俺たちの邸
結果として、マージェス伯爵家訪問は大成功だった。
マージェス家の皆さんはとてもやさしく温かく、まるで家族のように俺を受け入れてくれ「いつでもいらっしゃい」と言ってくれた。さらに商会の件に関しては、オルフェのみならず伯爵まで「商会をあげて協力しよう」と約束してくれたのだ。
「アルの頼みだからというのもあるが、ミルくんとシルくんの商会なんだ。我々も協力させてもらおう。
私はこれでも商会のトップだ。単に情に流されているわけじゃない。君たちだから信用できる、成功すると確信しているんだ。
だから我々も提携させてもらう。勝ち馬に乗らない馬鹿はいないだろう?」
アルとそっくりの物言いに思わず笑ってしまった。
アルのあの包容力はママから、商才と豪胆さは伯爵譲りなのだな。
素晴らしいご家族だ。
一方、邸もちょうどいいものが見つかった。シルのOKは出ていると言うので、出かけついでにアルが案内してくれた。
それは、俺の言った条件にピッタリと当てはまる邸宅だった。
大通りから1本外れた通りのはずれ、一区画を丸々占めてその邸宅はあった。
元々は服飾デザイナーの店舗兼作業場兼自宅だったのだそうで、布や在庫などを置く倉庫まで完備。
客用の馬車の乗降場まで備え付けてある。
「こ、これは……すごいな!」
「だろ?ミルから話を聞いたとき、ここしかないと思ってさ!
ここは俺の知り合いの持ち物なんだ。
だが、数年前に身体を悪くしてな。療養をかねて田舎街に引っ越したんだよ。
それでここを売りに出してるんだが……気に入った相手にしか売らないと言い張ってな?
その選別は俺に任されてるってわけ!」
そこまで信頼されているとは!アルの人脈と人望はやはり素晴らしい。
正直、ここを見たとたん俺は魅了されていた。
木造やコンクリートではなくレンガ造りの建物。
きれいに整っているのではなく、あえて古いレンガを入れ込んだりしているところに、住人のこだわりが見える。
さすが、デザイナーが住んでいたというだけあってモダンでありながら古き良き時代を思わせる造形。
しかも店舗兼、事務所兼、住居として使っていたそうなので、俺たちの目的ともぴったり合致する。
使い勝手も良さそうだ。
店舗を兼ねていたというだけあり、入り口は二つ。
まずは左手のドア。建物の一階部分の半分はいわゆる店舗だ。道路側からガラス張りのショーケースが良く見える。ここに扱っている商品を並べるのも良さそうだ。
右がプライベートのドアとなっているようだ。
「俺が気に入った相手ならいいって言われてるんだが……どうする?中も見てみるか?」
「ぜひ頼む!」
「よし!なかなかすごいぞ?期待してくれ!」
中は外観以上に素晴らしかった。
右手の入り口から入ると小さなホールがあり、ソファセット、テーブル、棚などが配置されていた。ここで簡単な商談もできそうだ。
正面にある階段をはさんだ左手に、倉庫と店に通じるドアがある。
店との行き来にも配慮されているようだ。
右手奥には簡易キッチンがあり、来客にすぐお茶が淹れられるようになっていた。
中央にある階段を上れば、そこからがプライベートゾーンとなる。
2階右手にはいくつかの客室、簡易的なキッチンと食堂、居間、風呂やトイレなどがあった。
左手、店舗の上に当たる部分は、事務所に使っていたらしい大きな部屋と、その奥にいくつかに区切られた個室。
キッチン、食堂、風呂もある。
そして三階。
ここにもキッチンと食堂があり、私室がいくつか、居間にしていたのだろう大きな部屋があった。
全ての階にトイレや風呂、簡易キッチンが備え付けられており、来客や、住み込みの従業員などにも対応できそうだ。
少し手を加える必要はあるが……俺の脳裏にはシルと俺の部屋、客室、居間……そこで生活し、商会を運営する俺たちの姿がまざまざと浮かんだ。
裏には裏庭もあり、とても居心地がよさそうだ。
邸宅の横の倉庫も、下ろした荷を一旦そこに運び込むのに非常に都合がいい。
「ここだ。ここしかないと思う。
シルもそう思うだろ?」
いつの間にか口に出していた。
シルが満足そうにうなずいているのが見える。
「ああ。俺もここがいいと思った。
だが、本当にいいのか?色々見てから決めてもいいんだぞ?」
「だな。ミルは他の邸とか見たことねえんだろ?なのにこんなに簡単に決めちまっていいのか?」
だって、見えるんだ。ここで暮らす俺たちの姿か。
外壁がタイルや木製ではなくレンガだというのも非常に気に入った。
公爵家は全体的に白を基調とした建物なので、キレイではあるが薄ら寒いような印象なのだ。
俺はそれが嫌いだった。心まで寒くなるような気がしたからだ。
だがここは全体的に温かみがあり、土や風を感じられる。
窓も多く、外の光をふんだんに取り入れられるようにもなっていた。
中も使い勝手がよさそうだ。
商会と、自宅をうまく使い分けができるようよく考えて造られている。
「ああ、シル。ここがいいんだ。俺はここに住みたい」
はっきりと断言する。
ここは俺の邸だ。俺たちの商会のためにあるんだ。
「アル、契約したい。すぐにでも。
持ち主に連絡してもらってもよいだろうか?」
「ふは!すんげえ乗り気じゃねえか!
……実はミルがそういうと思ってもう連絡はしてある。
『大切にしてくれ』だってさ!」
「で、ここに契約書がある。まだ向こうには渡していないが……これでいいか?」
シルが懐から取り出した一枚の紙。
それは、シルがこの屋敷を買い取るというものだった。
「!!シル!お前の契約で、しかも買取になっているぞ⁈
こんな金をどうしたんだ? お前にこんなリスクは負わせられない。俺の信託財産を使わせて欲しい」
するとシルがしてやったり、と笑う。
「これでも伯爵家の3男だぞ?それなりの信託財産はある。
それにこれまでの給料だってあるんだ。なんていったって10年分だ。
それを投資に回してきたからな。これでも金に困ってはいねえよ。
ミルとアルの出資金で商会を始めるのは納得がいかないんだよ。俺にも出資させてくれ。
俺とミルの商会なんだろう?」
そうか。俺に突き合わせるのだからと思っていたが……。
もうシルと俺は対等なんだ。頼っても……いいのか?
「…………いいのか?本当に?」
「ああ。もう金も用意しちまったからな!俺に恥をかかせるなよ?」
「ふは!ありがとうシル。じゃあ、俺は家具や内装を整えよう!それくらいは任せてほしい!」
「……なんか新婚の新居選びみてえだなあ。シル、ミル、俺ここで聞いていていいのか?」
アルがからかうようにツンと俺の頬をつついた。
「新婚ではないが、俺とシルの新たな始まりだからな!」
「新婚みたいなもんだから!な、ミル!幸せにしてなろうな」
「ああ。マージェス家のように暖かな邸にしたい。楽しみだな」
「俺の、俺の部屋も用意してくれよ!遊びにくるから!」
主張するアルに、シルがそっけないセリフを投げる。
「家賃とるぞ」
「ええー!俺、業務提携先だし、出資者だよ?優遇してくれても罰は当たんねえぞ?なあ?ミル!」
「ああ。なんならアルもここに住むか?部屋は余っているし、楽しそうだ」
「マジか!いや、アルはアルで自分の邸があるしな?自分の仕事もあるだろう。
部屋は用意してやるから、泊まりにくればいいと思うぞ?な?」
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