友達とカフェ2
ケーキを食べ終えたころ、ふと、こんなことを言い出したのはジークだった。
「ところで、ミルフェとランジェはどうしてミルに本をすすめることになったの?」
「ああ、それは……」
「本です!私たち、読書会をしておりまして、定期的に本を買いにいくんですの。
ね、ランジェ?」
「そそそ、そうなの!!それで、たまたま本屋でミルと知り合ってね。
同じクラスなのですよ、ってお話したの!」
「そうそう!」
「俺はこれまで勉強としての本しか読んだことがなくてな。
これからは自分の時間を持つことにしたんだ。
それで、なにか流行っていることをしてみようと、シルに聞いてみたのだ。
流行っていてできるだけくだらないことがしたい、と。すると流行りの本でも読むかと言われ、本屋に行ってみたんだ。
しかしどのれんあ…」
「あーーー!!あーーーーー!!そうそう!そうでしたわねえ!
私たち、本棚の前でバッタリお会いしまして。どれがいいのかと悩んでいらしたのでおすすめの本を紹介したのです」
「ええ。人の心の機微が描かれた素晴らしい本をね!」
いきなりの大声にビクッとしてしまった。
ど、どうかしたのか?
「う、うむ。確かに繊細な心理描写の美しい本だった。真実のあい…
「そうなんですの!!気に入ってくださって良かったわあああ!」
「そういやあ『美しい愛と友情の物語』とか言ってたな。そんなに慌てて…………いったいどんな本をミルに読ませたんだ?」
「ああ。流行りの本でな、本のモデルは俺に似たミルディ……
「人心掌握術よ!」
「?いや、あれはれんあ……
「人心掌握術ですわ!!!!」
「……人心掌握術と言えなくもない本だ」
ミルフェとランジェが肩の力を抜き「そうそう」とにっこりと微笑んだ。
昨今は恋愛小説のことを人心掌握術と呼ぶらしい。勉強になった。
しかし一つ不思議なことがある。
人心掌握術を描くには、男性同士でなければならないのだろうか?オススメされた全てが男性同士の恋愛だった。どれも心の機微がよく描かれ感動的ではあったのだが……
男性と女性ではダメなのだろうか?後継争いの可能性がある高位貴族以外では、そちらの方が一般的だと思うのだが……
後学のために聞いておこう。
「ところで、人心掌握術の本は男性同士の恋愛というのが一般的なのだろうか?
俺としては異性の方が恋愛の機会は多いのではないかと思うのだが……」
男同士の方が心の掌握が難しいから、とかいう理由なのだろうか?
首をひねれば、ミルフェもランジェも口をパクパクさせ真っ赤になって固まってしまっていた。どうやら困らせてしまったようだ。
「すまない。難しい質問をしてしまったかもしれないな。後でシルに聞くとしよう」
シルはなんでも知っているからな。
するとここで何故かジークがジトリとした目でミルフェたちを見据える。
「…人心掌握術、でしたっけ?それとも『愛と友情の物語』?男性同士の恋愛ですか…」
「あ、あははははー?恋愛に人心掌握、大切よねー?」
一方、クラウスもランジェを責める。
「人心掌握術、なあ…。確かにそうといえなくもない。
いや、趣味は人それぞれだぞ?否定はしない。
だけど、な。ミルになんてもん勧めてんだよ!
こいつそういう類の免疫ゼロだぞ?そのまんま信じるぜ?」
俺は慌ててランジェを庇った。
元はと言えば、彼女たちにお勧めを聞いた俺に責任があるのだ。
「い、いや、俺が読みたいと言ったんだ!二人を責めるな!
それに、さっきも言ったと思うが、お勧めしてもらった本はどれも大変興味深いものだった。
ふたりにはまたぜひお勧めを教えてほしい。
俺は流行りにはうといからな。勉強になった」
ここで俺は良いことを思いついた。
「そうだ!クラウスとジークも読んでみるといい!俺が読み終わった本でよければ貸すぞ?
迷惑をかけたクラスの皆にも貸し出そう!喜んでくれるだろうか?」
「ミ、ミル、やめて!わかった!わかったからあああ!」
「ほらな?俺が言った意味がわかっただろ?」
「いや、本当に素晴らしい本だったのだ!真実の愛にも感動した。みなにもぜひお勧めしようと思う!」
「や、やめてくださいませえええ!おねがいっつやめてええええ!!
実は異性の方が一般的ですのっ!そちらをっ!そちらをお貸し致しますからあああっ!!」
「?そうなのか?
貸してもらえるのならばありがたい。二人のお勧めなら信頼できるからな!」
「ああ……ミルの純粋さが刺さるわ……」
「大丈夫か?迷惑ならば無理しないで欲しい」
「ミルううう!なんていい子なのっ!!
凄く厳選したのを貸してあげるわね!楽しみにしててっ!まずはランジェ渾身の一冊を選ぶわ!!」
「ええ!そうね!今度は誰にお勧めしても恥ずかしくない本を選ばせていただきますわっ!」
「あ、ああ。よろしく頼む」
……あの本は人にお勧めすると恥ずかしいらしい。
またひとつ学んだ。




