悪役離脱予定につき
すっかり打ち解けた雰囲気のアルが、興味津々とばかりに俺に向かって身を乗り出す。
「で? 公爵家の坊ちゃんが俺になんの用? 欲しい宝石でもあるのか? 」
俺はシルに持たせていたものを机の上に載せて見せた。
「これを全て売りたいんだ。個人的にすぐに動かせる資金が欲しい」
ずしりとした袋を見て、唖然とするアル。
「すぐ動かせる金って…。ミル、金に困ってんの? なにやらかしたんだ? 」
その口調には純粋に俺に対する心配が込められていた。
だから俺も、正直に話す。
「やらかしてはいない。悪役扱いにはいい加減うんざりでな。悪役からも貴族からもさっさと離脱してやろうと思ったまで」
「いや、アンタ確か第三王子の婚約者だよな? 離脱って……無理だろ。王家が逃がすわけないだろ」
「要するに王子を公爵家に貰ってやればいいんだ。公爵家には俺以外にもうひとりいるだろう? クソ王子の婚約者の地位なんぞ、公爵家と共に弟にノシを付けてくれてやる。
実際のところ、王子もアメジストよりエメラルドの方がお好みらしくてな。ちょうどいいだろう? 」
ははあ、とアルが目を眇めた。
「そいつは確かにクソ王子だ。おっと失礼! 」
「問題ない。実際クソだからな。だから、俺を廃嫡させる。俺は平民となり、投資で得た金を元に商売をすることにした。そのためにこの宝石を売って、投資の元手を作りたい」
「いやいやいや! だからなんでそうなる⁈ そもそも、廃嫡ってされるものであって、させるもんじゃないよね⁈」
「? 君だって似たようなことをしているだろう? 」
ぐう、とアルの喉が鳴る。
何度か口を開きかけ、ようやくアルが諦めた。
そんなアルにシルが胸を張る。
「ちなみに、俺はミルについていくから! てことで、俺も平民になるつもりだ。まあ今も俺本人の爵位なんてないしな。元から平民みたいなものだし、問題ないだろう」
「シル……おまえも一応『伯爵家の将来有望な息子』だろう? 」
「つまりは、俺もシルもアルも、みんな『自ら進んで貴族を捨てる仲間』ということだな! 」
まとめた俺にアルは「何言ってんだこいつ」と言わんばかりの目を向けてきた。
何だその目は、失礼だな。本当のことじゃないか。
やがてアルは「あー! 」と声を上げクシャクシャっとその髪をかき乱すと(せっかくキレイなストレートなのに! )ため息をひとつ落とした。
そしてすっとやり手の店主の顔になり、宝石の入った袋に手を伸ばす。
どうやら深く考えることをやめ、店主モードへと気持ちを切り替えることにしたようだ。
机の下から出した手袋を嵌めると、一つ一つ手に取り光にかざすアル。
「……さすが公爵家嫡男。ざっと見た限りどれも相当なものだ。全て売るつもりか? 」
「ああ。買い取ってもらえるか? 」
「石の質も大きさも十分。これなら再加工もしやすい。全て買い取ろう」
数刻後、アルから提示された金額は、俺の予想よりもかなり上のものだった。
「……相場より多くないか? 」
「ははは! 多いと文句を言うやつは初めてだ! ダイヤ、オパール、サファイアは人気でな。品薄なんだよ。その分色をつけてある」
「そうか。助かる」
「素直だな。で? アメジストの指輪、ネックレス、カフス、ラペルピン、ピアス、イヤリングが無いな? 売らなくていいのか? 」
正しく王家から届けられた「誕生日プレゼント」を口にされた。
さすがといったところか。
俺はニヤリと笑ってみせた。
「叩き返してやろうと思ってな。 ヤツがもう用のないアメジストをどう扱うのか見ものだろう? 」
「普通は婚約者に贈るのはエメラルドだ。なのにアメジストだもんな。エグいぜ。確か、王家はみな碧眼と緑眼だよな? 」
「ああ。ちなみに俺の弟とクソ王子は緑眼。王子が身につけているのは自分の色だ」
「クソだな。なあ……もしエメラルドを贈られていたらどうした? それでも送り返したか? 」
「全部ここに並べていただろうな。送り返せば再利用されるだろう? 弟も再利用されたものでは嫌だろうしな? 」
エメラルドなら送り返された王家も困ることはない。手直しして再利用できるから。
が、アメジストでは戻された王家も使いようがない。
紫を持つ者は王家にはいないし、かといって売るにしてもあの大きさと品質だ。出どころは想像に難くない。市場に流れれば「アメジストの瞳の王家の元婚約者」の話と併せてあらぬ噂を呼ぶだろう。
「王国の第三王子のあの元婚約者のもの」だと興味本位で買い求める裕福な商人がいるかもしれない。彼らは面白おかしくそれを見せ物にするかもしれない。
全て「かもしれない」だがあり得ぬ話では無いし、そうなれば王家はいい笑いものだ。
では出どころのわからぬようにとそれを割って小さくすれば、一気に価値を失う。高価なお宝が二束三文に早変わり。
あの大きさと品質のアメジストをその価値のまま正しい用途で使えるのは、貴族では祖父、叔父、そして俺くらいだろう。
つまり、奴らには不要なものだからこそ、送り返してやるのだ。それを目にするたび、思い出すたび、奴らは自分の失敗を突きつけられることになる。
想像して思わず口元を緩めれば、語らずとも一瞬で全てを悟ったようだ。
アルはブルリと身を震わせると、興奮したように声を上げた。
「ミル……お前、最高だな! 俺もお前のこと気に入ったぜ! 」
「だから俺が前からそう言ってるだろう? 」
「いや、シル、お前がドヤるなよ。ミルに言ってんだよ」
シル「前から」って、いったい他所で何を話していたんだ。
ちょっと待て、と慌ただしくカウンター裏に消えたアルは、すぐにジャラジャラと音がする袋を持って出てきて、ドンと俺の前に置いた。
「確認してくれ」
中は全て金貨だった。
だが……
「提示された買取価格の2倍あるぞ? 」
どういうことかと問えば、急に真剣な表情に。
「お前の投資に俺も一枚かませてくれ。お前の事業にも参加したい。俺を共同経営者にして欲しい。この通りだ! 」
言いながらガバリと頭を下げられた。
いきなりの申し出。懐的には助かるが、正直困惑する。
「いや、俺がなにに投資するのかも知らないだろう? 会ったばかりの俺をそこまで信用していいのか? 失敗するつもりはないが、万が一ということもある。俺としては助かるが……君はもう十分成功している。気持ちは嬉しいが、わざわざリスクを冒す必要はないんだぞ? 」
俺の気遣いをアルはフンと鼻で笑い飛ばして見せた。
「アルテミス・マージを舐めんな? 俺はな。一流しか扱わねえ。俺が扱うのは、人も宝石も一流のものだけだ。逆にな、俺が認めたものは逃がさねえ。
その俺の勘が言っている。お前は超一流だ。リスク? 馬鹿言うな。ミルは失敗するつもりはないんだろう? 勝ち馬に乗らない馬鹿はいないさ」
「俺は馬か? 」
「ああ。しかもめったに見ない名馬だな」
「ふふ。ははは! じゃあ、乗りこなして見せろ。いいか、お前が手綱を握るんじゃない。俺がお前を乗せてやるんだ。それを忘れるなよ? 」
ぶる、とアルが身震いし、口元を手のひらで覆った。
その目の奥に見えるのは、愉悦。
「アンタ本当に15歳か? まかせろ。……最高の騎手になってやるよ」
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