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ちょっとホラーな民俗学  作者: 尾崎 鈴
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屋敷神

今は昔の物語…

「うちの祖父ちゃんの代からの家宝なんだ、純金だぜ」


そう得意気に金で出来た招き猫を見せびらかす友人にへえとか凄いとかメッキじゃないのとか様々な感嘆の声がかかる。


「本物に決まってんだろ!うちはこの町一番の名家だぞ」


友人の家は元々は小作人の貧乏農民だったが祖父の代で法改正が起こると分配された小さな土地を担保に質屋を始めて今では小さな町の大富豪である。所謂、成金と言うやつだ。


「どうせ、本当の名家から巻き上げたお宝だろぅよ」


「そうそう、名家って言ったらお前んちだろ。すっげぇお宝とかあるんじゃね?」


うちは代々続く名ばかりの名家だ。


「ねぇよ。お前ら小作人に土地持ってかれて残ったのはオンボロ屋敷だけだぜ」


「ギャハハお化け屋敷の間違いだろ!」


そう。代々武家の分家頭で地主を生業としていた家系も小作人に貸してた土地をタダ同然で分配する世の中が来るとあっという間に没落した。


残ったのは不毛で売れなかった土地と大きな屋敷だけ。田舎過ぎて家も土地も買い手が着かなく都会に出る事も叶わなかった教科書に出てくるご先祖様の成れの果て一族である。


薄暗い屋敷と周りの雑木林のお陰で最近ではちょっとした心霊スポットとして有名だ。


「ただいま〜…これなに?」


「昨日またガキどもがうちに潜り込んで来ただろ。あいつら裏のお稲荷様の神棚開けて神様壊して行ったのよ!」


見た所、ただの腐りかけな長い木の欠片だが不法侵入に器物損壊とは今の子供は罪を知らない。


「これどうすんの?」


「そりゃ棄てるわけにもいかないし、神社でお焚き上げして貰うわ」


「お札みたいだしね。あっそうだ…うちに家宝ってある?」


「あるわよ」


「あるの?!見たい!」


何でよ出すのめんどくさいとぼやく母を急かして蔵に向かう。いつもなら自分も面倒と思うだろうがきっと何処が成金に嫉妬していたんだと思う。


「ほらっこれよ。壊れやすいから気を付けてよ」


埃まみれになりながら埃まみれの細長い木箱を母が差し出すと、自分は興奮しながら蓋を開ける。


「…なにこれ」


「槍だったか薙刀だったかだわよ。昔のご先祖様が残した物ね。まぁうちが武家だったって言う唯一の証拠かしら」


「槍でも刃先ねぇじゃん。こんなのただの棒きれだろ」


「刃先は昔の刀狩りだかで持ってかれたらしいわ」


刀狩りって豊臣秀吉が農民から武器取り上げたんじゃ無かっただろうか。結局武家でも無いのだろう。


相当ガッカリして木箱を戻し部屋に戻ってふて寝を決め込みウトウトしていると遠くで母が出掛けると声を掛けて出ていった。


「随分昔の話だが、戦に負けた儂等の一族は都を追われての…」


どの位寝ていたか隣に祖父が座っていた様だ。


「皆散々に逃げたが中には捕まり酷い殺され方をした者もおる。儂等は運良く敵方に娘を嫁がせて居たので見逃してもろうたのよ。その後はその主に仕えて功績を上げたものだ」


まるで自分の事の様に話す祖父が、なんだか可笑しかった。


「敵の時は常に憎々しく思っておったが今は大した御方といざ鎌倉の時はこの命を持ち馳せ参じる所存よ」


おいおい、いざ鎌倉とか随分昔だな。


「しかしそんな儂等は虐げられた他の一族の怨みを買ってな。良く襲撃を受けたものよ。御屋形様がそれを不憫と思い一族狩りをして撫で切りになさった。そしてもしまた残党あらば此れを使えとこの薙刀を賜ったのだ」


撫で切りってなんだろう。


「元は同じ一族と言っても主違えば刃交えるのは弓矢取りの定め。御屋形様のご恩に報いる為にはこの薙刀を振るうのも構わない」



うーん、名家の成り立ちも微妙だな。月日は流れて帰農したのか、まぁそんなもんだろう。


「もぅし…誰か」


遠くで声がする。お客さんだろう、そういえば母は出掛けていたんだった。


「はーい」


まだ寝足りないけど仕方無く起きて玄関に向かう。


「何方で…すか?」


あれ、まだ寝ているのだろうか?祖父に昔話を聞いたからかお客が鎧を着た落武者に見える。


「家の子孫か?」


「そうですけど?」


結構血糊とかリアルだな矢まで刺さっとる。


「なれば死ね」


今何て言ったのだろうかと考える暇もなく大きな刀が空を切った。一瞬退いたから頬をかすっただけでも血が滴った。


えっ何々?夢にしてはリアル過ぎるよ。


「されど同じ一族。撫で切りにあった無惨な骸を集め末裔まで弔う様に祠を建て位牌を安置いたした」


気がつけば同じく鎧を着た武者が立派な薙刀を携えて立っていた。


「えっ…」


そういえば祖父は二年前に他界していた。


「再び襲撃の暁には此れにて一刀両断致せと仰せ遣った」


そう言うと同時に薙刀が落武者の首を豪快に斬り落としたのに声に成らない悲鳴を上げた。



斬ったと同時に薙刀も折れたが、落武者はボンッと黒い煙になって霧散した。


「…何?」


気がつけば薙刀武者も消えて玄関の廻りは静寂だけが漂っていた。


夢か現か。


急いで蔵の木箱を引っ張りだし中を見ると棒きれが折れていた。


「…」


頬を触ると微かな切り傷が痛んだ。後日、母を言い含めて壊された木片と棒きれを神社では無く寺に持っていって供養して貰う事にした。


「あのー…この木片の変わりになる何かって頂けませんか?」


「…この棒、折ったの君?」


「えっいいえ。でもあの…開けた時折れたと言うか…」


「ふぅん。家宝が折れたって事は因縁も消滅したって事だ。これぞ本当の果報は寝て待てだなワハハ」


「…」


棒きれが家宝とも夢物語も話して無いのに住職には何が見えたのだろう。数日して寺から小包が届いた。開けると少し細長い仏像だった。


「あら、仏像にしてくれたのね。あの槍」


「薙刀だよ。木片の替わりに祠に入れとくよ。他には無いの?家宝。金の招き猫とか」


「何言ってるのよ。家宝って言うのはね、代々家を護る縁起物を言うのよ。そんな安値な話じゃ無いの。祠が荒されて家宝が折れるなんてきっとご先祖様が護ってくれたんだわ」


ネットで調べてみると、撫で切りとは皆殺しと言う意味らしい。皆殺しにされた一族の怨みを抑える弔い碑が壊された時、代々伝わる家宝も折れた。


"家宝が折れて因縁も消滅したって事だ"


「きっとそうだね…」


因縁を断ち斬るために何百年と眠っていた家宝。果報は寝て待てとは言い得て妙だ。


翌年持ってるだけで赤字だった不毛の裏山が土地計画で高値で売れた。


うちは何十年かぶりに年一番の高額納税者になった。

あなたの家の屋敷神様、本当は何を祀ってるんでしょうね。

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