肌を見れば自然と白ハゲと叫んでしまった。それを気にする部下は一気に離れていく。
何か嫌な予感がする……。
「…白ハゲ?我がハゲだというのか?我は髪ふさふさだぞ!」
「はい?」
布のせいか、見えてないのかそんな馬鹿げたことをいう邪鬼をみていたが何かが視界にぼやけて入る。
オレンジの色の何か…?顔を上げてそれを見た時、目を見開く。
薄い赤毛の髪に同色の耳。紅葉をあしらったオレンジの着物を着た何処からどう見ても細身の女子に見える人物が船をこいでやってきた。
「邪鬼様、遅いですよ。妖刹様が待ちくたびれています」
しかし、声は少し幼い少年の声。それを聞けば僕は邪鬼から手を離すと呆然としていればそっと手を握り邪鬼は何事もなかったように笑う。
「ほら、行くぞ。桃太郎」
「……離せチビハゲ!!」
――妖島 屋敷
無理矢理連れられて早一時間か、女子であろう人物と二人っきりになり大きくだだっ広い屋敷の中を隅々まで説明された。
その後は卓袱台と座布団が五つ、卓袱台を囲むように置かれた客室に案内されては座布団に腰を下ろす。
「申し遅れました、おみんと申します」
薄い赤毛の女子はおみんと名乗り緩やかな笑みを浮かべる。
それに惹かれるように此方も緩く笑うもハッとある事を思い出す。いつ殺されるのか、そんな事を気にしてビクビクとしていればおみんはクスッと小さな笑みを零す。
「そう怖がらないでくださいよ。何も悪い事はしないですし」
「へ…?でも、殺すつもりじゃ…」
「まぁ、そんな事しませんよ」
クスクスと笑って楽しそうにするおみんは湯飲みに入れた茶を出せば「どうぞ」と微笑んだ。
安心したようにほっとするも何をするために此処にいるのだろうかと思えば問いかけようとした時、先におみんが話し始めた。
「…此処に来てもらった理由は一つですよ。貴方に花嫁として邪鬼様を支えてほしいのです」
いきなりの事に何がなんだか分からず、驚いていたが質問すらする暇なくおみんは話を続ける。
それは長き掟から何一つ細かく説明されるも地上の事すら何も知らない自分からしたら想像もつかない事で。
まず、この薄汚い服をなんとかしたいと思うもそれを話す隙すら見せないほどつらつらと話していたがようやく生き抜きをするように深呼吸する隙を見つけると口にした。
「あの、お風呂入りたいのですが…」
「お風呂、ですか?ああ、確かに邪鬼様の花嫁には似合わぬ衣装。では、用意しますからお待ちくださいね」
話を口にするだけで微笑んで立ち上がれば衣装を取りにいく。その間にようやく手に入れた一人という時間を寛いで待つ。
広々とした空間、左右に開けられた障子を見てから部屋に落ちてくる日光を眺めるとそれは幽閉されていた時と比べると開放感がある。
しかし、どこかまだ自分という存在が不安定であり、ぐらぐらとまだ定まらない事に不安になる。
まだこの世界の事を全て知っているわけではない。神?花嫁?何を言われているのか、わからないものの安全だと分かるだけで眠気が襲う。
「桃太郎さん!……ってあれ、寝ちゃってますね……」
その声が聞こえる頃には卓袱台に伏せるようにして深い眠りについていた。
正確な事は覚えていない。
それは何十年も昔のお話。僕がまだ小さい頃からあの地下にいた。
「化けの子」と言われてはや何十年。
僕はその意味を知らない。だって、父の顔すら知らないまま生きてきたのだから。