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悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。  作者: をち。


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42/62

翌日

昨日はあのまま風呂にも入らず泣き寝入りしてしまったようだ。


パチリと早朝に目が覚めた。


「⁈」


シルが横で俺を抱きしめるようにして眠っている。

驚きすぎて心臓が飛び出るかと思った。


俺は慢性的に睡眠が足りていないため、基本的に体温が低く朝の目覚めも悪い。

なのに昨晩はポカポカと心地よく、夢も見ずにぐっすりと眠ることができた。

それはどうやらシルのおかげだったらしい。


こうしてみると、こいつは無駄に顔がいいな。キリリと凛々しい目元。口角の少し上がった唇はスッキリと爽やかだ。

起こさぬようそっと形の整った鼻のラインをなぞってみた。

ふふふ。

俺もこんな顔なら別の人生があったのかもしれない。


なんだか起きてしまうのがもったいなくて、シルの腕の中にまた潜り込む。

すり、と胸元に頬を擦り寄せてみた。

うん、シルの匂いだ。なんだかとても安心する。

すると寝ぼけたシルが、無意識なのかぎゅうっと俺を抱きしめた。

温かい。なんて気持ちがいいんだろう。


幼い頃、俺の頭を撫でて抱き締め、夜寂しい時にはこっそり一緒に寝てくれた。

そんなシルが「ミルリース様」と俺から距離を置きだしたのはいつだったか。

寂しさを感じながらも、仕方がないのだと諦めていた。

だが、俺はずっとこの腕が恋しかったのだ。




気がつけば二度寝してしまっていたようだ。


「ミル。起きろ。学校に行く前に風呂に入ろうな?」


優しいシルの声で目が覚めた。

泣き寝入りしてしまった顔はさぞかしみっともないことになっているだろうと思ったが、寝ている間にシルが拭いてくれたのか、スッキリさっぱりとしている。


「……ついでに身体も拭いてくれればよかったのに」


らしくもないわがままを言ってしまったのは、目覚めた時につい「なんでシルは横にいないんだ」と思った恥ずかしさからだ。

俺の侍従なのだから俺より早く起きて支度してくれるのは当たり前のことなのに。


八つ当たりのようにむちゃなことを言われたシルはといえば、困ったように笑った。


「さすがに眠る子にそんな無体は、なあ?」


「?俺がいいと言ってるんだから、無体じゃないぞ?」


シルにされて嫌なことなどないのだから。


「うーん。そっちはあえて誰も教えてこなかったからなあ……。まあ、おいおい、な?」


と訳のわからないことを言われ、頭をくしゃくしゃにされた。


「こ、こら!」


「まあまあ、どうせ風呂に入るんだ。いいだろ?」


そのままヒョイっと抱き上げられてしまう。


「うわあっ!な、なんだ?」


いきなり宙に浮いた身体に驚き、慌ててシルにしがみつく。


「お姫様、お詫びにこのシルが風呂まで運んでしんぜましょう」


言葉どうり、まるで姫のように横抱きでバスルームに運ばれた。


「服は自分で脱げるか?」


聞いたくせに、優しい手つきでボタンを外してくれるシル。どうやら俺を甘やかしてくれるつもりのようだ。


貴族は使用人に全て世話をして貰うのが当たり前とされる。

だが、俺はシル以外そばに置かなかったから、シルが全てやることになる。

シルひとりに負担を負わせるのが申し訳なくて、俺は着替えも風呂もひとりですることにしているのだ。


少し恥ずかしいが、甘やかしが嬉しくてされるがままに大人しくしている。

そのまま風呂に入れられ頭と身体を洗われた。

柔らかく触れる指先はとても優しく、温かい。 

あまりの心地よさにまた眠ってしまいそうになる。


「ふわぁ」


思わずあくびを一つ。


「こーら?寝るなよ?」


ちょん、と鼻の頭に泡の塊を乗せられた。

お返しにシルの鼻にも泡をつけてやる。


「ほら、ミル。大人しくしなさい」


「はーい。シルはお兄様というより……母親のようだな」


クスクスと笑えば「まいったなあ!そっちか!」とシルがガクリと項垂れた。


「いや、うちの母上のことではないぞ?一般的な、優しい母親のほうだ」


慌ててフォローしたのだがよほどショックだったのか一人でぶつぶつ言っている。


「うん、分かってた。ミルってば無意識に甘えてくるから、期待しちまったが……やっぱまだミルには早かったか……」


またしても


「おいおい覚えていこうな?」


と優しい顔で頭を撫で回された。

勉強以外にも覚えることが沢山ある。楽しみだ!





と、コンコンと部屋の扉がノックされた。


「ミルリース様、失礼致します。

お食事はどうなさいますか?」


使用人が朝食の確認に来た。これまで「家族で食堂で食べるのが当然」だとわざわざ聞かれたことなど無かったのに。

どこか怯えたような強張った声音から察するに、昨晩アルバートに理解させた結果なのだろうか?

全く変わり身が早いことだ。


扉に向かおうとするシルを腕を掴むことで引き留め、風呂から大声で返事を返す。

行儀?知ったことか!


「食事は全て部屋でとる。今後はシリウスと2人分、部屋の前まで運ばせてくれ!」


「かしこまりました。では、出来次第食事をお持ちいたします。失礼いたします」




厄介ごとが片付いた俺は、ご機嫌でシルを見上げた。


「さあ、朝食は取りに行く必要はない。ここまで運んでくれるぞ?

これでシルにも時間ができたな?

シルも一緒に風呂に入れ。命令だ」


「はあ⁈」


「俺もシルを洗ってやる。ほらほら!」


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