表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。  作者: をち。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/62

公爵家の内情とルディアスの覚醒

シルが「大丈夫ですか?」と俺を助け起こしてくれた。

小声で「やりすぎだぞ」と言われてしまう。これは後でシルから説教されるな。

でも、殴られた甲斐はあったぞ?


俺は腫れた頬をあえて皆に見せつけながら、堂々と胸を張って立つ。


「私を公爵家から除籍していただきたい。

理由は公爵家からの言われなき誹謗中傷、暴力。加害者は公爵、被害者は私、その証人は殿下です。

また、王命は『第三王子と公爵家の嫡男との婚約』であったはず。したがって婚約破棄となります。

よろしいですね?

認めていただけない場合は、貴族院に公爵の暴力とこれまでの仕打ちを訴え、除籍を願い出ます。

貴族院を敵に回すよりこのままお認めいただく方がよいと思いますが……」


後で医師の診断書を提出いたしますね、と付け加えれば、公爵の顔色がサッと失せた。


「ま、まさか、そのために…!」


それには返事をせず、どちらとも取れる笑みを浮かべてみせる。


「これでレオリースは嫡男となり、殿下と婚約できます。公爵のご要望通り公爵家に殿下をお迎えできますよ?

それでいいではありませんか?何がご不満なのです?」


「レオリースに公爵家の仕事ができるわけがないだろう!公爵家を潰すつもりか!」


その言葉にレオリースがショックを受けていた。まさか自分にまともな仕事ができるとでも思っていたのか?


しかし何故そこまで俺が気にする必要が?

俺は困ったように眉を下げる。


「なら……なぜもっと早くにレオリースをいさめなかったのですか?

あなたが蒔いた種です。もう全てが手遅れなのですよ」


そして「お手上げだ」と肩をすくめて見せた。

そんな俺を憎々しげに睨みつける公爵が口を開こうとするのを片手でとめる。


「公爵のお考えは分かっております。

ミルリースと殿下を結婚させ、公爵家の運営や仕事や面倒事は全てお飾りの妻ミルリースに。

大切な息子であるレオリースは、殿下の寵愛を受けながらこの公爵家で共に幸せにくらす。

レオリースは仮の妻でも迎えさせ、後を継がせる子を1人産ませさえすればいい。

そうすれば公爵家は安泰。公爵は可愛い息子レオリースを手放さずにすむ。

私以外にはなんと都合の良い、まるで夢のような話ではありませんか?」


図星をさされ、さすがの公爵も夫人も二の句が継げずにいる。

こうして言葉にされればなんとも外聞の悪い話だからだ。


一方、ルディアスの顔はみるみる怒りに染まった。

俺をお飾りの妻にしてレオリースを愛人に、とまではさすがに考えていなかったらしい。

憤怒の表情で公爵を睨む。


「ま、まさか、貴様らそのような……!なんという愚劣なことを!

そもそも、私にはレオリースを愛してなどいない!

愛しているのはミルリースなのだ!」


何を馬鹿なことを。ではレオリースをどうするつもりでいたんだ?

通常なら、家督を継がない次男以下は身を立てるために学力や武術、なにかしら一芸を身につけさせるものだ。

しかしレオリースは甘やかされるだけ。学力は底辺、武術もからきし。愛嬌以外には何もない。身を立てる術がないのだ。

明らかに殿下の愛人扱いで「このまま公爵家に寄生して生きる」のを前提とした甘やかしをされていたではないか。

それに気付かなかったというのなら、愚かだというほかならない。


本妻が俺だという前提だからこそ成り立つ都合のいい夢物語。

都合の悪いことを全て俺に押し付け、負わせてきたのが、この公爵家なのである。


「とにかく、殿下がどうあろうと関係ありません。

私は公爵家に都合よく使い潰されるつもりはありません。

私は廃嫡されます。平民となり、当然殿下との婚約も破棄となります。後はお好きになさってください。

ご理解いただけましたか?

ご理解いただけない場合は訴えるのみ。そうなっては都合が悪いのでは?

素直に除籍していただけるのなら、私からは被害は訴えません。後はあなた方でお好きに」


「いいかげんにしろ!ミルリース!お前は……


「いいかげんにするのはお主だ!公爵!」


ルディアスの怒声が公爵を圧した。


「ミルリースが私の婚約者だというのなら、なぜ王族の婚約者に手を上げた!不敬であろう!

お主は王族の婚約者を虐げたのだ!

これまで毎回レオリースを同席させたのはなぜだ?なぜレオリースを諫めなかった!

ミルリースを使い潰し、愛する息子と暮らすために私を都合よく使うつもりだったのか⁈

私たちを舐めているのか⁈」


「そ、それは……単なるミルリースの憶測にすぎません!

殿下、ミルリースのわがままに惑わされてはなりません!

単にかわいいレオリースに嫉妬して馬鹿なことを言い出しただけなのです!」


「ならばなぜレオリースがわざわざ嫉妬させるようなことをするのを許すのだ?

このような事態を招いたレオリースを責めず、なぜミルリースばかりを責める?ミルリースも同じ息子ではないのか?

今回のことで目が覚めた。お主ら……まるでミルリースを憎んでいるかのように見えるぞ。なぜ実の息子にそんなに辛く当たるのだ」


ルディアスが痛ましそうに俺を見た。

ようやく、ようやく彼は理解したようだ。

自分が俺に何をしてきたのか。俺がどんな気持ちで過ごしてきたのかを。






「……殿下、その訳をお話ししましょう」


決めた。俺は今日、全ての毒を出す。

ふう、とひとつ息を吐き、ひたと公爵を見つめ語りかけた。


「公爵、幼い私は、父を母を愛し尊敬するあなた方の息子でした。

私はあなたの父でも弟でもありません…あなたの息子だったのです。

だが、あなたはそうは思わなかった。私はあなたが憎むあなたの父であり、弟だったのです。

あなたは、出来の良い父と優秀な弟に囲まれ

『出来の悪い嫡男』『兄と弟が逆なら良かったのに』と周囲に言われていた」


その言葉に公爵の顔色が変わった。怒り、苛立ち、焦燥、様々な色がよぎる。


「や、やめろ!違う!勝手な憶測でものを言うな!」


「公爵!黙って聴くのだ!

続けてくれ、ミルリース。私は聞きたい」


公爵を一喝して黙らせるルディアス。ルディアスも俺と同じように覚悟を決めた顔をしている。

俺は頷いて続けた。



「……あなたは努力してそれを克服するのではなく、単に逃げたのです。

2人に劣等感を募らせ、劣等感を抱かせる2人に憎しみを募らせた。

2人から虐げられたわけでも、何かされたわけでもない。あなたはただ自分が評価されないことを、2人のせいだと責任を転嫁したのです。

その劣等感と憎しみは、嫡男として公爵家を継いでからもあなたを苛み続けた。

あなたはこう思っていたはずだ。いつか見下してやる、思い知らせてやる、と。

ところが家を出ることになった弟は、隣国の高位貴族に見初められ、優秀な妻として幸せに暮らすことになった。

見下すことはかなわず、あなたは恨みを募らせた。

そこに生まれたのが父と弟と同じ色を受け継いだ私、ミルリースです。

あなたは私の髪を、目を見るたびに、忘れたはずの劣等感を刺激され、いつしか私を憎むようになった。私が優秀であればあるほど許せなかった。

そして私を虐げ貶め利用することで自分の劣等感を誤魔化し、優越感に浸っていたのです。

レオリースを可愛がるのは、レオリースはあなたの分身だから。レオリースならあなたを脅かさずあなたの劣等感を刺激しないからです。

そうですよね、公爵。

ああ、返事は不要です。あなたは認めないでしょうから」


誰も言葉を発するものはいなかった。

レオリースさえ顔色を失いショックを受けている。

そう、レオリースへの愛も所詮はまがい物。公爵が愛しているのは自分自身なのだ。


「もう一度いいます。

私は祖父でも叔父でもなかった。あなたを父として慕い、あなたに認められたいと願う貴方の息子だったのです。

その気持ちは……昔のあなたと同じだったのでは?」


俺のこの言葉に公爵はハッとしたようだった。

初めて見るような顔で俺を見る。

彼は……ようやく俺に、父でもなく弟でもなく俺という人間に気付いたようだった。


「あなたは…自分の辛さと同じ、いやそれ以上の辛さを私に与えてきたのです。

それを理解していますか?」


はく、と公爵が空気を食んだ。

はく、はく、と何度か口をあけ、そしてつぐんだ。

そう、それでいい。今さら答えなど求めていないのだから。




俺は夫人にも語り掛けた。


「夫人も同じです。

あなたと公爵は似た者同士だ。だからこそ、祖父は父との結婚を認めようとせず、なかなか家督も譲らなかった。

あなたはそんな祖父を恨み、憎み、夫と同じように俺を祖父の代理として見るようになった。

祖父に言えなかった苛立ちを、鬱憤を、怒りを俺で発散するようになった。

俺は祖父ではありません。ミルリースと同じ、母を求めるあなたの息子だったのです。

甘えたかった。触れ合いたかった。優しくされたかった。頭を撫でて抱きしめて欲しかった。頑張りを認めてほしかった。……愛してほしかった。

そんな当たり前の子供だったんだ、私は!」


夫人の顔に衝撃のようなものが浮かんだ。


「あ、あなた…」


「この数ヶ月、私は…生まれて初めて我慢するのをやめました。

あなた方に禁止されていた感情を、気持ちを抑えるのをやめてみました。新たな仲間には甘え、気持ちを伝え、触れ合い……本当の私を見てもらいたい、受け入れて欲しいと願ったのです。

あなた方のように『貴族にふさわしくない』『見苦しい』『感情を出すな』などとは誰も言いませんでした。

新たな友人は、仲間は…俺を受け入れてくれた。甘やかし、頭を撫で、褒めてくれる。認めてくれたんだ!

今、俺にはシル以外にも沢山の友が、仲間がいる。欲しかった全てはシルが、友人が、友人の家族が与えてくれた。

だからもう我慢はやめだ。これからは、俺は俺を取り戻す。あなた方の意見など必要ない」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ