アルフレッド・マージェスという男
返答次第では俺も「いけすかない貴族連中のひとり」だと切り捨てられるのだろう。
だが、別におかしな理由ではない。
「最初からだ。10歳で従者になって以来ずっと俺についていたシルが、この『秘密の宝石店』を知っている理由を考えた。
宝石が目的で知り合ったわけではないだろう。シルは宝石には興味がないし、俺がシルに頼んだことも無いからな。
ということは、店主と個人的な付き合いがあったから。
伯爵家の三男であるシルの知り合い。可能性としては街で出会う、もしくは学生時代の同級生。
仕立ての良いドレス、シンプルだが最高の素材・最高の縫製の服。なかなか手に入らない茶葉。それに、どんなにガサツにふるまおうと育ちは出るものだ。アルテミス、マージの店、アル、マージ。
放蕩物の長男だと言われるマージェス伯爵家のアルフレッド・マージェス。きみだろう? 」
ぐるりと振り返るアルに、シルが「俺は何もいっていないぞ? 」と両手を挙げた。
「……ではなぜ『お前も大変だろう』と言った? 俺は放蕩物の長男だぞ? しかもおかしな格好で好き勝手にやっている変わり者だ。いい兄だと? 堅苦しい貴族というものを嫌って、家を飛び出し弟に押し付けた兄が? 」
「シルの友人がそんな男のわけないだろう?」
当たり前のことを聞くな、と睨め付ければ「マジか! そうか、シルかぁ」とアルの肩から力が抜けた。
どうやら排除されずに済むようだ。
「マージェスの長男は不義理をして家を出た前妻の子。次男は後妻の子だというのは有名な話だ。後妻である現夫人はとても素晴らしい方だそうだな。教養もあり、かつ包容力にあふれた優しいお方だと聞く。アルの弟も同様。真面目な好人物だ。彼は俺の弟とは違い、兄を立てて君にとても懐いていたのだろう? 」
「……」
無言は肯定だ。
「………君は優しい男だ。そして、義母と弟を、父をとても愛している。そんな君が父を裏切った実の母と、その子である自分をどう思うか。そう考えれば君の行動に説明がつく。まだ続けた方がいいか? 」
「いや。もういい。十分だ。……まさか見破られるとはな。あ、一応言っておくが、親父に強要されたわけじゃねえぞ? 俺がしたくてやったことだ」
「そんなことは分かっている。わざわざ家族と弟のために放蕩息子のふりをして家督を譲る兄。それを理解しつつ、兄の意志を尊重し、兄をさりげなく支える家族。うちと違って素晴らしい家族だと思うぞ? 幸せ者だな、アルは」
「全て知ったうえで俺を『幸せ者』だというのか? はははは! 参ったな、これは! 」
大笑いしたあと、アルは身を乗り出すようにして生き生きと語りだした。
その目は興奮と喜びにキラキラと輝き、口元は隠し切れぬカーブを描いている。
「そうなんだよ、俺は好きでやってるんだ。幸せなんだ! こういうのが俺の性分に合っている。
元々宝石が好きでさ。母がいたころは、母が集めた宝石を並べて眺めて過ごしていたんだ。子の面倒をみるような女じゃなかったからな。そうやって一日中遊んでいたんだよ。
その趣味が高じて、自分で加工するようになった。こっそり道具を買ってさ。まずは石ころから初めて。
学生時代、宝石職人の師匠のところに通っていたのがこいつにバレてな。それから協力してもらってたんだよ」
こっちがこの男の素か。うん。やはり悪くない。
シルがアルの話を補足した。
「買い出しで街に行ったら、どう見ても貴族の坊ちゃんがこそこそ路地の店に入っていくから、何事かと思ってな。
それがこいつだ。
放蕩者っていう割に授業も真面目に受けているし、それなのに成績は悪い。どう考えても手を抜いてやがるだろ? だからおかしいと思っていたんだよ。で、ついでだっていうんで問い詰めて白状させたわけだ」
「つまり、シルは俺の共犯者ってわけ」
パン、と手と手を打ち合わせた二人。
なんだ。すごく仲がいいんじゃないか。
俺はムッと唇を引き結んだ。
すっと片手を上にあげる。
「? どうした、ミル」
「? 」
「俺にもそれをやれ」
「「は? 」」
強引に二人の手を取り上げさせた。
「さっきのやつ、手を合わせるやつだ。俺にもしろ。俺だってアルの共犯者になったんだから、される権利はある」
あんぐりと二人の口が開いた。
「え? もしかしてミル、寂しかったのか? 」
「は? ミルもやりたかったのか? 」
ふは、と笑い、パン、パン、と交互に手を合わせてくれた。
こういうことをしたのは初めてだ。手がジンジンする。
「……」
俺は叩いた手をじっと見つめた。少し赤くなっている。
「いい音がしたな。ジンジンと熱い。……悪くない」
小さく呟けば、アルが震える声で言った。
「なにこのかわいいの! 悪役? 言ってるやつ、馬鹿じゃねえの!? 」
「だろ? 見る目がねえよなー? 」
「? 可愛いか? 可愛げがないとか、表情が変わらないとか言われているんだが。だから悪役扱いされている」
事実を述べたのにシルが笑う。
「そりゃ、面白くもなきゃ笑わないだろ? ミルはかわいいよ」
「ああ。シルの言ったとおりだ。かわいいな、これは」
「……そうか。かわいいのか」
シル以外に初めていわれた。
うん。……悪くない。
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