サボりって最高だな!
一応学園とクソ親父には「体調不良」だと伝えてもらい、変装してシルと下町に繰り出すことにした。
どうせ嫌われもの長男が何をしようと、それなりの成績を取り《《不祥事》》さえ起こさなければ、家族は気にしないだろう。
シンプルなシャツとスラックス、フード付きのコートを着れば下町の小金持ちの商人の息子の完成だ。
瞳はコンタクトでシルと同じ紺色に変えた。シルと兄弟という設定だ。
「どうだ? シル兄さん。だいぶ印象が変わるだろう? 」
くるりと回ってみせれば、シルが驚いたように目を見張る。
「確かに! かなり変わるな。内から溢れる育ちの良さまでは隠せていないが、まあそこは『裕福な商人の大切に育てられた一人息子』ということで大丈夫だろ」
それにしても、といきなりシルがニヤつき出した。
「しっかし……いやあ『シル兄さん』か! いいなあ、実にいい! 」
俺が外面を取り繕うのをやめシルにも「ご主人様扱い」をやめるよう伝えたとたん、こいつは何も隠さなくなった。
「ほらミル、もう一回言ってみな? シル兄さんに可愛らしく甘えてごらん? 」
両手を広げて「ほーら、おいで」と満面の笑みを見せる。
全く仕方のないヤツだ。
まあ、下町でバレぬよう今から練習しておくのも一興。
ぽすんと腕の中に飛び込めば、おいでと言ったくせに驚いたように両手を広げたままフリーズするシル。
「……ハグしないのか? 」
催促してやると、慌ててぎゅうっと抱きしめてきた。
「いやあ、言ってはみたものの、まさか本当にやってくれるとは! 言ってみるもんだな」
「なんだ、やめた方がいいのか? 」
「いやいやいや、兄さんに抱っこさせて!? ……よしよし。ミルはいい子だなあ。うんうん。かわいいかわいい」
俺を抱きしめたまま、あやすように身体をゆらす。
温かな体温も腕も存外気持ちよくて、癖になりそうで困る。
ああ、そうだ。いいのか。これからは「貴族とは」とか気にしなくていいんだ。
だから素直な気持ちを口にしてみることにした。
「いい子じゃないし、可愛くもないだろ」
思いのほか拗ねたような口調になってしまった。
だってそうだろう? 俺がいい子で弟のようにかわいかったら、悪役になどされていない。
俺は当たり前のことを口にしたのだが、シルは俺の言葉が不満だったようだ。
「ミルはいい子だし、かわいいぞ。ずっとずっとそう思ってる。周りの目が節穴なんだ」
そう断言すると、俺を腕で囲ったままひょいと椅子に腰掛けてしまう。
必然的に、俺はシルの膝の上に向かい合わせで乗せられてしまうことになった。
「お、おい! 」
「いいだろ? いままでの分まとめて俺に甘やかされてろ。な?
いい子だ、ミル。誰よりもかわいい。それに頑張り屋だ。周りに気を配る優しい子でもある。あと、たまに見せる照れた顔もかわいいし、わざと傲慢な態度をとったあとゴメンなさいって顔でちらちらと様子を窺ってるのもかわいい。嫌いなものを食うときに一瞬だけ眉をひそめるのも、好きなものが出るとじっとそれを見つめてるのもかわいい。
まだあるぞ? 全部言ったら朝まで、いや明日までかかるが、どうする? 」
初めて、しかも怒涛のように耳に吹き込まれる「かわいい」に、俺は一気に容量オーバー。ふしゅう、と頭から湯気が出そうになった。
ここまで言われればさすがに分かる。実の親にさえ「可愛げがない」と言われる俺が、こいつには本当にかわいく見えているようだ。
「も、もういい! わかった! わかったから! 」
「ちなみに今照れて耳まで赤くなってんのもかわいいぞ? お前がかわいいってことは俺が知ってる。これからは存分に語ってやるからな? 」
「……遠慮しなさすぎだ」
「はは! このほうがいいって言ったのはミルだぞ? 取り消しは不可だ。覚悟しろよ? 」
覚悟か。こんな甘い覚悟なんてあるものか。
ぽすん、とシルにもたれかかりながら熱い頬を隠す。
「俺は慣れてないんだ。お手柔らかに頼む、シル兄さん」
「……ぐうかわ。なんなんだ? マジでどうした? かわいすぎるだろう! 」
抱っこのうえに背中ポンポンまでついてきた。
ちょっと我慢をやめてみただけでこんな風に甘やかしてもらえるとは。
もっと早くやめておけばよかった!
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