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悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。  作者: をち。


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俺とくだらない本3

なぜか頬を染めてお互いに牽制しあっている。

別にそんなことくらい聞かれても問題ないぞ? 


「ああ。俺の大切な人だ」


「「きゃああああ!」」


俺の答えを聞いたとたん、ご令嬢たちは手に手を取り合ってその場でぴょんぴょん飛び跳ね出した。

げ、元気なご令嬢なのだな? だが店内では控えたほうが……。


「あの、あの、私たち応援いたします!」


「なんて素敵なのでしょう!」


何故か大興奮したご令嬢たちは、うきうきした様子で何冊かおすすめの本を出してくれた。


「こちら、絶対におすすめいたします。読んだら感想を教えてくださいませ! 」


「ええ! 私もぜひお聞きしたいですわ! 」


感想か。それはやぶさかではないのだが、問題がひとつ。


「だが、君たちがどこの誰だが知らんぞ?」


するとご令嬢は今気付いたとでもいうように、改めて自己紹介をしてくれた。

 

「まあまあまあ! 大変失礼いたしました! そうでしたわね。今日はお休みされていらっしゃいましたものね。

私たち、同じクラスでございましてよ? 私たちもAクラスですの。これからどうぞよろしくお願いいたします。

改めまして、私、コンフィ伯爵家が次女、ミルフィーユと申します」


「私はレベル子爵家が長女、オランジェと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


クラスメートだったのか! これは幸先がいい!


「あ、ああ。俺は……」


意気揚々と名乗ろうとしたところを片手を上げて止められた。


「うふふ。存じておりますわ」


「私たち、このことは誰にも言いませんわ! ええ! 大切な方とご一緒だったことも、恋愛小説がお好きだということも内緒にしておきますので、ご安心くださいませ! 」


「そ、そうか? 」


別に誰に知られようとも問題はないのだが。

逆にそこまで言われると心配になってくる。これはそんなにおかしなことなのだろうか? 


俺がまごついている間に、ご令嬢たちは満面の笑みで「大丈夫です。分かっております」とウインク。


「お二人のお時間を邪魔してしまい申し訳ございません。

素晴らしい時間をありがとうございました。私たちはこれで失礼いたします」


「ええ。あとはお二人でごゆっくり。また学校でお会いしましょうね。失礼いたします」


ぺこり、とシルにも頭をさげ、「きゃああああ!」という悲鳴と共に風のように軽やかに去っていったのだった。


「………何だったんだ………」


ご令嬢たちの差った方向を見たまま唖然としていると


「ぶふっ! も、もうダメだ…っ! 」


シルが我慢の限界といった風に腹を抱えて笑いだした。

笑いすぎて涙をぬぐっている。


「どうしたんだシル? 何か面白いことでもあったのか? 」


「い、いや、いい。お前はそのままでいてくれ。

さあ、その本買って帰ろうぜ? で、感想を俺にも聞かせてくれ。楽しみにしてる。

お前のご希望通り、流行っていてくだらない本そのものだぞ! 

ふはっ。いやあ、いいものを見せてもらった!

良かったな、ミル。友達ができたみたいで!」


「あ、ああ」


とりあえずレジに持って行ったのだが、レジの店員に本と顔を二度見された。

そこまでくだらない本なのか。ある意味すごいな。

後でご令嬢たちに礼をせねば。





帰ってから、俺はその恋愛小説の主人公が男二人だと知り「なんだこれは⁈ 」と驚愕することになる。

おまけに本のうち一冊は、どう読んでも主人公が俺だった。

嘘だろう⁈ 


『愛する王子に裏切られ、悲しみに暮れる美貌の氷の公爵令息』

その切ない心情が切々と描かれているようだ。


『銀髪にアメジストの瞳の公爵家の令息、ミルディアス』

悲しみになんぞくれてはいないいが、これ、どう考えても俺だな? どういうことだ⁈ 

この感想を聞かせろと?

いや、どういう感想を言えばいいんだ?


シルにもパラパラと読ませたが、爆笑された。


「ミル、健気すぎないか? この『毎夜枕を涙で濡らし……』とか、『婚約者だというのに呼ぶことを許されぬ愛する王子の愛称を、ひとり呟くのだった』とか! くうううう! 泣けてくるな! 」


「笑いすぎて涙が出ているだけだろう! そもそも俺はルディアスなんぞ好きではない! 」


「あはは! 知ってる! だから面白いんだろ。くだらねえ! 」


大笑いするシルを見ていたら、俺も笑えて来た。


「ああ、ほんとうにくだらないな! 」


俺のこれまで。我慢に我慢を重ねていたことも、こうして恋愛物語にされてしまうと……いかにもくだらないことに思えた。


「さあ、このくだらない本を、全て読みきってみせるぞ! 」





翌朝。

そう、翌朝だ。

シルとふたりで本を読みふけり、気付けば朝日が昇っていたのだ。

だが後悔はない。

勉強で夜を明かしていたこれまでとは違い、この充実感たるや!


俺が主人公の本に加え、全ての本を読破した俺は、感動にわきたつ胸をそっと押さえながらしみじみと呟いた。


「シル…くだらないものは素晴らしいな。 

特にこの本! なんというか、俺、健気すぎないか?

俺なら俺にこんな思いをさせないぞ? こんなに一途な俺にクソ王子は何故気づかないんだ! 」


「いや、ミル、それお前じゃないだろ? 」


「俺は何故こんなヤツが好きなんだ? どう考えてもクソだろう! 」


「だから小説な? 」


「……どれも素晴らしかった。人の心のきびというものを学んだ気がする」


「そ、そうか」


なんだその可哀そうな子を見るような目は。

どうしてシルにはこの感動が伝わらないのだろう。


俺は学んだ。くだらないものは素晴らしい。

うむ! 彼女たちには感謝しなければな! 




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