アルは美しくミルは可愛い
コンコンコン!
三回ノックが「知り合い」「友人」だという合図。
「アル、居るか?ミルだ。
話があるんだ。少しお邪魔させてもらっていいだろうか?」
大声で呼びかけてしばらく内扉の前で待てば、アルが顔を出した。
「おう、どうした?」
今日はまだアルフレッドではなくアルテミスのようだ。
同じだと分かってはいても、やはりこの外見でアルの口調だと違和感があるな。
「入れよ」
俺たちを招き入れながら、苦笑するアルテミス。
俺の微妙な表情に気づいたのだろう。
別に差別的な意味はないぞ?
「レディにはそれにふさわしい言動があるだろう?せっかく美しいのだから、勿体無いではないか」
この際だから不満をぶつけてやれば、アルテミスがらしくもなくウロウロと目を遊ばせた。
「そ、それは…ありがとう?」
「ついでだから言っておく。
アルもわざと粗野な言動をする必要はない。
アルフレッドも美しいのだからな。
身なりにも肌にもきちんと気を配っているだろう。
爪先まで綺麗に手入れされた手。みずみずしい肌」
そっとアルテミスの手を取り、丁寧に磨かれた爪に賞賛のキスを贈る。
そして、驚くアルテミスの目をしっかりと見つめて真摯に告げた。
「アルテミスもアルフレッドも、どちらも君でどちらも美しい。
生来の美しさだけじゃない、それは君が努力して磨いたものだろう?
誇れ。大切にしろ。
無理にとはいわない。だが、俺がこう思っていることは知っていて欲しい。
俺は自分の大切なものがぞんざいに扱われるのは好きではない。たとえそれが君自身によるものでもな。
……以上だ!」
言ってやったぞ、と胸を張る。
前回会った時から惜しいと思っていたのだ。
これから長い付き合いになるのだから、アルテミスには俺の気持ちを知っていて欲しい。
きちんと伝わっただろうか?
目を下から覗きこむと、アルテミスは目元を両手で覆い、しゃがみ込んでしまった。
「どうした?大丈夫か?」
慌ててその背を支えようと後ろに回れば、首筋から耳まで真っ赤になっている。
「アル⁈」
「い、いや、大丈夫。大丈夫だから…。いや、大丈夫じゃない、やっぱ無理だこれ…」
頭を抱え込むようにして小さく震えるアル。
「シル!シル!アルが大変だ!」
慌ててシルに助けを求めれば、シルは声も出さずに腹を抑えて笑っていた。
「おい!何を笑っているんだ!そんな場合じゃないだろう!」
アルの背を必死に撫でながらシルに怒りをぶつけた。
友人ではないのか、この薄情者がっ!!
するとシルが「待て」と片手を俺の方に突き出してきた。
笑いすぎて涙まで出ている。
なんてヤツだ!見損なったぞ!
「っ…み、みる…っ、いや、そい、つ…っ、照れてる、だけだからっ…ふはっ…はっ…あれ、無理だわっ、俺でもそうなる…っ!マジで、さすがミルだ!」
「は?何を言っている?アルは震えているんだぞ?そんな訳のわからんことを言っている場合か?」
「だから、恥ずかしすぎて震えてんだって!
本人に聞いてみろよ」
なにを言っているんだ?は?羞恥で?
まさかとは思ったが、シルが言うので一応聞いてみた。
「アル、大丈夫か?
具合が悪いなら正直に言って欲しい。すぐに医者を呼ぶから」
「……だ」
返事があった!
「なんだ?聞こえない。
すまないが、もう一度言ってくれ」
とたん。
しゃがみ込んで震えていたアルがすっくと立ち上がり(良かった!)俺を指差して叫んだ。
「シルの!言う通りだっ!!
なんなのこの羞恥プレイ!!
これでワザとじゃないとか、小悪魔すぎない⁈
シル、どんな教育したの⁈
これでも俺、モテまくりなんだよ?
美辞麗句だってささやかれまくりなの!
だけどこんなんなったことないんだけど⁈」
ふーっ、ふーっ、と真っ赤なまま、涙目で肩で息をしての突然の猛抗議。
な、なんだか知らんが、俺に責任がある…のか?
「す、すまない?」
「あー!だから、そうじゃないんだってえええ!!
会った早々、致死量のデレをかますのやめてくれ!
俺の身がもたないから!!」
「わ、悪かった。謝るから、落ちていてくれ」
「あのさあ!
この際だから俺だって言っちゃうけど!
ミルって、すっっっごおおく!かわいいんだよ!!」
どこからそう話が飛んだ?
「いや、可愛くないぞ?」
当たり前に返せば、地団駄踏む勢いで逆ギレされた。
「かわいいの!!
ミルってさあ、賢いよね?立ち居振る舞いだってさすがだし!」
「ありがとう。そう言って貰えて嬉しい」
「それそれ!なんで『賢い』とかは普通に受け取るのに『かわいい』は違うと思うわけ?
審美眼は確かそうだし、自分がかわいいのわからないわけないでしょ?
それにその中身!かわいすぎだし!!」
「賢いのはそれだけ努力してきたからな。振る舞いだってそうだ。
だが、自分の外見の判断には欲目が入るだろう?客観的に、外見を家族や婚約者に褒められたことはないしな。
性格に関してもずっとシル以外からは[可愛くない』『可愛げがない』と言われてきたからな。客観的判断だ」
アルの顔から表情が消え、低い低い声が。
「俺さあ、こいつの家族と婚約者、やっちまっていい?ちょっと一発殴ってくるわ!」
目が完全に座っている。
そのまま出て行こうとするアルを慌てて止めた。
「アル!大丈夫だ!
これまでずっと勉強漬けだったが、お陰で俺は賢い!努力して得てきたものは全て俺のものだ。俺の身になり力となっている!
だから、いいんだ!
あと、可愛げがないのは、これから学んでいくつもりだから問題ない!
もう感情を抑えなくていいし、公爵家にふさわしいだのも気にしなくていいのだから、少しはマシになるはずだ。
これからなんとかして可愛気を身につけるつもりだから、安心して欲しい!」
ピタリと止まってくれたので、ちょっと恥ずかしいが、これも付け加えてみる。
「外見だけは……すまんが生まれ持ったものだから仕方ない。だが、頑張って磨いていく」
「あーーー!!あーーーーー!!
かわいいかよ!!かわいすぎかよ!!!」
またしゃがみ込んでしまった。
そしてすぐに立ち上がると、俺の肩をがっしりと掴み、ガクガクと揺さぶられる。
「ミルはかわいいから!
誰が何と言おうと、かわいいから!!
サラッサラの銀の髪も、キラキラしたアメジストの瞳も、ぷるっぷるの唇も、柔らかなほっぺも、なにからなにまでかわいいからな!
中身だって、百戦錬磨の俺がダメージくらうくらいにかわいいの!異論は認めない!
ミルはかわいいからな!
俺も俺が大切に思うミルがぞんざいに扱われるのは好きじゃない。たとえそれがミル自身によるものでもな。
だかや、お前だって誇れよ!自分を大切にしろよ!
ミルはかわいいの!わかれ!
シル!そうだよな!」
「ああ。ミルがかわいいのは当たり前だ。
外見だってかわいいが、中身も天使だぞ!
ミルはかわいい。存在するだけでかわいいし、口を開いてもかわいい。全てがかわいい。
何度も言ってるだろ?これが真実だ」
二人からかわいいを連呼され、ガクリと足の力が抜けた。
真っ赤になる顔を隠して床にしゃがみ込みながら、俺はさっきのアルの気持ちを理解したのだった。
これは…嬉しいが途方もなく恥ずかしい!!




