マージェス伯爵家との顔合わせ
色々ありつつ、予定より少し押してマージェス邸に到着した。
農場から先に遣いを出していたようで、すぐに扉は開かれた。
「まあまあまあ!お帰りなさい!」
「ただいまー!」
入った早々に恐らく義母だろうご婦人が待ち構えていたようにアルを抱きしめる。
その後ろの伯爵らしき壮年の男性は微笑みながらそんな2人を見守っている。彼は俺たちに気付くと目を柔らかく細め、軽く会釈した。
「父さん、母さん、紹介するね。このでかいのは学校でもあっただろう?シリウスだ。
んで、かわいいのがミルリース。ミルも俺の友人。公爵家の嫡男なんだ。自分で商会を立ち上げたいんだと。だから商会について色々教えてやって欲しい」
「こらこら、そんな適当な紹介があるか!」
鷹揚に笑いながら、「申し訳ない」と俺たちに頭を下げる伯爵。
ニコニコしながら手を差し出してくれた。
「失礼いたしました。ようこそいらっしゃいました。マージェス伯爵家当主のアルフェルト・マージェスです」
「お久しぶりです、伯爵。お変わりございませんね。ご婦人も相変わらずお美しい」
「まあ!あなたもずいぶん立派な青年になられて。
そちらの方は?」
「こちらは私のお仕えする主人、ミルリース様です」
「スノーデン公爵家が長男、ミルリース・スノーデンと申します。ミルとお呼びください。
ご無理を申しましたのに快くお受け頂き感謝致しております」
「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、息子と仲良くして頂いてありがとうございます。
少し癖のある子ですが、とても……
「まあまあまあ!堅苦しい挨拶は抜きで行こうぜ!
シル、ミル、こっちが客間だ。来いよ」
夫人に挨拶を遮り、ほらほら、とその背を押して客間に行ってしまったアル。
マージの店では「謎の麗人」「優秀な宝石職人」であるアルが、まるで子供のようにはしゃいでいる。
それだけ家族に会えて嬉しいのだろう。
「なんか……いいな、こういうの」
ぽつりとシルに呟けば、シルが俺の背をそっと撫でた。
客間にはすでにたくさんの菓子が並べられていた。
「こ、これは……!!」
す、すごい!なんてすばらしい光景なんだ!
テーブルにあのケーキのショーケースの縮小版のようなものがある!
どれも食べやすい小ぶりのサイズだ。
その分たくさんの種類が食べられる!なんて最高なんだ!
目をキラキラと輝かせてアルを見た。
「うふふふ。ミルリース様は甘いものがお好きだと伺ったので焼いてみたの」
「まさか、ご婦人の手作りなのですか?!素晴らしい!!」
「母さんの菓子は絶品なんだそ?凄いだろ!これもミルに食わせてやりたくてな」
アフターヌーンティーというスタイルらしい。
何段かのトレーをタワーのように縦に並べ、それぞれのトレーにサンドイッチやマフィンなどの軽食や小さな焼き菓子を盛り付けてあった。
紅茶のポットの横には何種類かのジャムがおいてある。
「お好きなジャムを紅茶に入れてみて?とっても美味しいのよ」
心の中で叫んだ。
「幸せすぎやしないか?!」
「あっははははは!!ミル、声に出てるぞ?」
しまった!なんて失礼なことを!
慌てて伯爵とご婦人を見れば、にこにこと好意的な表情。
「そこまで喜んで頂けると作った甲斐があるわ!たくさん召し上がってね!
みんな飽きてしまったのか、もうあまり食べてくれないのよ」
「できれば妻の趣味にお付き合い願えるかな?」
「喜んで!!」
俺は颯爽と宝の山に手を伸ばしたのだった。
数刻後。
俺はすっかりと伯爵夫人とうちとけていた。
ちなみにシルは向こうでアルと伯爵と酒談議に夢中になっている。
俺とご夫人はといえば……
「私はね、クリームは甘すぎないほうがいいと思っているのよ」
「ですよね!少し甘さを抑えたほうが、フルーツの香りが引き立ちますし!
なんでも甘ければいいというものではない!
ただ……チョコレートケーキは甘すぎるくらいに甘くしても良いと思うのです」
「分かってるわね、ミルくん!そうそう、そうなのよ!あれはもともと甘さを味わうためのものだもの!
口に入れて驚くくらいの方がいいの!」
「ご理解いただけますか!さすがは伯爵夫人!」
「うふふふ!うれしいわあ!こんな話ができるなんて!うちの人達、おいしいおいしいって食べてはくれるんだけど。感想を聞くと『うまい』とか『甘くて美味い』とかそんな感じなのよ。甘さにもいろいろあるんだってことを理解していないの。その調整こそが腕の見せ所なのに!」
「おっしゃる通りです!そこまで味わってこそのケーキなのに!」
この小さなケーキには作り手と食べ手の愛と夢と希望が詰まっているのだ、そこをきちんと理解してほしい。
そう言うと、ご夫人は大感激。
俺にこんな嬉しい提案をしてくれた。
「ミルくん、あのね、毎月アルのところへ新作のケーキを送るから、食べてくれない?
それで感想を聞かせて欲しいの」
「なんと!よろしいのですか?」
「ええ。ミルくんさえよければぜひお願いしたいわ!」
がしっと手に手を取り合って協定を結ぶ。
なんてすばらしい母上なのだ!
「アルは幸せですね。こんな素晴らしいご家族に恵まれて」
しみじみと呟けば、困ったように苦笑された。
「実はね。もう聞いているかしら?私は後妻なの。
だから、私もアルの弟も、アルとは血が繋がっていないのよ。
その分アルには気を遣わせてしまって……。本当ならあの子が継ぐべきなのに……」
「血のつながりが関係ありますか?
血のつながった俺の家よりも、ご夫人とアルのほうがよほど愛し合っているのに。
アルは母君と弟君が大好きなだけです。
理解あるご家族がいて、好きなことに打ち込め好きな仕事ができ、それで大好きな家族も守れる。
最高ではないのですか?アルはとても幸せだと思いますよ」
これは本心から伝えれば、夫人は滲むような笑みを浮かべた。
「アルは幸せ?……本当にそう思う?無理はしていない?」
「ええ。断言します!あんなに生き生きと楽しんで生きている人はいません。
アルのそういうところが好きなのです」
俺は胸を張って断言した。
「うふふふふ!アルにミルくんやシルさんみたいなお友達がいて良かったわ!」
「俺もアルに会えてよかったと思います」
ちょっと恥ずかしいが、伝えておきたい。
「ご夫人のような素敵な方と知り合えて、嬉しいです。アルに感謝しなければ」
「まああ!光栄だわあ!私もミルくんに会えて良かったわ!アルに感謝しなきゃね!」
うふふ、と微笑む夫人。
こんなに穏やかな時間を過ごせるなんて。本当に来てよかった!
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