クラスメートたち2
教室の場所は、中央棟一階の一番奥。一階から順に一年生、二年生、三年生と階が上がっていき、教室の奥から順にA、B、Cとクラスが進んでいくのだそうだ。
クラウスと話をしていたら、あっという間に教室についた。
楽しかっただけに、少し残念な気がする。
まだ始業まで時間があることもあって、生徒もちらほらとしかいない。
「おはよう! 」
クラウスが扉を開ければ、クラウスと目が合った生徒が軽く手をあげた。
「おはよう、クラウス!」
肩までのストレートな黒髪をサラリとゆらす彼は、パッと見た感じ、真面目で穏やかなタイプにみえる。
彼はクラウスの陰にいた俺に気付くと、繋がれた手を見てぎょっと目を見開いた。
「クラウス、そちらの方を……」
少し警戒したよう声音。口元は微笑んでいるのに、目は笑っていない。
よし、ここは意識改革の一環として、紹介されるまえに俺の方から声をかけてみよう。
「ミルリース・スノーデンだ。クラウスとはここに来る途中で友人となった。
クラスメートとして仲良くしてもらえたら嬉しい。よろしく頼む」
クラウスが俺を褒めるようにポンポンと俺の頭を撫でる。
「そういうこと! 俺とミルは友達になったんだ! ミルってばすげえ可愛いんだぜ」
クラウスはクラスメートたちに見せつけるかのように繋いだ手を上にあげ、ぶんぶんと振り回した。
「あっ! こ、こら! 危ないだろう! 」
クラウスの方が俺より二〇センチほど背が高いため、俺がまるで吊り上げられたようになってしまった。
(二〇センチくらい、年齢による誤差だ。俺はこれから大きくなるのだ)
あわててぴょんぴょんと飛び上がれば、クスクスと小さな笑い声。
「? 」
見ると、先ほどの彼が慌てたように口元を手のひらで隠している。
「あ、も、申し訳ない。スノーデン様はもっと……失礼ながら、もっと怖い方なのかと思っておりました。
わたくしはジーク・オルフェウス。一応このクラスの級長ということになっております。
殿下は公務でお休みされることがありますし、スノーデン様は昨日お休みでしたので、私がAクラスの級長に任命されました。
どうぞよろしくお願いいたします」
先ほどよりは柔らかな態度だ。良かった。
オルフェウス。産業のさかんな侯爵家の長男か。なかなかの人格者だと聞いている。そうか、この彼が。
ここで、俺を庇うつもりなのか、クラウスがとんでもないことを言い出した。
「ミルは怖くないぞ。どちらかというと、天然で可愛い」
天然⁈ 可愛い⁈ よりにもよってなぜそんな言葉を選んだ⁈
「クラウス! 俺はかわいくないと言っているだろう。
オルフェウス、謝る必要はない。公爵家の嫡男教育で、表情筋を動かさぬようにと言われていたからな。怖がられても仕方ない。
だがそれもこれから訓練していくつもりだ。表情筋が鍛えられるまで、大目に見てもらえればと思う。
俺のことはミルと呼んでくれ。敬語も不要だ。よろしく頼む」
「表情筋? え? どういうこと? 訓練? 」
一瞬ぽかんとした後、マジマジと俺の顔を見るオルフェウス。
ふは、と息を漏らし、肩の力を抜いた。
「……わかった。本当に噂とは違うみたいだね。僕のこともジークでいいよ。よろしく、ミル」
差し出される手。
それを見たクラウスが、満足そうに笑って俺の手を離した。
「? 」
え? もうやめてしまうのか?
残念そうに離れた手を見つめていると、クラウスに呆れたような顔で肘で脇をつつかれた。
「ほら、ジークと握手しとけ。友達がほしいんだろ? 」
そのままグイっとジークに向かって押し出される。
こ、こら! そんな強引な……! 俺はよくとも、ジークが嫌がるかもしれないだろう!
そう、クラウスとは違い、ジークは俺のことを知っていた。俺のこれまでのことも。
悪役令息と握手したいとは思わないだろう?
どうしたものかと迷っていると、「ふふふ。僕とも友達になってもらえるの? 」と、ジークのほうが俺の手を握ってくれた。
「あらためて、友達としてよろしく、ミル!」
「あ……ああ! ああ! よろしく、ジーク! 」
緩む顔を隠し切れない。嬉しい! どうやったらこの気持ちを伝えられるだろうか?
ぎゅっとジークの手を握り返し、クラウスがやったようにぶんぶんと振ってみる。
クラウスにされて嬉しかったから、俺も真似してみたのだ。
すると、されたジークが少し驚いた顔をしたから、クラウスに聞いてみる。
「おかしかったか? クラウスにされて嬉しかったから真似してみたんだが……」
するとクラウスが嬉しそうに歯を見せて笑った。
「ふは! 嬉しかったのか? かわいいな。
おかしくないぞ? だけど、ミルがやるとは思わなかったから、ちょっと驚いたんだと思う」
その言葉を裏付けるかのようにジークも笑う。
「うん。おかしくはないよ? ふふふ!(ほんとだ、クラウス。ミルって可愛いね)」
ジークがクラウスに何やら耳打ちしている。
なんだかわからんが、笑顔のところをみると喜んではくれたようだ。それならばいい。
「だから、かわいくはない。そうなるために鋭意努力中なんだ」
俺の新しい友人は、俺に甘すぎる。
変なことをしたときは、ちゃんとそう言ってほしい。鍛錬にはその方がいいと思うのだ。
「すまんが、俺は友人というものに慣れていない。
なにかおかしなことを言ったりやったりしたら、遠慮せず俺にそう言ってほしい。
これから鋭意努力して覚えていくつもりだ。
表情筋についても目下努力中だ。面倒をかけるがよろしくたのむ」
しっかりと頭を下げれば、パチパチパチ、とどこかから拍手が。
いつの間にか俺たちはクラス中の注目を集めていたようだ。
「スノーデン様! 俺たちも協力するから! 」
「スノーデン様って、とってもお可愛らしい方なのね。知らなかったわ」
好意的な声があちこちから聞こえてくる。
まさか、俺に言っているのか?
くるりとクラウスを振り返り目線で問えば、優しく頷いてくれた。
「ほら、ミル。みんなにも挨拶しとけよ。昨日自己紹介してないだろ? 」
「あ、ああ。あの、俺はミルリース・スノーデンだ。ミルリースかミルと呼んでくれ。よろしく頼む」
ふと思いついて、クラウスとジークの手を握って上にあげて見せる。
「クラウスとジークと友達になった! 彼らはとても優しくて親切だ。同じクラスになれたことを嬉しく思う」
俺にも友人ができたことを知らせれば、みんな笑顔でうんうんと頷いてくれた。
なんだ、心を開いて気持ちを伝えれば、みんなこんなに優しくしてくれるのか。
こんな簡単なことだったなんて。
これからも頑張って伝えていこう。
「ねえ、ほんとクラウス、こんな子どこで拾ってきたの? ミルってば凄く可愛いんだけど……」
「教室に向かう途中でナンパされたんだよ。可愛いだろ? 役得だったぜ! 」




