友達とはいいものだな
楽しい時間はあっという間だった。
クラウスはケーキを六つ(凄すぎる!)、ジークと俺は三つ、そしてご令嬢たちはそれぞれ四つもケーキを食べた!
途中で皿を交換したりして、たくさんの種類を味わうことができた。
すごくすごく楽しかった!
俺のこれまでのこと(ケーキが好きだけれども禁止されていたことなど)を話すと、みんな顔を真っ赤にして憤慨してくれた。友人とはいいものだな。
「それでそんなに嬉しそうにケーキを食べるのね。納得」
「子供に甘いものを禁止するだなんて、地獄に落ちるといいのですわ!
神様、精霊様、どうかミルのお父様が毎朝足の小指をぶつけますように!」
「あははは!お祈りなのか呪いなのかはっきりしろよ!
じゃあ俺は……ミルの親父さんの靴紐が歩き出してすぐにほどけますように!」
「うふふふふふ!それも嫌ね!
じゃあねえ、私は…出かけるたびに馬車が轍にはまりますように!」
「これなんの呪い?僕は、ドアの取っ手を握るたびに静電気がおきますように、にするね」
「ふふっあはははは!みんな最高だ!
呪いの効果があるといいな!父上を観察してみるよ。楽しみだ!」
みんなと笑いあっていると、過去のこともなんだか面白く思えてくるから不思議だ。
父上にそんな呪いが……と思うだけでおかしい。
「ふふっ。父上の顔を見るたびに思い出して笑ってしまいそうだ」
「小指をぶつけて静電気にやられて、靴紐がほどけた状態で朝食の席に来るわよ。楽しみね」
「あははは!もうやめてくれっ!僕は君たちの顔を見るたびに笑ってしまいそうだ」
ジークまでもダメージを負ってしまった。
このことも後でシルに教えてあげよう。きっと大笑いするぞ!
「うふふふふ。地味な不幸って重なると嫌なものなのよねえ」
ミルフェがくすくすと笑った。
「わかるわかる!
俺、今は寮なんだけどさあ、シャツを洗い忘れて、おまけにしわしわになってたときとか!」
うんうん、と訳知り顔をするクラウスにジークが突っ込む。
「クラウス、それは因果応報って言わないか?
シャツを洗い忘れたから皺になったんだ。一つに数えていいと思うよ?」
「そもそも、不幸っていうより自業自得でしょ!
アンタ辺境伯の息子なんだから、ランドリーサービスくらい使いなさいよ」
「うちはさあ、自分のことは自分でって教育方針なんだよ。いざって時に困るだろ?
うちの家族は、料理も洗濯も掃除もできるぞ!」
自慢気に胸を張るクラウス。
「いい家族だな」
「貴族っぽくはねえけどな?俺は好き。かたっ苦しいうちよりもよっぽどいいぜ?
そうだ!ミル、卒業したら辺境に来ればいい。
ミルはあたまがいいから俺のサポートしてくれよ!」
「おい、勝手に勧誘し始めるな!ミルにもミルの予定があるだろう」
「ええ?だって、公爵家を継がねえんだろ?なら外に出るか婿入りになるじゃん。
あ、じゃあ、ウチに嫁に来るんでもいいぞ?ミルなら歓迎する。いつでも人手不足だからみんな大喜びだぞ?」
「こら!ナンパしないのっ!それなら私のお婿に……」
「ランジェ……」
「ごめんなさーいっ!」
みんなが俺を案じて、あえて明るく誘ってくれているのがわかる。
その気遣いがたまらなく嬉しい。
ついつい顔が綻ぶ。
多分、昨日と今日だけで笑った回数は、この十年に笑った回数をとうに超えてる筈だ。
にこにこしていたら、みんなもにこにこし始めた。
「ミルがそうやって笑ってるの、いいですわね」
「うん。ずっとそうやって笑ってろよ?嫌なことがあれば俺たちに相談してくれ」
「そうそう。もう一人で耐えちゃダメよ?私たちがいるんだからね!」
「今まで頑張ったな」
きゅ、とジークが手を握ってくれた。
「ありがとう。
うん。頑張ったが、ダメだった。だから離脱することにしたんだ。
殿下のことはその第一歩だな。
俺は、これから商売をするつもりだ。
いずれは公爵家をでて平民になろうと思っている。
そんな俺でも…友達で居てもらえるだろうか?」
俺の言葉にみんな一瞬言葉を失っている。
「え?ミル、商売するの?大丈夫か?
いや、優秀なのはわかるけど、騙されたりしねえ?」
「誰か助けてくださる人はいる?平民としてはミルは綺麗すぎるわ!くれぐれも気をつけてね?」
私でも力になれることがあれば、おっしゃってくださいね?
「だね!なかなか物騒だから。
公爵家をでて後ろ盾がなくなったら僕の名を出すといい。これでも一応侯爵家嫡男だからね?」
「俺だって武闘派で知られる辺境伯の息子だぞ?いざって時は頼れよ?」
「ふっふっふ!私を忘れていない?
私を誰だと思っているの?自慢じゃないけど、うちは子爵家。貴族に毛が生えたりようなもの。この中では一番平民に近いんだからね!
しかも…うちは商会を営んでいるのよ!
つまり、ミルに一番近いのは、わ・た・し!
ミル!街のことならなんでも聞いてね!」
「ランジェ…『貴族に毛が生えたようなもの』って…そんな威張り方聞いたことねえぞ?」
「そうね。気取らないのはあなたのいいところでもあるけれど…今のはどうかと思うわよ?」
「だね。ミル、ランジェより僕たちを頼るといい。ランジェを頼ると婿入りさせられるよ?」
「ひ、どーい!ミルにはシル様がいるって分かってるわよ!ねえミル?」
「あ、ああ。シルは一緒についてきてくれるんだ。二人で商会を興す。シルはとても頼りになるんだ」
みんな驚くより先にまるで俺の保護者のように心配を始めた。
それにしても…
「俺が平民になるのはいいのか?」
念のため聞けば、クラウスが呆れたように笑った。
「はあ?俺はミルが公爵家だから友達になったわけじゃないぜ?ミルがかわいいからだ!平民とか関係ねえぞ」
「だね。ミルがかわいいし素敵だから友達になったんだよ?」
ジークも同意する。
「そ、そうか。言われ慣れてはいないが、今日はみんながかわいいと言ってくれて嬉しい」
「私も!私もミルがかわいいですわ!」
「私も!すっごくかわいいと思ってるからね!」
「あ、ありがとう」
手放しの賛辞に気恥ずかしくてうつむけば、クラウスがそんな俺の頭を優しく撫でた。
「てこと!
ミルがミルなら、あとはどうだっていいんだよ。俺たちは友達、な?」
「ああ。わかった。友達だ。
……友達って、いいな。
俺、出会ったばかりだけど、みんなのことが大好きだ」




