学校
シルと話をしていたらあっという間に学校に着いた。
中等部はレオリースと一緒だったから、通学時間は一方的にレオリースの話を聞かされる苦行の時間だったのだ。
睡眠が足りず居眠りすれば揺り起こされ、適当に流せば「無視をした」「酷い」となじられる。
今日とは大違いだ。
睡眠も十分。隣にはシルがいて、目が合えば笑ってくれる。
これからはこうやって通学するのだ。
学校に着けば、なんと、 門でクラウスが待っていてくれた。
「おはよう、ミル!シルさんもおはようございます!
昨日と同じくらいの時間に来ると思ってさ。一緒に行こうぜ!」
「おはよう、クラウス!待たせてすまない。ありがとう」
俺が降りるのを手伝ってくれながら素早く周りに視線を這わせるクラウス。
「どうしたんだ?」
「いや、あの殿下が早々と登校してるみたいでさ。もしかして、と思って……」
どうやら昨日のルディアスのことを気にして迎えに来てくれたようだ。
「ふふ。ミルリース様、良いお友達を持たれましたね。
クラウス様、ミルリース様をよろしくお願い致します」
「お任せください!あんなヤツ近寄らせませんから!」
「あはは!あんなヤツ、か。一応王族だぞ?」
「ふん!ウチは防衛の要、辺境だぜ!」
胸を張るクラウス。逞しいな。
「おーい!ミル、クラウス、おはよう!早いな、君たち」
後ろに止まった馬車からジークが降りてきた。
「おはようジーク!俺と同じことを考えてたみたいだな」
「これでも早く来たつもりだったんだけどね?明日からはもう少し早く来るよ」
申し訳なさそうに眉を下げたジークに、俺は慌てて言った。
「いや、一緒に行けるのは嬉しいが、俺を待たなくても大丈夫だぞ?
あれだけはっきり伝えたんだし、殿下ももう俺には近寄らないだろう。
だから二人とも無理はしないでほしい」
2人とは友達になれただけで嬉しいのだ。友達に会えると思うだけで学校が楽しみになった。
大切だからこそ、俺のために無理をさせたくない。
そう伝えれば、2人はなぜかガシッと俺の肩を左右から抱いた。
「待つわ!絶対に待つ!一緒に行こうな、ミル!」
「僕ももっと早く来るからね、ミル!!」
だから大丈夫だぞ、と伝えたつもりだったのに、余計にやる気になってしまった。
一緒に行けるのは嬉しいが、甘えてしまっていいのだろうか?
困惑してシルを見れば、「良かったな」と微笑まれた。
甘えてしまっていいということか?
そんな俺たちを離れて見つめる瞳があったことに、浮かれた俺は気づかなかったのだった。
教室で話をしていると、ミルフェとランジェが登校してきた。
「おはよう、ミルと騎士さんたち!早いのねえ!」
「おはようございます。昨日は本当に楽しかったですわね?」
「おはよう、ミルフェ、ランジェ。
こちらこそ、昨日はとても楽しかった。誘ってくれて嬉しかった、ありがとう」
「おはよう、おふたりさん!騎士って、俺とジークか?」
「よく分かってるじゃない。2人とも、姫を守るナイトみたいなんだもの」
「クラウスはともかく、僕は頼りないナイトだけどね」
ジークか笑う。
いや、そもそも俺は姫などではないぞ?
これでもそれなりに剣術も学んでいる。
「いざというとき殿下を守る盾となれ」と幼い頃から鍛えられてきたのだ。
残念ながら、体質なのかたいして筋肉はつかなかったが。
それでも腹筋には自信がある。
「俺は姫ではなくナイトになりたいのだが……」
恐る恐る主張してみれば、4人どころかクラスメートの視線が一斉に俺に向いた。
「……ミルがナイト……」
「……人には向き不向きがあるんだぞ?」
「ミルは安心して守られてなさい!そのほうが萌え…こほん、いいと思うわよ?」
「ごめんなさいね?でも、希望を持つのは悪いことじゃないわ?」
そ、そんなに無理なのか?
クラスメートに視線をむければ、申し訳なさそうにそっと視線をそらされた。
そこまで⁈
いや、ほんとうに、少しは腹筋が付いてきたのだ。
それを見れば…
腹を出して見せようとすれば
「な"ッ…」
「ミル⁈なにするつもりだ⁈」
慌ててクラウスに止められた。
今、一瞬ルディアスの声がしなかったか?
キョロキョロとあたりを見回すが、姿はない。
気のせいか。
どうやら神経過敏になっているようだ。
「いや、腹筋を見せようと…」
「ダメ」
ぐっと服を下に向けて引っ張り続けるクラウス。
「これでも腹筋は…」
「ダメよミル」
ふるふる、とミルシェも首を振る。
「ジーク…」
「ミル。大丈夫。腹筋は見せなくていいからね?
(シル先輩は何をやってるんだ!ミルをこんな無防備な子に育てて!)」
「?ジーク、今シルとか言ったか?」
「い、いや、気のせいじゃないかな?
とにかく、お腹は見せてはダメだからね?目の毒だから」
「そ、そうか。
こんな腹では確かにみなより見劣りするかもしれない。
申し訳なかった。もっと鍛えてからにする」
「あの、そういう意味じゃなくてね?」
何故か慌ててジークがフォローしてくれる。優しいんだな、ジーク。
いいんだ、少し腹筋がついてきた気がしていたが、まだまだだったようだ。
「ミルは普通よ。クラウスに比べたら誰だって見劣りするわよ」
ぽんぽん、とランジェが肩を叩いて慰めてくれた。
「とにかく!ミルはお腹を出さないで!分かったわね?」
「分かった」
よし!と満足そうなランジェ。
地味に傷ついた。
勉強をやめた時間を筋トレに回すことにしよう。
その日はとても平和だった。
これこそが「学園生活」というものなのかもしれない。
今までずっと憧れていた、ずっと俺の横を素通りしていたもの。
とりたてて何かあったわけではないが、当たり前のやり取りがとても楽しい。
教室移動の際には当たり前のようにクラウスたちが俺の横に並ぶ。
一緒にランチを選び、これが好きだの、これは苦手だのと笑いあう。
「ミルそれだけでいいの?
そんなんじゃ大きくなれないわよ!これあげる!」
ほい、とランジェが唐揚げを俺の皿に入れてくれた。
「じゃあ俺はこれやるよ!」
クラウスはデザートのゼリーを。
「僕はこれね?」
「じゃあ私はこれを」
みんなが俺の皿にそれぞれ取り分けてくれる。
「ふふふ。気持ちは嬉しいけど、少し多すぎるかな?
じゃあ、みんなにはこれを……」
今度は俺が皆の皿にお返しを。
「もう!それじゃ結局変わらないじゃないの!」
「あはははは!でも、いろいろな種類になったよ?ありがとう!」
思わず破顔すれば、食堂のあちこちから息を呑む音が。
「?」
なにかあったのかとあたりを見回せば、皆赤い顔をしてぽかんとしていた」
「どうしたんだ?みんな」
首をかしげると、ミルフェがクスクスと笑う。
「うふふ。みんな良いものを見たのですわ」
「良いもの?クラウスは見たか?」
クラウスに問えば。「ああ!ばっちり!」とクラウスもにこにこ。
「そうか。俺は見損ねてしまった。残念だ」
「鏡をみたら見れるわよ?」
ランジェがつん、と俺の鼻をつつく。
「?そうか?帰ったら見てみる」
「あはははは!ミルったら!」




