ルディアス再登場!
「おい、ミルリースは居るか!」
授業後、ルディアスがまたしても教室にあらわれた。
昼にも来なかったから、もう来ないかと思っていたのに。残念だ。
イージス様がもういらっしゃらない事だけは救いか。
ルディアスは、今度は中に入ってくることなく、きちんと入口で待っている。
まあ、これが本来の正しい行動なのだが。
さりげなく俺とルディアスの間に入り俺を隠してくれるクラウス達に、胸が温かくなるのを感じた。
クラスメートも心配そうな視線を向けてきたが、俺は大丈夫だと頷いて見せる。
皆の気遣いが嬉しい。
みんなに勇気をもらったような気がする。
おかげで冷静に対応することができそうだ。
ゆっくりとドアに向かい、殿下と対峙する。
「殿下、どういったご用件でしょう?」
俺の顔を見て少しだけルディアスの表情が緩んだ。
「あ、ああ。きちんと待っていたようだな、
……朝の話の続きだ。公爵家のもう一人とかいう……。
あれはいったいどういう意味だ?
私の婚約者はお前だろう。何があろうとそれは変わらないはずだ」
話すことを決めてきたのか、今度は感情に任せてではなく淡々と聞いてきた。
なので俺も特に不快を表すことなく事実のみを伝えることにする。
「言葉の通りなのですが?
……場所を変えませんか?このような場で話すことでは…」
俺はかまわないが、お前には不都な話になるぞ、と暗に匂わせてやる。
「ふん!構わぬ!
聞かれたくないのは、やましいことでもあるからか?
自分が正しいと思うのなら、堂々とここで話せばいい」
気遣ってやったのに、無駄だったようだ。
であれば遠慮は不用。
「良いのですね?ではここで。
そもそも私たちの婚約は、政略結婚。殿下を公爵家に婿入りさせるための王命なのです。
一応貴族の慣例上は、長子が後継ということになっております。
ですから、殿下が当主となるには長子である私を妻にするしかない、と私が婚約者となりました」
ふむ、と満足そうに殿下が頷く。
「その通りだ。それが分かっているならばなぜあのようなことを言った?」
「これな異なことを。殿下は『もうひとり』が婚約者の方が良いのでは?」
俺の言葉に何故かニヤリと笑うルディアス。
「まさか、嫉妬か?
言っただろう。レオは単なる『婚約者の弟』にすぎん。私の婚約者はミルリース、お前だ。それ以外はありえん」
宥めるような口調にイラっとする。
勘違いも甚だしい。
嫉妬するには相手に対してそれなりの情が必要だ。俺は殿下にはそんなものは持っていない。
「殿下、もう無理はなさらずとも良いのです。どうか殿下はもうひとりをお選びください。私はそれでかまいません。
実は……折を見て私は後継を辞退するつもりなのです。そうすれば必然的にもうひとりが後継に繰り上げとなります。つまり、婚約者は私でなくとも良いのです。
殿下が公爵家の後継と婚姻を結ぶことになるのは変わりません。後継が私から公爵家のもうひとりの息子に変わるというだけ。これで全て丸く収まります。
殿下の邪魔は致しません。私はむしろ二人の真実の愛を応援しているのですよ?」
黙って聞いていたルディアスだったが、我慢ならんとばかりに口をはさんできた。
「ま、待て!レオリースが真実の愛だなどと誰が言った!私はそのようなことを口にしたことはない!それに…後継を辞退してどうするつもりだ?お前はどうなる?
私が、私が好きなのはミルリースだ!!」
あえて名を出さないでやったのに。真実の愛と言われレオリースと名を出した時点で何かあると言っているようなものだろうが。
しかも、必死な様子で最後におかしなことを言いだした。意味がわからない。
「いまさら誰が『ミルリースが好き』だなどという言葉を信じるでしょうか?
心配するフリなど不用。いまさら気を遣っと下さらずともよいのです。
口に出さずとも、殿下はこれまでずっと態度で『ミルリースは嫌だ』『もう一人がいい』と示してくださったではありませんか。
婚約者との月に一度の茶会には必ずもうひとりを同席させ、傍に置き。
学内でも常にお連れになっておられましたよね?」
話が聞こえているのだろう。
中等部が一緒だったクラスメートが
「確かに!」
「レオリース様といつもご一緒でしたわ」
「ミルリース様のことは避けているように見えたなあ」
「好きなようには見えなかったぞ」
と口々に俺の言葉に同意してくれる。
「そ、それはレオリースが勝手に……!私が呼んだわけではない!婚約者の弟だからこそ優しくしてやったのだ!
お前と結婚すればレオも家族になるのだと思えばこそ…!」
「婚約者を冷遇しておきながら、その弟だから優しく?家族になるから?意味が分かりません」
周りからもうんうん、そうだそうだ、と頷く気配がする。
「なんと言われようとそれが事実なのだ!レオリースには『婚約者の弟』『未来の義弟』という感情しか持っていない!」
「まさか、あれらは無意識であらせられたのですか。はっきり申し上げねばご理解頂けないようですね。仕方ありません。
『レオは可愛げがあるのに』『レオを見習え』『婚約者がレオなら』と毎回仰っておりましたよね?
私と過ごす時間は無駄だと、最低限の義務である茶会以外の交流もされませんでしたし。
誕生日にも殿下の色は与えられず、殿下は公式の場で毎回ご自分の…レオリースの色を身につける。
殿下は、私よりもレオリースが良いのだと、常に私にも周囲にも示し続けてくださいました」
「ええ…そんなことまで言っていらしたの?」
「いくらなんでも…」
「酷えな」
とあちこちから声が上がる。
「そんな対応されたら、冷たくもなるわよねえ」
「ミルリース様のこれまでの態度にも納得ですわ」
「確かに中等部でも殿下はいつもレオリース様とご一緒でしたもの」
「ミルリース様、政略とはいえ、よく耐えていらしたな…」
ルディアスに冷ややかな視線が注がれた。




