楽しいバーベキュー
「話はまとまったか?」
席を外していたアルがひょいっと顔を出した。
「ああ、アルのおかげでな。ありがとう、アル」
礼を言えば、アルは「これはその礼ってわけか」とオルフェを見る。
そう、オルフェは未だに俺の頭を撫でてご満悦中なのだ。
「いやあ、最高に癒される……」
シルはとうの昔に諦め、無表情でグダグダしている。「まあ、単なる猫好きが猫を愛でているだけだと思えばな。なんとか耐えられんこともない」のだそうだ。
アルは兄らしくオルフェの頭をコツンと小突いた。
「さあ、そろそろ子猫を解放してやれよ?お楽しみのバーベキューだ!」
「そ、それは前に言っていたものか?目の前で大きな肉を焼くやつか?!」
思わずガバリと身を起こした俺に、オルフェが「おわっ!」と驚いている。
「ミルは肉が好きなのか?」
「ああ!焼きたての肉の塊が食べてみたかったんだ!切ったりせずにそのままかじりつくんだろう?」
ワクワクが止まらない。
だって、絶対に美味しいに決まっているのだ!
「こいつ、公爵家でいかにも貴族な飯を義務的に食ってきたからさ。そういうのに憧れてんだよ」
シルがポンポンと俺の髪を直しながら解説してくれる。
その言葉で一気にオルフェが「ああ」という表情になった。
「ウチと違って公爵家は厳しそうだからなあ……。
よし、ミル!お兄さんが沢山焼いてやるからな!いっぱい食って大きくなるんだぞおお!」
「!ああ!たくさん食べる!!大きくなれるだろうか?」
「ウチの肉を食えばどんなチビッ子だってでかくなる!兄さんと俺を見てみろ。デカいだろ?」
アルも高身長だし、オルフェもかなり高身長。おまけに体格もいい。
これは肉のおかげだったのか!
「た、確かに!!ここの肉には何か特別な力でもあ……
「ねえよ!」
興奮する俺に、アルが鋭くツッコミを入れてきた。
「ミル、騙されるな。適当に言ってるだけだからな?オルは食う量が半端ねえんだよ。
あんだけ食えばそりゃ嫌でもデカくなるだろうさ」
「ミルだってたくさん食えばいいだろ?大丈夫!任せろ!
ミルがたくさん食えるように、このオル兄さんがうまーい肉を焼いてやるから!」
「おい、オルフェ!オル兄さんって、誰だよ」
「俺だって兄さんになってもいいじゃないか」
「俺だってアル兄さんって呼んでくれてないんだぞ!」
訳の分からない言い合いを始めた兄弟。
するとそこに夫人が加わった。
「あら。だったら私もママって呼んで欲しいわ。可愛い子にママって呼ばれてみたかったの」
「母さん!何しに来たんだよ」
「アルが呼びに行ったままなかなか戻らないから、みんなを呼びに来たんじゃないの!
ミルくん。私のことは、ママ。もしくはアルママって呼んでね?」
「あ……アル、ママ?」
「きゃあああ!いいわねえ!なあに、ミルくん」
「ちょっと母さん。ずるいだろ!俺は?オル兄は?」
「お……オル、兄?」
とたん、「グハァッ!」と胸を押さえるオル兄。
「………いい!兄って響き、最高!」
そんなオル兄をしっしっと片手で追いやりアルが言った。
「ミル、無理しなくていいんだぞ?こんな奴ほおっておいていいからな?」
「いや、あの、俺も、俺も嬉しいから」
シル以外、家族なんて俺にはないも同然だったから。
ママと呼べる人ができて、兄と呼べる人が増えたのはすごくうれしい。
「アル」とアルの名を呼びながら服を掴む。
「あのな、アルのことも兄みたいに思っているから。信頼してるぞ」
ママが叫んだ。
「アル!こんな可愛い子、どこで見つけたの?!」
シルがぎゅうっと俺を抱きしめながら大声で怒鳴る。
「ミルは俺のですって!俺のですから!!ママや兄というのは許しますが、絶対にあげませんからねっ!!!」
「シルも大好きだぞ?」
庭に出ると、なんと当主自ら肉と格闘していた。
メインディッシュとなる大きな肉を焼くのは代々の当主の役目なのだそうだ。
その焼いている肉を見て俺はあんぐりと口を開けてしまった。
なんというか……デカいの概念が違う。
俺の思っていたデカいは、拳だとかそういう感じ。
でも、ここのデカいは……岩だ。巨大な岩石だ。
「どうだ、すげえだろ!」
自慢気にアルが胸を張るのに、こくこくと頷いた。
凄すぎて言葉も出ない。
庭のあちこちにグリル台が置かれ、そちらでも料理人が串に刺した肉や、野菜、魚などを焼いていた。
いい匂いが充満している。
先ほどはスイーツパラダイス。
そして今度は肉の天国か?
アルの実家、最強すぎないか?なんなのだ、この幸せの園は!!!
「シル……俺……ここに住みたい………」
思わず口にすれば、シルが慌てて「肉なら俺も焼いてやるから!」と言い出した。
冗談だ。毎日こんなものを食べたらもっこもこになってしまう。
でも、ここはどこもかしこも温かくて、幸せに満ちているから。
思わず口に出てしまっただけだ。
そう伝えたら、シルが優しい顔になった。
「俺たちの家もここみたいにしような?」
「ふふふ。俺たちの家、か。良い響きだな。楽しみだ!」
シルが居ればどこでも俺の家なんだけどな。
香りにつられたのか、犬や猫も集まってきた。飼っている犬や猫は、敷地内を自由に走り回っているのだそう。
俺の足元にすり寄り可愛らしくアピールしてくる。
「ふふふ」
しゃがんで撫でていると
「ミルくん、手を洗ってこっちにおいで」
伯爵が手招きしてくれた。
いそいそと近寄れば、肉を焼くところを見せてくれるという。
「この肉は大きいだろう?火力が大きすぎると焦げるだけで中まで火が通らないんだ。
だからあえて弱火でひっくり返しながらじっくりと焼いて、最後の仕上げで強火にして焦げ目をつけるんだよ。
やってみるかい?」
「いいんですか?!やります!!」
張り切ってトングを持つ。
「これをひっくり返してごらん」と指してくれた肉を掴み……あれ?掴んで………?
「も、もてない……?」
肉が大きすぎてなんとか掴んでも持ち上げられないのだ。
肉の重みで、ごとり、ゴトリと落ちてしまう。
困惑して伯爵を見ると、俺の手の上から一緒に手伝ってくれた。
大きな手から、グッと俺の手にかかる力。
あの大きな肉の塊をしっかりとつかみ上げ、ひっくり返す。
「!できました!!」
嬉しくなって伯爵を見上げると、にっこりと笑って褒めてくれた。
「よし。これでミルくんもマージェスの一員だな!
とても上手だ!この肉はミルくんの肉にしよう」
「!ありがとうございます!!」
一緒にいくつもの肉をひっくり返した。
「ミルくんの焼いたお肉、楽しみだわあ」とママが言ってくれたので張り切ってしまったのと、アルもシルもオル兄までもが「ミルの焼いた肉が食べたい」とうるさかったからだ。
伯爵と一緒に焼くのはとても楽しかった。
落としそうになると「ほら」と助けてくれる。
「上手だぞ」と褒め、俺を認めてくれる。
ケーキや肉が無くても伯爵家は天国だと思った。




