ベイとユーアイ
しばらくして、警察が来た。
ここ何年か、似たような手口の事件はいくつか起きているらしい。
しかし、手掛かりがまるでなく、解決の糸口が見つからないらしい。
警察もきっと、あんな子供がこんな酷い事をしているとは思わないのだろう。
刑事が色々聞いてくる。犯人の手掛かりや、特徴、性別…
しかしサティーは何も答えることが出来なかった。…言えなかった。
なぜかは分からないが言ってはいけない気がした…
そして何日か経ち、他に身寄りのなかったサティーは施設に預けられる。
半年が経ち、サティーは野山さんというアメリカで暮らす日本人の所に引き取られた。
野山さんの家には、サティーと同じ年の準と言う男の子がいた。
そして、一年が経ち、春になる。この春、野山家は日本に帰国する事になった。
東華国際学園中等部に入学する事になった。
この学校は日本人だけでなくサティーのようなアメリカ人や、
中国人、フランス人、その他色々な多くの外国人が集まっている国際学校。
学校では日本語や英語を始め、色んな国の言葉の勉強もできる
準とサティーはテニスをやり始めた。
入学してから半年ほど経ち、季節は冬に変わる。
そのころ部活のほうは一年生の為の新人戦が始まろうとしていた。
初めての試合。
サティーはすぐに負けてしまう。
準の方も良い所までいったが負けてしまう。
その日をさかえに準は一日一日の殆どをテニスに費やした。
そんな努力があり、試合にはどんどん勝つようになった。
あの新人戦から二年程経つ。三年の冬。
TVまで来ている大きな中学生個人戦の試合があった。
三年生の殆どか部活を引退してしまったが、やる気のある者は参加した。
その試合にサティーと準も参加した。
二人とも夏の団体戦では地区予選落ちをしていた為、気合は十分あった。
サティーの試合。
サティー:『私だってあの新人戦以来努力し続けたんだ!』
何回か、勝つことができた。
でもみんな強者ばかり。決勝には程遠く負けてしまった。
準の方はどんどん勝ち進んでいく。そして決勝まで勝ち進むことが出来た。
お互いに一歩も引かない試合だった。そしてタイブレーク突入。
ここまで来るとお互い気力の戦い。そして粘りに粘った、準の勝利となった。
大会が終わり、中学生活も幕を閉じる。
そしてまた春が来る。
サティーの学校はエスカレーター式で殆どの人たちはそのまま高等部へと進学する。
1年2組。サティーと準はクラスが同じになった。
そして準は再び高等部のテニス部へ入部する。サティーは部活には入らなかった。
数日経ち、サティーは一人校庭を歩いていた。
その時ある男の人と擦れ違った。
サティー:「ぇっ!?」
サティーはその顔に見覚えがあった。
すぐに後ろを振り返った。
その人もサティーに気づいていたのか、こっちを振り向むく。
ユーアイ:「…サティーちゃん?」
サティーは軽く頷く。
サティー:「君はあの時の…ユーマン」
ユーアイ:「あの~…、ユーマンじゃなくてユーアイなんだけど!」
ユーアイは少し不機嫌そうにそう言う。
サティー:「ゴメン、ゴメン…でもなんで君がここに?」
ユーアイ:「家庭の事業って奴でね。高等部から」(ニコ)
サティー:「へー、そうなんだ!」
ユーアイ:「そう言うサティーちゃんは何でここにいるの?」
サティーは少し黙る。
サティー:「私も…家庭の事業って奴かな…」
少し苦笑いで言うサティー。そして俯く。
ユーアイ:「…サティー?」
あの日の出来事…
誰にも話せなかった。
なのに、まだ名前しか知らないこの人に口が勝手に開いてしまう。
母のこと、不思議な男の子のこと、ここに居る理由、私は話してしまった。
ずっと、誰にも言わなかった。言えなかったこの想いを…
でもどこかで、本当は誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
ユーアイ:「…」
サティーの話を聞くとユーアイの表情が少し変わった気がした。
ユーアイ:「…黒髪の長髪で同じ年ぐらいの冷たい目をした男…」
サティー:「ぅん」
するとユーアイの表情が段々暗くなる。
ユーアイ:「そいつの名前とかしらないの?」
サティー:「ぇ?」
ユーアイ:「そいつ、もしかして…」
その時彼はとんでもない事を口にした。
ユーアイ:「ベイ・クロフォード!?」
サティー:「えっ!?」
ユーアイ:「アイツが殺ったの?」
ユーアイは、悲しそうな顔でそう言った。」
サティー:「何で?何でアイツのこと、ユーアイが知ってるの!?」
ユーアイ:「…」
サティー:「何で黙るのよ?答えてよ!?」
次のユーアイの言葉に衝撃が走る。
ユーアイ:「あいつは…あいつは俺の…」
サティー:「えっ!?」
ユーアイ:「だからあいつは、俺の兄なんだ」
サティー:「ウソ…」
ユーアイ:「本当だよ。でもまぁ~兄って言っても親父の再婚相手の子供だから
血は繋がってないけど…でも、ベイ・クロフォードは俺の兄だ。
同い年で二カ月違いしか変わらない俺の兄…」
ユーアイは、また悲しそうな顔で言った。
ユーアイ:「俺ん家さっきも言ったけど俺の親父とベイの母親が再婚したんだ。
無愛想な奴だったけど、俺は兄弟(兄貴)が出来て嬉しくてさぁ」
サティー:「…」
ユーアイ:「でも何年か経ってベイの母親が死んで俺の親父が俺とベイの2人を育てたんだ。
今思えばその頃からアイツ、段々変っていったんだ…
そんでしばらくたって俺の親父も病気で死んで俺とベイは別々に引き取られた。
俺はこの通り元気だが、ベイの方は…」
サティー:「ベイの方は、どうしたの?」
ユーアイ:「ベイの方の引き取り主が死んでベイが人を、大人を、信じなくなった。
そして親と幸せそうにしている子供の母親や父親を次々に殺していったらしい…」
サティー:「何で、何で自分の母親が死んで引き取り主の母親が死んだからって
関係のない人を殺すの?確かに悲しかったかもしれないけど、けどそんなのって酷い…
酷すぎるよ。何でそんなことしないといけないの!?」
ユーアイ:「それは…
さっきは言わなかったけどベイの母親も引き取り主の母親も誰かに殺されたんだ」
サティー:「殺された?」
ユーアイ「ぅん…アイツ、引き取り主の母親が死んだ後、いなくなったんだ」
サティー:「いなくなった?」
ユーアイは頷く。
ユーアイ:「何日も探したけど、アイツはどこにもいなかった。
だから警察は母親の後を追って自殺したとかなんと言い出して…
それから警察はアイツを探すことを止めた。
だけど、俺はそんなの信じれなくて…それで俺アイツのこと色々調べたんだ。
そしたら似たような事件がいくつかあって、その情報とか色々聞いていくうちにアイツが殺ったんだって…確信はなかったけど、
なんか少ししっくりきたんだ。たぶんアイツは、
自分を一人ぼっちにした大人たちに復讐をしてるんだと思う」
サティー:「じゃぁママ(アイリン)が殺されたのは…?」
ユーアイ:「…たぶん、たまたまだと思う」
サティー:「…たまたま?」
ユーアイは軽く頷く。
ユーアイ:「でも血の繋がりのこと知ってたってことは、
ある程度情報を持った上でしてるんじゃないかな?」
サティーは俯く。体が震える。涙が出そうになった。
サティー:「そんな…そんな自分勝手な理由でママ(アイリン)は…」
ユーアイ:「ゴメン」
その顔は凄く辛そうだった。
サティー:「…」
本当に申し訳ないと言わんばかりに…
ユーアイ:「アイツ…今も人を信じないまま一人でどこかにいるはず。
アイツがしたこと、許してほしいとは言わない。…でも俺は、
アイツを助けてやりたい」
サティー:「…ユーアイ?」
ユーアイ:「アイツは一人じゃないって事を分かってほしいんだ。俺がアイツの側にいるって事を…」
サティー:「…それでも私は許せない。…でも」
ユーアイ:「…」
サテぃー:「でも私…私もこのまま終わらせたくない。私も一緒にベイを探す!
かならずアイツ見つけて、自分の罪の重さを分からせてやる!
自分だけが辛いんじゃ無いってこと、アイツは一人じゃないってこと…
分かってもらうまで、私はアイツを絶対に許さない…」
ユーアイ:「サティー…」
サティー:(ニコ)
ユーアイ:(ニコ)「ありがとう」




