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悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。  作者: をち。


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16/18

◆◆ルディアス視点4◆◆

「ふざけているのか? ミルリース。瞳の色や衣装を変えたくらいで婚約者を見違えるとでも? 」


逃がすつもりはないと伝わったのだろう。

ミルリースは仕方ないとばかりに首をふり、大きくため息をついた。

そしていかにも慇懃無礼にこう言ってきた。


「《《かわいげのない婚約者》》に何の御用でしょうか?《《無駄な時間を取らせぬよう》》、気を遣ってわざわざ知らぬふりをして差し上げましたのに」


「かわいげがない」「無駄な時間」。全てミルリースと会うときに俺が口にしたセリフだ。

こうして自分が言われてみると、つくづく酷い言葉だ。

子供じみた照れや見栄、嫉妬……。

俺を見ないミルリースが憎かった。

悪態をつけば、少なくとも俺に怒りなりとも向けて来るのではないかと思ったのだ。

そうしたら謝罪し、会話すればいい。そんなバカげた計画。

理由はいろいろあるが、言い訳にはならない。

我ながらなんということをしていたんだろう。あらためて思い出しても、嫌われるようなことしかしてきていない。

それも含めて今後償っていかねば。


「そ、それはそうだが……」

「ご理解いただけたようですね。では、私のことは他人だとお思いください。

私のことなど気にせず、そちらのご友人とごゆっくりなさってください」


すっと俺から逸らされるミルリースの瞳に、カッとなった。

俺を見ろ!


「いや、お前今日は入学式だぞ!新入生代表だというのに、なぜ来なかった?

体調不良で休みと聞いたが、元気そうではないか。

まさかこのようなところでサボって侍従といちゃついていようとはな!

私の婚約者だという自覚はあるのか⁈」


お前を必死で探し、休みだと聞いて心配していたのに、こんなところで侍従といちゃいちゃ。

俺に見せたこともない可愛い笑顔を見せているとは!

俺が馬鹿みたいではないか!


「熱があったのですがもう下がりましたので。食欲がないので、せめて食べられそうなものをと侍従が気を使ってくれたのです。気晴らしを兼ね、連れ出してくれたのですよ。

邪推するのはやめていただけますか? 」


「食べられそうなものって……《《ケーキが》》か? 」


お前、ケーキは嫌いだったんじゃなかったのか? 


「《《ケーキが》》です。悪いですか? 好きなのです」


「嘘をつくな! いつも私との茶会では食べていなかったではないか! 

レオは喜んで食べていたというのに、お前は不機嫌そうにしていただろうが!」


茶会でもケーキに手をつけるのはレオリースだけ。お前は嫌そうにジロリと皿に視線をやるだけだったではないか! だから土産に持っていくのをやめたのに。


するとなんと、あの行儀のよいミルリースが俺を馬鹿にしたようにフンっと笑った。

いったい俺は何を見せられている? 

これまで俺が何を言っても冷静な顔を崩さなかったのに……鼻で笑うだと?


「私は《《食べられなかった》》のです。父に『女子供の食べるようなものは嫡男にふさわしくない』と《《禁止されていた》》ので。

それがなにか? あなたに迷惑をおかけしましたでしょうか? 」


「は⁈ 禁止⁈ 意味がわからん! レオは食べていたではないか! 」


こんなにたくさん並べるほどケーキが好きなのに、禁止? しかも兄にだけ許さず弟には許していたと? 

兄弟だというのに、そんな馬鹿なことがあるのだろうか?

公爵は、なぜそんな意味不明なことをしていたのだ?


ではミルリースは、大好きなものを訳の分からない理由で禁止され、弟がそれを喜んで食べるところを毎回目の前で見せつけられていたのか?

なんということだ! 酷すぎないか?


記憶を辿れば、5歳からずっとそうだった。

5歳の幼子が目の前に大好きなものを並べられたあげく我慢を強いられ、俺たちが喜んで食べるのをただ見せつけられていたのか。


初めて知った事実に言葉を無くしてしまう。

唖然とする俺に、ミルリースはにべもなかった。


「では、そういうことで。殿下もお忙しいでしょう? お友達が待っていらっしゃいますよ? 」


ここですかさず側近が作ったような笑みを浮かべ、俺に向かって慇懃無礼に頭を下げてダメ押しをした。


「ミルリース様は私がしっかりと邸までお連れ致しますのでご安心を」


「あ、ああ」



あまりの衝撃に打ちのめされたまま、俺は退場させられてしまったのだった。





追いやられた後もミルリースから目が離せない。

友人に話しかけられても気もそぞろ。

そんな俺に友人たちも困惑している。


「ルディアス様は、婚約者様をお嫌いではなかったのですか?」


「……嫌い? 俺が? ……違う。嫌われているのは俺のほうだ」


ミルリースは「無表情」「無感情」の氷の令息と言われている。

だが出会ったばかりの頃は、それでもまだ感情を表していたのだ。

はにかんだり、気遣わしげに俺を心配してくれたり。

それが無くなったのはいつからだったか。


これまで俺には見えなかったもの。見ようともしなかったもの。気付かずにいたことが他にもたくさんあるのかもしれない。

自分で思っていた以上に、俺は無神経だった。

ミルリースからしたら、明らかに酷いやつで敵でしかなかったことだろう。

「これから」に期待していた愚かな俺が馬鹿みたいに思えた。

言ってくれれば良かったのに、とも思うが、あんな態度だった俺に言えるはずもない。

自業自得だ。

俺はミルリースに嫌われている。そう。どうしようもないくらいに。



表情を取り戻し、嬉しそうにケーキを口に運んでもらっているミルリース。

拗ねたように笑い、楽しそうにはしゃいでいる。

そんな彼はどうしようもないほど可愛らしく、魅力的だった。



ふと目があったミルリースの側近が「どうだ。羨ましいだろう」とでもいうようににんまりと唇の端をあげた。


ああ、羨ましいさ!

俺は愚か者だ。笑うがいい!

今さらとりかえしなどつかないのかもしれない。

俺は改めて過去の自分を呪いたくなった。




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