桃太郎-PEACH!!- 【1】
それは遥か遠き昔の事。
妖怪と人間はいつしか対立してしまい、血と涙を流す長き対立を創る。
妖怪は「人間が悪い」と。また人間も「妖怪が悪い」と声を荒げて対立し続ける。
今や世に蔓延る妖怪はかつて、人と手を繋ぎ生きた者。
天の果実と呼ばれるモノができるまでは――
長い間、暗い檻の中にいると目の前の視界すら狭くなる。
夜になればぼうっと見える松明の灯火。地下から眺める夜空はとても遠く、手を伸ばしても届きはしない。
もう何年、ご飯を食べていないのだろうか。
「喉が渇いた……」
ぽつりとそう呟き天を見上げれば乾いた目からは涙は溢れてこない。
時折降る雨がこの地下牢の地面に水溜りを作る時なんて天の恵みのような物だ。
ただそれを楽しみに生きるなんてとても哀れなことだ。
幽閉された理由も、自分より背の高い天井を見上げればそれに何度も手を伸ばすが届かない。
誰かの声が聞こえてもそれは助けてくれる声ではない。
「悪魔」なんぞと呼ばれて罵倒される毎日。それが何年も続くとこうもつまらなくなる。
そうこう考えている間に遠くから声が聞こえる。
「妖怪だ!」
「大変だ、皆の物逃げろ!」
「アレはどうするの!?」
「アレは奴らの囮に――」
「きゃああああ!」
騒音が耳に入る。悲鳴や命令する声、今日はやけに騒がしい日だ。
会話の内容から妖怪が来たようだ。自分には到底関係ないと黒く汚れた髪を軽く触ってから地面に腰を下ろす。
暗く狭い檻の中は天井についた鉄格子の隙間から漏れる空の光だけが僕を照らしていた。
――遠い夜空を見上げた時、不意に何かが見えた。
奇妙な容姿をした者だ。ひょろひょろと動き、金色の何かが夜空を通して煌びやかに光る。
いや、実際は金や青、赤、緑、紫と色鮮やかな火玉が周りを舞っていた。
「……ようかい?」
人ならぬその姿に思わず、口にした。生まれて初めて見た気がする。
声に気付きようやく下を見た妖怪であろう人物は布で顔を隠したいわゆる覆面。
しかしゆらりゆらり、大きく風が吹いた時布は舞い上がった。
「そなたが神の子か?我は遠路はるばる、そなたを迎えに来た"邪鬼"という」
それが初めて出会った彼の最初の言葉だった――。