友達とカフェ
シルが向かったのは、昨日連れて行ってくれた天国のようなカフェだった。
「ここは!」
我が意を得たりとシルがほほ笑む。
「皆様におすすめを紹介されては?」
「うん!そうだな!
みな、一通りの味を試したのだ。好みがあれば言ってほしい。ピッタリのものを案内できると思う」
友人の役に立てそうで嬉しい。すこしそわそわしてしまう。
シルは別の席に座るというので、五人で席を取り、ケーキを選ぶためケースの前に。
ずらりと並んだケーキにランジェが歓声をあげる。
「ここ、気になっていたのですが入るのは初めてです!うわあ、とってもたくさん種類があるのですね。素敵だわあ!」
頬が上気していた。
女性はやはり甘いものが好きなのだな。喜んでくれてよかった。シルのおかげだ。
「うん。これだけ揃っているところは初めて来たよ。凄いね」
ジークも心なしか嬉しそうだ。
「ミル、これ全部食ったのか?すごいな!
てか、甘いものすきだったんだな、かわいすぎかよ。
なあ、ミルのおすすめはどれだ?どれも美味そうで迷っちまう」
「あら、私も知りたいですわ!解説していただけますか?」
クラスメートとミルフェもワクワクした様子。
ようやくみなの役に立てそうだ!
「!まかせてくれ!」
俺は意気揚々と解説した。
「このイチゴのケーキは、甘さと酸味のバランスがちょうどいい。口中に広がるイチゴの爽やかな果汁!甘さを抑えたクリームがイチゴの本来味をを引き立てている。重いのが苦手でも、これなら美味しく食べられると思う」
「このチョコレートケーキは凄く濃厚なんだ。どっしりとした口当たりでな、切ると中からとろりとチョコが溢れてくるんだ!ひとくちだけでも十分満足できる食べ応えだぞ!」
「ブルーベリのタルトもいいぞ。厚めのタルト生地がザクザクとしていて、食感が素晴らしい。上のクリームは固めになっていてな、クッキーとバランスをとっている。ブルーベリーも酸味が無くとても甘いんだ。クリームにはレモンも入っているから最後までさっぱりと食べることができる」
「甘いのが好きなら、俺のおすすめはモンブランだ!マロンクリームがなめらかで美味い!中のカスタードはもったりとしていて癖になるぞ!」
ケースの中を順番に説明するうちに、思わず熱が入ってしまった。
「⁈な、な…!」
気がつけば知らない人までがケース前に集まり、「ほう!」「美味しそうね!」「なら、これにしようかな」と俺の解説を聞いている。
慌てて口を閉じれば、「とても参考になったわ。ありがとう」などと礼まで言われてしまった。
死にそうに恥ずかしい。
今まで生きてきた中でもトップクラスの恥ずかしさだ。
みんな呆れているのではと恐る恐るふりかえると、そこにあったのは微笑ましそうな視線。良かった!呆れてはいないようだ。
しかし恥ずかしい。
クラウスがニヤニヤしながら俺を揶揄う。
「あれ?やめちまうのか?あとニ個残ってるぜ?」
「いや、すまん。つい嬉しくて我を忘れた。
……あまり揶揄うな」
「うふふ。はしゃいでいるミルも素敵でしたわよ?私もご一緒できて嬉しいですわ!
あまりにも美味しそうな説明で、全部食べたくなってしまいました」
「わかるわかる!ミル、本当にケーキが好きなのねえ!」
「うん。生き生きとしてたよ。
せっかくだから僕はオススメのモンブランを頂くことにするね。
僕も甘いものが好きなんだ。一緒だね?」
「!ジークもなのか?一緒だな!
ここはクッキーのテイクアウトもできたぞ?
ちなみにケーキは一人三個くらいまでは腹に入るらしい。それ以上は危険だ。
他のものも食べてみたければ言ってくれ。俺がそれを頼んでわけてやるから!」
真剣に言えば、ブハッとクラウスに笑われた。
「おま!どんだけ好きなんだよ!」
「あははは!ミル三個も食べたの?」
「シルと分け合って五個食べた。
シルはまるまる五個は食べられるんだ!すごいだろう!
俺は食べ過ぎて腹が痛くなった。やはり限界は三個だったらしい」
「ハハハ!真面目な顔で何を言うかと思えば!
やっぱミル、すんげえかわいいし、面白いな!
ミルと話すとめちゃくちゃ楽しい!」
「そうか?別におかしなことを言ったつもりはないのだが……」
首を傾げると、ミルフェに優しく頬をなでられた。
その指先はまるで羽のように柔らかい。
「うふふふ。ミルはそのままでいて!
ほんと、こんなにかわいい人だったなんて!
もっと早く知り合いたかったわ!」
「お互いにこれから知ればいいじゃない!卒業までまだまだあるんだし!ね?」
「だな!」
ケーキはどれも美味しかった。
ジークはモンブランとイチゴにしたようだ。
俺はチョコと定番のチーズケーキ頼んで、甘いもの好きなジークに「ひとくち食べるか?」と勧めた。
これも甘いもの好きなら好きだと思う。
あ、こういうときは「あーん」すべきなのか?
フォークで切り分けチラリとシルの方を見ると、黙って首をふられた。
友人には「あーん」はダメらしい。シル限定なんだな。理解した。
ジークにはフォークごと渡すことにする。
「ほら。食べてみろ。美味いぞ?」
ジークが固まってしまった。
(間接キス!まあまあまあ!)
(ご馳走様です!ミル様天使!ありがとうございます!ありがとうございます!)
何かおかしかったか?
慌ててシルを見ればシルが頭を抱えている。
これもダメらしい。
なんでもないような顔で、すっとフォークを自分の口に。
代わりに皿をジークに向け「どうぞ」と言ってみた。
これならいいだろうか?
シルが「うんうん」と頷いている。良かった。
(シル様と目で語り合っていらっしゃるわ!可愛過ぎません?ねえ!)
(あああ!シルミル!やはりシルミルよおお!)
(ミルさあ……いきなりデレが凄くね?こんなにかわいくて今までよく無事だったよなあ。天使かよ!
ある意味、悪評がミルを守っていた…ともいえるのか?)
「?ジーク?」
「あ、ああ!ごめん、ビックリして。
お気遣いありがとう。頂いていいのかな?」
ジークがニコッと微笑んで、フォークをのばす。
一切れ切り分け、そっとその口に。
やはり皿ごとやるのが正解だったようだ。
「!!なんだこれ!!」
そのまま目を閉じて無言でじっくりと味わっているジーク。
うんうん。そうだろうそうだろう。
とにかく濃い。口中に少しフルーティーなチョコの香りとビターな甘さが溢れ出す。まるで溶かしたチョコを口に流し込まれているようなのだ。
だがそれがたまらない。
自分が好きなものが認められるのは、嬉しい。
しかもそれが友人ならばなおさら。
大好きな甘いものを好きなだけ、しかも友人と食べられる日が来ようとは!
俺は幸せに目を細めたのだった。
その日は、みなと色々な話をした。
遠方から来たクラウス以外は中等部からの同級生だ。
中等部は成績順ではなかったからジークもミルフェたちも俺とはクラスが違った。だが、やはり噂は知っていたという。
ルディアスとレオリースが共に腕を組んで歩く姿も何度も見ており、「事情はどうあれ、婚約者をないがしろにするのはいかがなものか」と思っていたのだそう。
ただ、俺がそれを気にせず孤高を貫いているように見えたのと、知り合う機会がなかったので敢えて話しかけてはこなかった。
「話をしてみればよかった」
「ほんとね。あなたが孤高の人ってわけじゃないと知っていたら、もっと早くに話しかけたのに」
「俺も勉強づけで友人付き合いをする時間などなかったからな。だからお互いさまだ」
「俺は出会ってすぐ、ミルがいいヤツだってわかったぜ!」
クラウスが胸を張る。
「ふふ。俺もクラウスに道を聞いて良かった。
ありがとうクラウス」




