下町へ
変装した俺とシルは、しれっと屋敷を出て、外で街馬車を借りた。
さすがに公爵家の馬車は使えない。
「やってみれば案外なんということはないな」
そう、変装しているからか、シルに隠れるようにして動いたからか、いずれにせよ使用人とすれ違っても見咎められることなくすんなりと外に出ることが出来た。
「防犯上はどうかと思うぜ? 逆に敵も入り込みやすいってことだからな。俺が敵を連れていたなら、アウトだぞ?
まあ、ミルは俺が守るから問題ないが」
「父上はいいのか? 」
「俺の主人はお前だからな。お前が『家族を守れ』って言うのなら守るが、お前がいいなら問題ないさ」
清々しいほどの切り捨てっぷりだ。だが俺にしてみればシルがこうだからこそ信用できるのだ。
「で?どこに行きたい、ミル?」
「うーん。まずは、宝石を売れる所だな。先立つものがなければ話にならん」
「了解! じゃあ、俺の知ってる店でいいか? 」
「ああ。問題ない」
シルが御者に行き先を指示しているのを聞きながら、この先について思いを馳せる。
とりあえず、持っている宝石は、一応婚約者ということになっているルディアスから届けられたもの以外、気に入りの数点を残して全て売り払うことにする。
そう、俺には婚約者がいる。
もちろん俺が望んだものではない。王家から出ねばならぬ側妃腹の第三王子を高位貴族に婿入りさせるため、公爵家嫡男の俺が婚約者に選ばれたのだ。
ちなみにルディウスは俺にとってはクソ王子だ。プライドが高い上に、俺に「かわいげがない」「なぜお前と婚約せねばならんのだ」と最悪な態度なのである。しかも、俺がひたすら勉強させられているのは、俺が将来こいつのフォローする前提で、当主教育も女主人役としての家政などの教育も一緒に学ばされているせいなのに。
なのに、ルディウスは俺に会う度に「仕方なく会ってやっている」という態度を隠さない。はっきり言ってムカつく。
政略結婚という意味を理解していないのか? こっちだって嫌なのに我慢して会ってやっているんだ。嫌ってもいいが、せめて態度には出すな! それが政略結婚の最低限のマナーだろうが!
「どんな態度を取ろうと自分の立場のほうが上なんだ、婿入りは変わらない」とでも思っているのだろう。要はそれだけ俺をみくびっているということだ。
婚約してからも、誕生日以外にプレゼントをもらったことがない。つまり5歳で婚約させられたのにもかかわらず、この10年でジャスト両手で足りる程度ということだ。
通常ならば、イベントやパーティーごとに衣装とアクセサリーを贈るものなのに。高位貴族としてはもとより、一般的な婚約者としてもあり得ない不義理だ。「お前には気に掛ける価値もない」と示していることになるのだから。
一応誕生日には王家からそれなりのものは届いたが、年に一度のそれすら、側近に宝石だけを指示して選ばせていたに違いない。馬鹿のひとつ覚えのように毎回アメジストのアクセサリー。普通婚約者には、婚約者本人の瞳の色のものではなく自身の色を贈るものなのに。
パーティーで、俺は送られたアメジストを身に付ける。そしてルディアスはといえば、本人の色であるエメラルド。といえば聞こえはいいが、グリーンは偶然にも俺の弟の色でもあるのだ。クソだろう?
一方で、婚約者との交流として義務付けられた月に一度の茶会で公爵家に訪れても、俺の弟のレオリースを同席させ、婚約者である俺はカヤの外。
それならいっそ俺は呼ぶな! 時間の無駄でしかないだろうが!
レオも「婚約者でもない僕がいていいの? 」といいつつも毎回現れ、しかも年長者であり王族であるルディアスを婚約者でもないのに「ルディ」呼び。
それを俺が「不敬だ」と窘めれば「ルディがいいって言ったんだもん! お兄様のいじわる! 」とくる。
もう、うんざりという言葉では表しきれない。
一応婚約者は婚約者。結婚するからには愛はなくとも友好的ではありたいと思っていたから、この明らかな拒絶には密かに傷ついてきた。
だが、もうそれも終わり。どのみち無関係になるのだ、クソ王子なんぞどうでもいい。
俺のかわりに「可愛い次男のほう」と婚約でも結婚でもなんでもすればいい。勉強嫌いなペアでお似合いだ。
アイツらが後を継げは公爵家はダメになるだろうが、そんなことは知らん。勝手にしてくれ。
ちなみに、クソ王子に貰ったものを売らないのは、それが大切だからではない。平民になる時に突き返してやるつもりなのだ。なんなら叩きつけてやりたいくらいだ。さぞかしスッキリするだろう。
というわけで、クソ王子から貰ったもの以外を、つまり手持ちの宝石だけを売るつもりなのだ。
可愛げはなくとも嫡男は嫡男。パーティーなどでそれなりの「公爵家としての体裁を整えるだけのもの」は与えられている。
まずは見極めのため、10点ほど持って来た。
この値段如何で、どれだけ売るかを考えよう。
こうして訪れたシルおすすめの店は、下町のメインストリートよりも少し奥まった場所にあった。
その外観は、宝石を扱う店というよりは古道具屋というほうがふさわしい。どこかさびれたような佇まいだ。
古びた木製のドア。看板の代わりなのか「マーズの店」と豪快に書かれた大きな樽がドアの横に置いてあった。
「……ここなのか?」
シルを信じないわけではないが、正直、不安だ。
この外観にはシルも思うところがあったようで、苦笑している。
「ああ。少し……いや、かなり外観はアレだが、中はちゃんとしてるから。他の店にするか? 」
「いや、シル兄さんが勧めてくれた店だ。ここでいい。入ろう」
「ミル……俺を信用しすぎじゃないか? 」
「? シルを信用しなくて誰を信用するんだ? だってシルだぞ? 」
何故かドアに伏せてしまうシル。
どうした? 早くノックしろよ。
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