俺とアルとシルと
真っ赤になってうずくまる俺を、シルがひょいっと抱えて店の中へ。
あれよあれよという間にソファの上にポン、と下ろされた。
「おい。とりあえずアルも入れ。
まあ、二人とも落ち着こうぜ?
俺に言わせたら、どっちもどっちだ。
ミルは可愛いし、アルは奇麗で美しい。二人ともそれを誇れよ?
分かったか?!」
勝手知ったるという感じでシルが「茶を淹れてくる」と奥に消え、取り残された俺たち。
チラリとみては目をそらし。
チラリと見ては目をそらし。
俺もアルも気持ちをぶつけ合ったからか、なんだか気まずい。
言ってくれた言葉が嬉しくて、どうにもこうにも恥ずかしいのだ。
「あー、なんだ。あのな、ミル。
俺はお前が可愛いと思う。外見も中身も。
だから、一緒に組めて嬉しいと思ってる」
「あ、ああ。俺も、あの、アルは非常に好ましい人物だと思っている。
仲間になってくれて嬉しい。ずっと共にあれたらいいと思っている」
お互いに前を向き目を合わせないままでボソボソと言葉を交わしていると、ガチャンと目の前にティーセットが置かれた。
「なんだそれ。プロポーズか?
……妬けるなあ」
シルだ。
「い、いや、プロポーズじゃなくてだな、いい仲間で居たいとそういう……」
慌てて言い訳をすれば、アルが呆れ顔。
「ほんっとお前ってミルが絡むと狭量だよなあ!
ふ、ふふふふ!確かに、あれ、プロポーズみたいだけどな?
あははははは!俺ら、なにしてんだろうな?」
話しながら笑い出したアルに、俺も可笑しくなった。
「ふふふふ。確かにな」
笑いあっていれば、シルが俺の横にどかりと腰を下ろす。
「言っとくがな、ミルがプロポーズしていいのは俺にだけだからな?」
「?そうなのか?」
「俺とミルの商会だろう?
ミル、俺はずっとミルと共にあれたらと思ってるぞ?ミルは?」
「ああ。もちろんだ!俺もシルとずっと共にいる!」
「……ふは!思うんじゃなくて、断定なんだな」
「それはそうだろう?
シルが嫌なら仕方がないが」
「嫌なはずないだろう?」
俺とミルが商会の未来を語り合っていると、すっかり調子を取り戻したアルが叫んだ。
「あー!だからさあ!毎回毎回いちゃいちゃすんなって!
で?なんか俺に話があってきたんじゃねえの?」
やけになったようにティーカップを掴んで紅茶をガブ飲みするアル。
ああ、そうだった。
本題を忘れてしまうところだった。
俺は居住まいを正すと、改めて話を切り出す。
「買い付けて欲しい薬草のリストだ。これは毎月定量で仕入れ続けて欲しい。
特効薬のほうは、不審がられない程度の領であちこちの国から買い付けてくれ。
理由はなんでもいい。『他の効能の研究』だとか適当にこじつけてくれるか?
これなんだが………できるか?」
どれどれ、と俺からリストを受け取ったアルの目がすうっと細められた。
「これは……赤か!」
そう。ゲーム内でこの国に持ち込まれ壊滅的な被害を与えたのは、通称「赤」と呼ばれる熱病だ。
特効薬を初期に飲むことができれば1週間ほどで回復する病。
しかし、その特効薬が開発されるまでは毎年多くの死者を出していた恐ろしい病だ。
この病気の特徴は、高熱と、その後に来る赤い斑点状の発疹。
まずは突然の高熱に始まり、高熱から数日で発疹ができ始める。
ここで早期に薬を飲めばそのまま回復するのだが、初動を間違えると一気に発疹が全身に広がる。
発疹は外からは見えぬ体の内部にもおよぶ。
こうなってしまったら手遅れ。数日で死に至る。
実はこの病、長らく風土病だと思われていた。なぜならば、一定の土地や地域でのみ流行してきた病だからだ。
同じような時期に一気に広まり、服薬により一気に終息を迎える。
飛沫感染だが、高熱から始まるため患者が外をうろつくことは少なく、しかも服薬により1週間程度で回復するためこれまでは外の国にまで持ち出されることがなかった。
だからこそ、原因は分からないが、その国特有の病であると認識されてきたのだ。
しかし、ある商人がそれをこの国に持ち込んでしまうのである。
彼は高熱にもかかわらずどうしても外せない取引があるのだと、家族が止めるのも聞かずにこの国に入った。
そしてそのまま倒れて、この国で亡くなる。
そう、多くの人に病をばら撒いた後で。
商人の死の原因が「赤」によるものだと気付いた時には、すでに手遅れだった。
特効薬のないままに国中に病が蔓延。
この国には特効薬の備蓄はない。
風物詩のように扱われる病が、ここでは死の病となってしまったのだ。
ようやく他国から治療薬が届くころには、多くの死者が出る大惨事となっていたのである。
ちなみに、ここで第二王子は母を、宰相の息子は弟を、騎士団長の息子は姉を失う。
明るく前向きな弟により彼らはその悲しみから救われ、弟に傾倒していくのだ。
今回薬草を買い付けてもらうのは、比較的流行の少ない国。
流行国のものを買い付けてしまっては、その国の治療薬が足りなくなってしまうからだ。
流行する時期までまだ時間があるため、今のうちから買い付けを始めておけば、十分間に合うだろう。
「これ、風土病じゃなかったのか?」
アルの当然の疑問に、俺は「単に発症が分かりやすく、流行スピードと終息スピードが早いために運よく他国に持ち出されていなかっただけだ」と教えてやる。
「マジか!これまで無事だったのは、単なる運かよ!まいったぜ!」
「風土病だと思われている上に特効薬があるからと、たいして注視していないからなあ。
薬の無い状態でこれが入ったら終わりじゃねえか!本来なら助かるはずの命が、無駄に失われちまう」
「だから、俺たちがやるんだ」
改めて告げれば、アルが決意に満ちた顔でしっかりと頷いた。
「ああ。やってやる!
あのさ、俺の実家に協力を頼んでいいか?
でかい商会を持ってるし、あちこちに伝手があるから助けになってくれるはずだ。
いくつか別の商会の名を使って何か国かで買い回らせようと思う。どうだ?
一応言っておくが、口も堅いぞ?」
胸元から紙とペンを取り出し、さらさらと書かれた商会の名は、どれも俺も知っている信頼の厚い商会だった。
まさかこれらすべてが伯爵家の息がかかった商会だったとは!
「願ってもない申し出だ。ありがとう。よろしく頼む。
依頼主として、一度ご挨拶に伺った方がいいだろうか?」
「いいのか?公爵家を出るまでは、まだ名を出したくないんだろ?」
「じゃあ、俺が代わりに。アル、俺の名を使ってくれ。
でもってミルは……純粋に、友人として紹介するのはどうだ?」
「そうだな。世話になるのだ、アルの名を借りるとはいえ礼儀は尽くしておきたい。
アルのご家族だしな。
いいか、アル?」
「ああ。ミルがいいんならいいぜ?
きっとウチの家族もミルが気に入るぞ?
すげえ構いたがりばかりだから、覚悟しておけよ?」
「確かにな!なかなか個性的だが……いい意味で貴族らしくない、気のいい人たちだぞ?」
それに、アルがいろいろしでかしてるから、しでかしには慣れてるだろ。だからミルも楽に考えたらいい」
からかうようなシルの言葉に、アルが肩をすくめた。
「確かにしでかしてるわ。
てことで、ミルなら大歓迎!
この時期は王都じゃなくて領地にいるから、ピクニック気分で少し遠出っていうのはどうだ?
週末の予定は?」
こうしてあっという間に俺の週末の予定が決まったのだった。




