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悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。  作者: をち。


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シルに報告

帰りはミルフェとランジェは本屋に寄るというので本屋で下ろしてそこで別れた。

待っていて屋敷まで送ると言ったのだが、


「本当に大丈夫ですわ!待たれると安心できな…コホン、ゆっくり選べませんし!」


「うちの商会が近いから大丈夫よ!商会の馬車でミルフェもきちんと送るから!」


と固辞されてしまったのだ。

ご令嬢だけで置いて帰るのも……と思ったが、クラウスとジークが「いや、置いてってやろうぜ?」「きっとふたりだけで見たいものもあるんだよ」と訳知り顔で頷いたので従うことにしたのだ。



残りの二人だが、クラウスは寮だというので、学校に送った。

辺境伯の王都の屋敷もあるそうだが、寮の方が気楽でいいのだという。

また寮の部屋に招待してくれると言っていた。寮とはどんな感じなのだろう?とても楽しみだ。




最後に残ったのはジーク。

彼は「クラウスと一緒に学校で下ろして貰えれば自分で帰るから大丈夫だよ」と言ったのだが、せめてジークくらいは送らせて欲しいと無理をいって屋敷まで送らせてもらえることになった。


「殿下とレオと一緒だととてもつまらなかったのだが……ジークたちと馬車に乗るのはとても楽しかった。時間が過ぎるのがとても早く感じて…。

わがままを言ってすまない。なんだか離れがたくてな。もう少しだけ話ができたらと……」


恥ずかしかったが、それでも無理をいったので正直に詫びれば、ジークはおでこに手を当て早口で何やら捲し立て始めた。


「シル先輩、これ、ミルの素ですか?ヤバくないですか?

どうやって育てたらこんなに純粋培養されるんですか?話を聞いた限り、こういってはなんですが、ご家族は……アレですよね?

ということは……」


「私が育てました」


何故かいきなりドヤ顔のシル。どうした?


「ああ……。納得しました。

氷の令息だとか言われて冷遇されてた割に、全く擦れていないから驚いたのですが。

ずっとシルさんが守っていたのですね。

……ミルの傍にいてくださってありがとうございます」


え?今度はジークが頭を下げ出したぞ?どういう流れなのだ?


「礼は必要ありませんよ?私のほうこそ、私のミルリース様と仲良くしてくださってありがとうございます」


今度はシルが頭を下げている。謎だ。


「あ、はい。そういうことでしたか。うん。理解いたしました。

ご安心ください。そういう気持ちではございませんので」


ジークが俺の顔を見て微笑んだ。


「ミルとはいい友人でありたいと思っております」


しっかりと握手をしあう二人。


どういう会話なのかまでは分からないが、どうやら二人の間で分かり合えたようだ。

なにはともあれ、俺の大事なシルと友人が仲良くなってくれるのはとても嬉しい。


「ジーク、俺もジークとはいい友人でありたいと思っているぞ?」


首を傾げてにこにこしながら手を差し出す。


「「?」」


「?俺とは握手しないのか?」


ジークが叫んだ。


「こういうところですよねえ!!!」


どういうところだ?

まさか、俺はダメだったのだろうか?

いい友人でありたいと言ってくれたのに…


やはりこういうことは俺には難しいのかもしれない。

しょんぼりと肩を落とせば、


「ああ、違う違う!ミル、握手しよう!」


二人ともしっかりと俺とも握手してくれた。

少し嬉しい。



「ほんと、こういうところなんですよねえ……」


「ええ。かわいいでしょう?」


また二人でなにか分かり合っている。

少しだけ寂しい。






侯爵家の王都の屋敷は、学校から馬車で20分ほどのところだった。

郊外というほどでもないが、喧噪からは少し離れた落ち着いた雰囲気の場所だ。

公爵家よりも少し小さいが、それでも十分に大きな屋敷である。

正面の本邸、そこから左右に羽のように広がる別棟。

全体的にすっきりとした造りで、外からでもその機能美が分かる。


「なんだかジークの家って感じだな。すっきりしていて、でもなんだか暖かそうだ。とても良い邸だな」


「ありがとう。そう言って貰えてうれしいよ。

シル様、わざわざこんなところまで送って頂きありがとうございました。

ミル、時間があるなら少し寄っていくかい?

シル様も、同じ学院の先輩としてどうぞご一緒に」


「お気遣い頂きありがとうございます」


「本当にお邪魔していいのか?」


友人の家を訪問するなんて初めてだ。


「もちろん。お時間があるのであればぜひ。

家人に告げてくるから、少し待っていてくれる?」


ジークが屋敷に入っていくのを見送る。

今日は初めてのことばかりだな。しかもどれも嬉しいことばかりだ。




そわそわしながら待っていると、シルがにこりとほほ笑み「よろしければ……」と馬車から何か包みのようなものを取り出してきた。


「?なんだ、これは」


「手土産にちょうどいいんじゃないか?

さっきの店で買っておいた。クッキーだ」


「!そうか、手土産!

嬉しすぎて失念していた。ありがとうシル。助かった」


「ふふ。どういたしまして?

良かったな、ミル。友達の家なんて初めてじゃないか?」


「ああ。……どうしよう?どこかおかしなところはないか?」


慌てて身だしなみをチェックする。

上着に皺などできていないだろうか?


「大丈夫。いつも通り完璧だよ」


ちょいちょいっと襟元を治し、ポンポン、と肩を叩いてくれた。

それだけで浮ついた気持ちがちょっと落ち着いた。


「学校でもな、みんなが優しくしてくれたんだ。

クラウスやジーク、ご令嬢たちのおかげだと思う。

ほんとうに……すごく楽しかったんだ」


「そうか。ふふ。ミルの良さがようやくみんなに伝わったんだろう」


「そうか?友達ができて、一緒に授業を受けたんだ。

昼も一緒にとった。

ルディアスからも庇ってくれたんだ」


ルディアスの名前が出たとたん、シルの空気がピリッと引き締まる。


「ルディアスが来たのか?」


「ああ。これまで俺のことなど気にもしていなかったくせに、わざわざクラスまでやってきたんだ。

後で詳しく話すな?」


「ああ。聞かせてくれ。

で、大丈夫だったのか?」


そっと俺の背に手を当て、気遣うように俺を覗き込むシル。


「シル、大丈夫。違うんだ、今日は最高の1日だった。みんなのお陰でな。

俺は……今日はひとりじゃなかったから」


「…………良かったな」


「ああ。こんなにいいことばかりでいいんだろうか?

そのうえ、これからジークの屋敷にお邪魔するんだぞ?

なにかしっぺ返しが来そうで怖い」


「ミルにはさ、これまで幸せになるはずだった分のポイントがたくさん溜まってるんだよ。

だったら、これくらい使っても全然問題ないはずだ。だろ?

これからミルは幸せになるんだ。

安心して『いいことがいっぱい』を楽しめ」


「うん」




お待たせ、とジークが笑顔でドアを開けてくれる。

ようこそいらっしゃいました、と使用人が頭を下げてくれた。


うん。「いいことがいっぱい」を楽しもう。

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