三つ目の怪物
三つ目のバケモノが唾を左右に飛ばしながら舌なめずりをして、俺の命を狙っている!べろべろと怪物の舌が不規則なリズムで揺れるたび、脳みそがぐわんぐわんと揺れるような感じがして、今にもそこにぶっ倒れてしまいそうになるけれど、それでも俺は醤油と砂糖でしっかり炒めてやったもやしを丁寧に口に運びながら、素朴な味を一本一本余すことなく取り入れることで、どうにか必死で自分を保つことに成功した。
三つ目のバケモノは可愛い顔をしている!
…違う!
落ち着け。落ち着け。
太く黒々とした大蛇の身体に、頭のライオンのたてがみを靡かせて、大きく丸い三つの瞳をぎょろぎょろと動かすその姿は、俺の生きたいと願う意思と、死へと意識の外から向かっていこうとする衝動のキメラに他ならない。かつて俺は俺の中に、もう1人の俺がいると認識した。それは俺の闇を一手に引き受けてくれる優しい子なんだ。だから定期的にこうやってバケモノになってしまうことを、どうしても望んでしまうんだ。
それはもう。
本当に可愛くて、
可愛くて、、、。
頭の中がぐるぐるぐるぐる、
してるのを俺は何とか抑え込んだ。
三つ目のバケモノが徐々に消えていく。
消えた後に残るのはいつも、痩せ細った脚を抱えて体育座りをして、しくしくと泣いている君の姿だった。
そんな君に気付いていたのに、かつての俺は、見て見ぬふりをしていた。
自分のことだけ考えていたから、君の苦しみに寄り添うことなく、ずっと放ったらかしにしてしまって、
それが君にとってはどれだけ辛かっただろう。
ごめんね。
俺は塞ぎ込む彼を背中からそっと抱きしめた。
骨の感触が直接伝わって来るくらい、彼の身体には肉感が無くて、それが俺の胸を締め付けた。
俺に抱きしめる権利なんて無いのは分かってる。
だけど抱きしめさせて欲しい。
今まで君を突き放してしまった分、
迷惑かもしれないけれど、
今度は寄り添わせて欲しい。
彼の背中から、黒く大きな翼が羽を撒き散らしながら発現した。勢いよく発現した翼は俺の両胸を綺麗に貫いて、そのまま俺を取り込んでいく。俺は血を吐いた。全身から力が抜けていく。
しかしそれでも、
俺は力を振り絞って、
彼を抱きしめることをやめなかった。
辛かったね。
ごめんね、ごめんね…
うあぁぁぁぁぁぁ…
彼は号哭をして、身体をぶるぶると震わせていた。
また、バケモノになってしまうのかもしれない。
だけどそれでも良い。
今度は俺が一緒にいる。
そして君の攻撃性を、
全て受け止めてあげるから。




