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悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。  作者: をち。


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27/62

楽しい学校

その日はなんだかフワフワしたような気分だった。


中等部では、俺は三人がけの席にずっと一人で座っていた。

誰も横に座りたがらなかったからだ。

下手に俺やルディアス殿下の不興を買いたくなかったのだろう。触らぬ神に祟りなし、という状態だったのだ。


しかし、今日は違う。

左にはクラウスがいて、目が合えば笑ってくれる。

右にはジークがいて「ここはこうも出来そうだよね?」と当たり前のように話しかけてくれる。


後ろの席にはミルフェとランジェが。

楽しそうにクスクスと笑い、俺の背中をつついてきた。


「ミルリース様、ミルフェったら、可笑しいんですのよ?聞いてくださる?」


「あら!ランジェったら失礼ね!ミルリース様なら私の気持ちを分かってくれるでしょう?」


当たり前の友人どうしのような会話。

これまでの俺には夢でしかなかったものだ。

暖かな輪の中に自分がいることが信じられない。

夢ではないだろうか?


今日のことをなるべくたくさん覚えておいて、帰ったらシルに話してやろう。

俺にも友人ができた、こんな話をしたんだ、と。

シルは心配症だからな。きっとやきもきしながら俺の帰りを待っている。


「ミルリース様、何をお考えでしたの?

とてもお優しいお顔をされていましてよ?」


優しい顔?そうだろうか?


「俺の侍従のことを考えていた」


「まあ!昨日のあのお方ですね!

とても素敵な方でしたわ!ミルリース様を大変気遣っていらして。想いあっていらっしゃる様子が大層眼福でしたわあ!」


胸の前で手を組んで目を輝かせるミルフェ。


「シルは私にはもったいないくらい素晴らしい侍従なんだ。自慢の家族だ」


「うふふふ。ミルリース様はシル様が大好きなのね?」


ランジェが口元を緩めた。


「ああ。…そうだな」


とたん、周囲が静まり返った。


「?どうしたんだ?何かあったのか?」


クラウスに問えば、クラウスの顔が真っ赤になっている。


「クラウス⁈何があった?大丈夫か?

いや、こんなことが朝にもあったな。持病かなにかなのか?

ジーク、保険室に連れて行った方がよいのだろうか?」


振り返れば、ジークも赤い。


「ジーク⁈ジークもか?どうした?

教室の温度が高いのか?」


どうしよう。クラウスだけならまだしも、二人ともなると俺一人では担ぐこともできない。

こんな時はどうしたらよいのだ?


「慌てないで?」


落ち着いた声に顔をあげれば、イージス様だった。


「イージス様!友人が病のようなのです!

医務室に運んだ方がよいのでしょうか?」


こんなことは初めてでどうしていいのか分からない。

初めての友人なんだ。俺などと仲良くしてくれる、大切な友人なんだ。


「大丈夫だよ、ミルリース。ほら、もう通常に戻っている」


優しい声に促され二人を見れば、もう顔の赤みは収まっていた。


「よかった!なんだったんだ?心配したぞ!」


そっと目に滲んだ涙をぬぐった。

まだ胸がどきどきしている。なんてふがいない。


「ご、ごめん!驚かせてしまったな、ミル!俺はもう大丈夫だから!」

「僕ももう大丈夫。イージス様、お騒がせ致しました」


クラウスとが慌てたように必死で言い募る。

ジークも申し訳なさそうにイージス様に頭を下げた。


「ふふふ。大丈夫だよ。

君たち……ミルリースをよろしく頼むね?」


ふわりとほほ笑むイージス様に、二人は笑顔で胸を叩いた。


「はい。お任せください!友達ですから!」

「ええ。友人ですので」


ぽんぽん、と俺の頭を二度叩いてイージス様は席に戻っていった。

叩かれた頭も胸もぽかぽかしている。



とたん、固まっていた時間が動き出す。


「……びっくりしましたわ……。

ミルリース様のはにかんだ笑顔があんまりにもお可愛らしくて、我を忘れてしまいました」


ミルフェがため息をつけば、ランジェがうんうんと頷く。


「あれは反則ですわね。

クラウス様もジーク様も至近距離であれを食らえば赤くもなりますわよ」


ねえ、と同意を求められ、思わずしどもどしてしまう。


「そ、そうだったのか?病気ではなかったんだな?」


「あ、ああ。正直、ミルの可愛さにやられた。不意打ちはヤバい」


「そうだね。僕もあれは……無理だった」


可愛いのにヤバいとはどういう意味だろうか。

とりあえず病気ではなかったが、原因は俺だったらしい。

困惑顔の俺に、ジークが苦笑しながら説明してくれた。


「あのね、ミル。これまでは君、みなと距離をおいていただろう?

感情も出さないし、近寄りがたい空気を感じていたんだ。

でも、今日の君は違う。

なぜかは分からないけれど、肩の力が抜けてすごくいい感じだ。

そうなると……別の問題が出てくるんだよね……」


「問題?表情筋がまだ訓練中だからか。そんなにおかしな顔をしているのだろうか?」


気になってそっと頬を引っ張ってみる。

確かにまだまだ固いような気がする。


「逆だよ、逆!ぎこちない笑顔が、すんげえ可愛いの!

攻撃力倍増になってるんだよ。威力抜群!」


何を言っているんだ?

俺の笑顔にそんな威力があるわけないだろう?


「……分かっていませんわよ、これは」


「そうね。これまでのこともありますものね。どうもご自分のお顔の良さを理解されていらっしゃいませんわ」


なにやら眉を寄せてぶつぶつ言っているご令嬢。

ランジェがキッと顔をあげ、ビシっと俺にこう命じた。


「ミルリース様?あそこの彼に向かって微笑んでみてくださいませ!」


「は?え?何を……」


「ほら!とにかくやってみなさい!」


あそこ、と指さされたほうを見ると……あれはエリオット・スターツだ。

イージス様の取り巻きの一人でもあり、ゲームではレオの攻略対象でもある宰相の息子。

彼は俺がイージス様に近づくのを快く思っていない節があり、今も俺を睨んでいる。


が、とにかくやるだけやってみよう。


俺を睨む彼を、じいっと見つめてみる。

するとどうだろう。彼は狼狽えたように目をさまよわせ始めた。


「今よ!笑って!」


ランジェの言葉に励まされるように、勇気を出して笑いかけてみた。


俺には敵意はない。むしろイージス様には感謝しているんだ。

俺はイージス様の敵ではない、だから安心してほしい。


すると、彼はあからさまに挙動不審になり、ついには真っ赤になってうつむいてしまったではないか!


どういうことかと驚いていれば、「ほうらね!」とランジェが自慢気にほほ笑んだ。


「あのね、ミルリース様、ああもう、ミルって呼ぶわね?

ミルの笑顔にはそれだけの力があるの。

これからはあなた、笑っていらっしゃいな!

それだけでみんなあなたが好きになるから!私が保証してあげる。

それでも意地悪を言う人がいるなら、私が相手になるわ。

爵位は低いけれど、実家は大きな商会を持っているの。それなりの力はあるのよ。任せてちょうだい!」


堂々と胸を張る彼女は、まるで戦場の女神のように見えた。


「ふは!勇ましいな?ランジェ、すごくカッコいい」


「あら!それは誉め言葉じゃないわよ?」


頬を膨らませるランジェ。

ミルフェが我が意を得たりと軽やかな笑い声をあげる。


「うふふふふ!でもその通りなの。

私もミルって呼ぶわね?ミル、ランジェってとっても男らしいのよ!」


「ミルフェ!失礼ねっ!こんなに可愛らしいご令嬢をつかまえてなんてことを言うのよ!」


「あはははは!確かにランジェはカッコいい!

うーん、俺も負けてらんないな。

ミル!俺だって強いんだぜ?何しろ辺境で鍛えられてるからな。俺も頼れよ?」


「僕も忘れないで欲しいな?……力は……期待しないで欲しいけど、知識には自信があるよ?」


「ジークの細腕になんてはなから期待してないだろ」


「ちょっとクラウス。言葉をお選びなさいな」


「ふふ……。あははははは!もう、君たち!」


「「「「ミルが大口あけて笑ってる!」」」」


「ふ、ふふふっ…ああ、こんなに笑ったのは初めてだ。お腹が痛い。

あははは!笑うとお腹が痛くなるのだな、初めて知った!」


眼の端の涙をぬぐいながら言えば、ランジェがものすごく優しい表情で言った。


「そうよ。そんなことも知らなかったの?

これからは私たちがいろいろ教えてあげるから!

覚悟しなさい?」


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