公爵家のその後
後日、公爵家のその後について、ルディアスから説明があった。
ルディアスは、これまでのことを正直に王に話したのだそうだ。
レオリースをそばに置き、俺の悪評をそのままにしたことなども含め、全てを。
その上でミルリースを愛していると告げ、せめてもの償いとして、ミルリースが希望するよう公爵家からの除籍を後押ししてほしいと願い出たのだという。
その際には公爵の目論見、公爵たちの俺の扱いや暴力も全て伝えた。
ルディアスは王族としてあまりに軽率な行動を厳しく叱責された。
王は、ルディアスとレオリースとの噂もすべて把握していた。それをルディアスがどう収めるのか、どういうつもりなのかを含め、決断を待っていたようだ。
王はルディアスがこのまま俺を使い捨ててレオリースを選ぶようなら、ルディアス有責にて婚約解消をするつもりだったという。
皮肉なことに、ルディアス自ら罪を自覚して、レオリースではなく俺のために婚約解消に動いたことで、ルディアスの首も繋がったのだった。
王はこう仰っていたそうだ。
「『公爵家の当主にお前を』というこの婚約は、お前のために無理を通した結果なのだ。本来当主となるべく育てられたミルリースの犠牲の上に成り立っていたもの。王族としての教育はなさずとも、人として一貴族として、お前はミルリースを大切にすべきだった。
だからこそ、それも分からぬようならば、王家の責任としてお前の廃嫡もやむなしとあきらめていたのだ。
……気付いてくれてよかった。
ミルリースには申し訳の無いことをしてしまった。
レオリースと同じくミルルースも公爵の実の息子。にもかかわらず公爵がそのような扱いをしていようとは思ってもいなかったのだ」
側近が諫めなかったこと、これまできちんとした王家の教育をされていなかったことなどを考慮され、ルディアスに表立った罰は与えられなかった。
そのかわり「一貴族として」厳しい教育がなされることになったのだという。
「私はお前が不憫で甘やかしてしまった。王族の教育はできずとも、もっと厳しく教育すべきだった。それは私の責。ルディアス、すまぬ」
そう言われ、ルディアスは何か吹っ切れたような気がしたそうだ。
「私は見捨てられていると、公爵家に捨てられるのだと思っていた。
だが、きちんと愛されていたのだ。
ミルリース、私がふがいなかったばかりにお前を巻き込んでしまってすまなかった」
「……いや。俺は今幸せだから。それでいい」
公爵たちの行為については、王家が介入することになる。
理由は公爵が「王族の婚約者であるミルリース」を虐待し暴力をふるったこと。
また、次男だけを優遇し、王家との婚姻解消を招いたこと。
ルディアスにも非があったため公爵家自体は存続させることとし、公爵夫妻に沙汰が下された。
ルディアスと公爵家との婚約は継続。
ただし、その相手はレオリースではない。
公爵家には遠縁から優秀な者を養子にとらせ、その養子を後継に。その養子がルディアスの婚約者となるのだという。
そして、ルディアスが公爵家入りすると同時に、公爵夫妻は家督を譲り隠居の身となることが決まった。要はお家乗っ取りの上、島流しということだ。
彼らに残るのは「元公爵」という肩書きのみ。田舎の寂れた領地に送られて、社交を断たれ、最低限の生活を送ることになるという。
ちなみにルディアスは学校を卒業次第、婚姻となる。
彼は苦虫を噛み潰したような表情で教えてくれた。
「ミルリースには伝えておこうと思う。
養子候補というのがな、最有力候補は公爵家の遠縁の子爵家の次男で、私より5つ年上なのだ。学力はもちろん、武術にも長けている非常に優秀な人物らしい。
これから顔を合わせることになるのだが……なんというか……背も高く美丈夫という言葉がふさわしい人物なのだそうだ」
「!それって……」
こういってはなんだが、ルディアスはたくましいとか男らしいタイプではない。
俺と並べば男らしく凛々しく見えるのだが、あくまでも俺と比べての話。元来はスラリとした美形タイプなのだ。
その相手が武術に長けた長身の美丈夫。ということは……
ルディアスが苦笑した。
「うむ。公爵家当主となるのはその養子なのだ。私は彼の妻として公爵家に降嫁することになる」
俺はあんぐりと口を開けた。
ルディアスがまさか、嫁の側とは!
よく本人も納得したものだ!
「言いたいことはわかるぞ?
まさか自分が妻となるなど想像したこともなかったが……仕方あるまい。私には当主たる能力も器もないのだから」
「いや、そんな……まあ、確かにそうだが…」
「はは!正直だな。いいんだ。分かっている。悔しいが、私は兄上たちほど優秀ではない。ただ王族だというだけの凡人なんだ。今までは気づかぬふりをしていただけだ。分かっていた」
寂しそうな口調に、俺は何も言えずに口をつぐんだ。
「いまさらだが、私はな、ミルリースが好きだった。一目惚れだったんだ。
なのにつまらぬ照れからお前を拒絶し、そのままずっと意地になって貶めてきた。お前の窮状から目を逸らし、公爵側に加担してしまった。愚かだった。
おまけに当主として学ぶべきことをミルリースに全て丸投げし、その犠牲の上で胡坐をかいてきた。
その結果なのだ。受け入れるしかなかろう?
まあ、そういうわけだ。
私は子は産めぬからな。公爵家の血筋から養子をとり育てることになるだろう。
要は、これが今回の私と公爵家への責任の取らせ方ということだ。
お前のこれまでの辛さを思えば、甘い罰だがな」
いや、それにしても可愛がっている王子を嫁側にするとは!過去の例を見ても王子が降嫁など聞いたことがない。
確かにこれは罰なのだろう。
廃嫡まで考えていたようだし、王は単なる親バカではなく存外に公平な人物だったようだ。印象を改めねば。
王は普通にルディアスと公爵家の婚姻を望んだだけ。
つまりこれまでの俺の公爵家での扱い、全てを俺にさせようと教育漬けにしたのは、主に公爵たちの思惑のせいだったのだな。切り捨ててやって良かった。
公爵家当主という立場にこだわってきたプライドだけは高い公爵は、王の命により公爵家の乗っ取りを許すことになる。
王家による当主すげ替えという明らかな「無能扱い」を公爵はどう感じるだろう。
今後彼らは「無能の烙印」を押された屈辱とともに生きていかなくてはならないのだ。
しかしこれに異を唱えれば「第三王子の婚約者に手を上げた不届きもの」として断罪されることになる。その場合も爵位を失うか降格は免れない。
どちらにしてもいい笑いものだ。
貴族は容赦がない。これまで彼が貶めてきた格下の者たちが一気に彼に牙を剥く。
彼にとってはさぞ辛い罰となることだろう。
ここまで話をした上でルディアスは姿勢を正して俺にこう問いかけた。
「ミルリースの意見を聞きたい。
ミルリースは公爵家自体は残したいのではと考え、公爵家の名を貶めぬようこの措置となった。
私は君の代わりに公爵家をしっかりと支え繋いでいくよう尽力するつもりだ。
さらに厳罰を望むか?どうしたい?
君の望むようにしよう」
まさか、俺に意見を聞いてくれるとは!
ルディアスも随分変わったな。
しっかりと自分の目で見て考えられるようになった。
「……聞いていいか。レオリースはどうなる?」
「レオリースは、俺の降嫁と同時に公爵家を出て寮に入れる。
私も彼を諌めず利用したのだから、彼について責任がある。彼の卒業までは面倒を見るつもりだ。その後は…家督を継がない貴族の次男と同じように自ら身を立てることになるな。
後ろ盾を失った、何の能力もない彼を婿に望むものはおるまい。つまり卒業後は下級貴族の妻になるか平民となる」
そうか。
今まで何もせず甘えながら生きてきたレオリース。
これから高等学校卒業までの4年間で様々なことを学び、身を立てる術を見つけなければならない。
殿下という後ろ盾を失い、一芸もなく、学力も低いうえに武術も身についていない彼にはかなり辛い4年間になるだろう。
だが、必死にやるしかない。レオリースにはもう後がないのだから。
「……俺は朝から夜遅くまでひたすら貴族教育と勉強を詰め込まれて過ごしてきた。
辛かったが、確かに身に付いたものもある。
レオリースには卒業までこれまでの俺に課せられたのと同じ教育を与えてもらいたい。
それがレオリースへの罰だ」
そうすれば4年で最低限の生きる術くらいは身につくだろう。
貴族の妻か下級の文官くらいにはなれるかもしれない。
「分かった。手配しよう」
最後にルディアスからこんな提案があった。
「商会を持ったと言っていたな?
父からの伝言だ。
ミルリースには辛い思いをさせた。表立って謝罪はできぬが、ミルリースが望むなら慰謝料代わりに王家が商会の後ろ盾となる。考えておいてくれ、だそうだ。
これは王家御用達の印だ。使うか使わぬかはお前にまかせる。好きにすると良い」
まさかそこまでしてくれるとは思わなかった。
きっとルディアスが交渉してくれたのだろう。
これまでのルディアスは嫌いだったが、今のルディアスとなら仲良くなれたかもしれない。
「有り難く頂戴しよう。これがあれば平民となっても貴族と対等に渡り合える。
ありがとう……ルディ」
ルディアスが嬉しそうに笑った。
こんな笑い方は初めてみる。
「ああ。これまでのお前の努力の結果だ。
こちらこそありがとう。今まですまなかった。ミル」




