俺とくだらない本2
というわけで、シルが本屋に案内してくれた。
図書室や図書館なら入り浸っているが、本屋に来るのは初めてだ。
本のマークが描かれた木製の看板。
「いらっしゃいませ」
店内に入ると、新しい本特有のノリとインクの香りがした。
店主に小さく目礼し、ぐるりと店内を見廻してみる。
小さな店内には、入り口のある壁を覗いて、コの字を描くように下から上までびっしりと本が埋まった大きな書棚が。
中央にも身長ほどの高さの書棚とブックラックがいくつか並んでいた。
書棚ごとに表紙の色が違っているところを見ると、種別に分けられているようだ。
そこは図書館と同じなんだな。
代々の家人が集めた本の並ぶ我が家の書庫より、本の数は少ないが……
「なんだかキラキラしているな? 」
「え? 感想それ? 」
「いや、全体的に背表紙の色が明るい。それに、なぜだか知らんが花やなにかが書いてある本が多い」
「恋愛小説だな。女性はこういうのを好むんだよ」
「そういうものなのか? 」
目についた本をパラパラと捲ってみたが、何がどれでどこがいいのかよくわからない。
いくつか抜き出してあらすじを見ていると、近くで女性の声が聞こえた。
「え? 嘘でしょう⁈ 」
「ミルリース様? なんで? どうしてあんな棚に? 」
「でも雰囲気が違うわよ。服だっていつもと違うし。……やっぱり別人じゃないかしら? 」
「あんな美貌のひとそこらへんにいるわけないでしょ」
俺の変装はもしかして変装になっていないのだろうか?
隣に立つシルを見上げれば「似合ってるぞ。かわいいし」と微笑まれた。
そういうことではない。
はあ、とため息をひとつ。
またまた面倒だ。
「失礼いたします。……スノーデン様……ですよね?
こんなところでどうされたんですか?
あのう……そこは恋愛小説のコーナーなのですが……。私たち、そこに用があるのです」
そうか。俺のほうが彼女たちの邪魔をしていたんだな。それは申し訳なかった。
「いや、そうか。シル、そこの場所をご令嬢たちに譲ってくれ。
どうぞ。こちらで選ぶといい」
「ありがとうございます」
二人は目配せし合うと、意を決したようにシルの立っていた場所で本を選び始めた。
いつも二人でこうしているのか「私はこちらから探すわ」「じゃあ私はこちらから」と探す箇所を分担している。
そうか。そうすればこの沢山の本の中からめぼしの物を素早く見つけることができるのか。
ちょうどいい。彼女たちが選ぶものも参考にしよう。
そう思ってじっと見ていれば、本を選んでいた手がピタリと止まった。
そして居心地悪そうにそっと目をそらされる。
「……あの……スノーデン様はこちらでなにを……。そのお……じっと見ていられますと、選びにくいのですが……」
「気にするな。君たちが選ぶものを参考にしようと思ってな」
「はあ⁈ 」「 えぇ⁈ 」
ご令嬢らしくない声が聞こえたが、聞かなかったことにしよう。
「スノーデン様、もしかして、恋愛小説をお読みになるのですか⁈ 」
恐る恐るとという体で俺に聞くその顔には、「まさかね」「棚の間違いでは? 」と書いてあった。
「ああ。読んだことはないが、これから読んでみようと思っている。
もし迷惑でなければ、君たちのおすすめを教えて貰えないだろうか? 」
「えええ⁈ 本当に読まれるのですか? 」
驚きすぎたご令嬢が転びそうになるのをシルがさり気なく助ける。
そこまで驚かれると、なんだか気恥ずかしい。
そんなに変だろうか? 流行っているのなら、私が読んだっていいだろうに。
「だからそう言っている。だが、こういうものには疎くてな。どれがいいのか分からないんだ」
とたん、ご令嬢たちの目の色が変わった。
警戒モードから一気に親しみを込めた態度になる。
「まあまあまあ! そういうことでしたらお任せくださいまし! 」
「冷酷……失礼! あの、噂では感情の乏しい方だと伺っておりましたが、どうやら私たちの誤解のようですわね。
照れていらっしゃるお姿がとてもお可愛らしいわ! 」
俺の手をとらんばかりにぐいぐいとくるご令嬢。
どうしようかと困っていると、頼みのシルは下を向いて笑を堪えている。
シルめ! 後で覚えていろよ!
「そ、そうか? そ、そう行って貰えて嬉しい。あと、俺のことはミルリースかミルでいい」
とりあえず俺に友好的なようなので、いちかばちか言ってみた。
するとご令嬢は目をパチパチと瞬かせたのち、ふわりと優しく微笑んでくれた。
「うふふ。承知いたしました、ミルリース様。私たちのおすすめでよろしいですか? 」
「ああ。君たちのおススメを教えて欲しい」
ここでもう一人のご令嬢が、なぜか目をキラキラさせながらこんなことを聞いてきた。
「あのー……大変失礼かと存じますが、そちらの素敵な男性はミルリース様のお連れ様でいらっしゃいますか?」
「ちょっとランジェ! 」
「いいじゃない。ミルフェだって気になってるでしょ! で、どうなのですか? ミルリース様」




