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悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。  作者: をち。


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食事の楽しさ

外食だということもだが、三人でする食事はとても楽しかった。

個室だということもあり、マナーだのなんだの気にしなくていい。

いつもは小さく切り分けている肉だが、思い切って平民のするようにそのままガブリとかじりついてみた。


街の噴水で串焼きにかじりつく人を見て、羨ましく思っていたのだ。

ちまちまと食べている俺のたぶん高級だろういつもの肉よりも、それはとても美味しそうに見えたから。




「!!!」


口の中に肉汁が溢れる。

一気に口中が肉で満たされた。

何だこれは!最高に旨いじゃないか!


ガブリ、ガブリと一気にかじりつく俺に、隣に座ったシルが目を丸くする。


「なんか、飢えた子猫を見てるような気分なんだが……」


「奇遇ですわね。私もよ」


「こうやって食うとすごく美味いぞ!小さくして食べるよりも、肉がダイレクトに感じらえる!

平民がこうやって食う気もちが分かった!」


思わず興奮して鼻息が荒くなってしまった。

シルもアルも貴族だからこんな食べ方はしたことがないかもしれない。

ぜひともやってみて欲しい。

アルテミスはアルフレッドの時にでもぜひ。


「だよなー!俺もそう思う!」


「焚火で焼きたてをほおばると最高においしいのよねえ……。ああ、また食べたくなってきちゃったわあ!


「!!なんだ、シルもアルもガブリとやったことがあるのか?」


「まあな。騎士科には野営訓練があるからな。自分たちで肉を狩って、焼いて食うんだよ」


「私は科は違うんだけれど、よくご相伴に預かったのよ」


「こいつ、知り合ってからは飯時になると都合よく野営地を馬で通りかかるんだ。

図々しく毎度毎度飯をたかりにきやがって!」


「あらあ!だって、寮暮らしだったんだもの。

そうでもしなきゃ獲りたて焼きたてなんて食べられないじゃない?

美味しいものは分かち合わなきゃ!」


二人はそのころから気の置けない仲だったんだな。

文句を言っているが、シルも楽しそうだ。


「…………」


なんだか胸の一部が痛い気がする。

シルの学生生活が充実していたことを喜ぶべきなのに、シルが傍に居なかった俺の時間を思い出して……。

俺の横にシルがいてくれたら、こんな風に俺も笑いあえていたのだろうか。

ちょっとうらやましい。


そんなことを考えていたら。

ぽすん。

頭に手を置かれた。シルだ。


「ミルはまた今度俺が野営……いや、ピクニックに連れて行ってやる。

湖で魚を取って、焚火で焼いて食おうぜ?

焼きたての肉も美味いが、焼きたての魚も美味いんだぞ?

枝に刺して塩を振って焼くんだ。それを枝ごと持ってかじりつく!」


「!!!それはまた野性的だな!」


なんて最高なんだ!

顔を輝かしていると、アルが唇を尖らせた。


「ちょっとお!シルばっかりずるいじゃないの。

ミル、私の実家ではね、庭でバーベキューをすることがあるの。

すっごく美味しいのよ。

週末に伯爵家に行ったらバーベキューにしてもらいましょう。連絡しておくわ」


「バーベキュー!庭でか?楽しそうだな!

素晴らしいご家族だ!」




形式にこだわる公爵家ではバーベキューなんてありえない。

こんな食べ方を見たら、父なら「行儀が悪い」「粗野な振る舞いはしないように」と叱責してくるだろう。

でもシルもアルもそんなことは言わない。

「美味いよな、分かる」「おいしいわよねえ」と笑ってくれる。


マナーとは何だろう?

俺の思うマナーは「同席者に不快な思いをさせないこと」だ。

公の場で身分にふさわしい立ち居振る舞いをし、家門の品位を示すこと。

相手に敬意を示すこと。

それが俺のマナーだ。


ならば、気の置けない心を許し合った友人と語り合いながら肉や魚にかじりつくのは?

俺の中では、マナー違反には当たらない。


だが公爵家は違う。




楽しそうなアルの家とは違い、公爵家での食事は、俺だけ「当主にふさわしいマナー」を事細かに強要され、楽しいものではなかった。

俺のこれまでの食事は、俺以外の家族の楽しい団らんをしり目に、身体に染み付いたナイフの使い方、ティーカップの角度、それらすべてを機械的にこなす作業にすぎなかった。

そんな食事に味なんてしないし、楽しいと感じたこともない。

苦行に耐えながら栄養補給をする時間。それが公爵家での俺の食事なのだ。




シルと二人で食事をするようになり、俺は初めて食事の楽しさを知った。

会話しながら、微笑み合いながらする食事は楽しく、美味しい。

これまで食べていたものと同じもののはずなのに、全く違う味に感じる。


更に今日はアルまで一緒だ。

今後のことを真面目に語り合い、いろいろな話をして、笑いあう。

それだけでこんなにも美味しい。

俺が肉にかじりつこうが二人は笑ってくれる。

またやろうと言ってくれる。

それがどれだけ俺にとって特別で嬉しいことなのか、この二人は……きっとわかってるんだろうな。

だって、こんなにも俺を見る二人の目は優しい。

俺は幸せな気持ちでほほ笑んだ。


するとアルがクスクスと笑いながらアルの前に置かれた肉を取り分けてくれた。


「ふふふ。幸せそうな子猫ちゃんには、私のお肉もあげちゃう!

まだ入りそうだものね?」


「じゃあ、俺はデザートをやるよ。その分は腹をあけておけよ?」



いつの間に俺はこんな暖かな場所に来ていたのだろう。


この幸せな場所を、俺は手放すつもりはない。


「アル、シル。俺は二人が大好きだ。ずっとこうしていたい。

だから、なんとしても公爵家を出る。婚約も破棄させる。

どうか協力してくれ」


改めて二人に頭を下げた。


「もちろん。最初からそのつもりだ。

ミルの方こそ、俺を締め出すことは許さないからな!」


「そうよ。私だって、私の方からお願いしたんだもの!協力するに決まっているでしょ!

今さら嫌だなんていいっこなし!分かった?

ああん、もう!ミルってば私の息子にしちゃいたい!健気でかわいいんだもの!」


胸の前で手を組んで身をくねらすアル。


すると横から伸びてきた腕がぎゅうっと俺を腕の中に囲い込む。


「ミルは俺の!俺が大切に育ててきたんだから」


チュッと頬にキスをされ、かああっと顔が赤くなるのがわかった。

ひ、人前で何を!

慌ててグイっと腕をつっぱり引き剥がす。

シル、不満そうな顔をするな!お前が悪いんだろ?


「ミル、この人こんなこと言ってるわよ?凄い独占欲!

これ(シル)でいいの?」


「うん。シルがいいんだ。……でも、アル、ありがとう。

アルが母上なら幸せだったろうな」


「あああ!もう!複雑な気持ちだわあああ!

てか、そんなら俺は兄貴!これは譲れん。アルフレッドは兄貴ポジでいくからよろしく!」


どういう宣言なんだ?


「残念!兄貴もシル兄さんがいるんだな、これが!」


「ちっくしょおおおお!どんだけだよシル!!

ミル、兄貴が二人でもいいよな?シル兄さんとアル兄さんがいろんなことを教えてやるからな?

楽しみにしてろよ!

いいことも悪いこともたくさん教えてやるから!」


「悪いことはダメだろう」


「いいんだよ!そうやって男は大人になっていくんだ。お前だってそうだったろうが、シル」


そうなのか?


「………シル?」


じいっと見つめれば、シルがそわそわと目をさ迷わせた。


「そりゃ……あれだ。まあ……俺だって男だしな?

なんていうか、学んでおくべきかと思ってだな……」


「?何を学んだんだ?俺にも教えてくれるか?」


「そりゃ、アレに決まってんじゃん!」


「??野営以外か?」


「へ?かしこまって聞かれると言いにくいなあ……。ねや……


「寝やすい場所を探したりだな、いろいろとあるんだよ!!!な?!」


「………そういうことだ」


シルがアルを睨んでいるように見えるのは気のせいだろうか?


「俺にもぜひ教えて欲しい。楽しみにしているぞ、シル」




シルがなぜか真っ赤になった。

こんなに狼狽えるシルを見たのは初めてかもしれない。



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