◆◆ルディアス視点3◆◆
そんな甘い考えでいた俺は、ガツンと打ちのめされることになる。
高校の入学式。ミルリースは現れなかった。
これまで真面目な彼が学校を休んだことはない。みなから距離をおかれようと平然と登校し、超然とした様子で授業を受けていた。
成績だって、家庭教師をつけている俺が学年30位以内に位置しているのに対し、ミルリースはずっと首席を維持している。
そんな彼がまだ来ていない? 新入生代表の挨拶があるというのに、どうしたんだ?
きょろきょろと辺りと探していると、学園長が焦った様子で彷徨いている。どうしたのかと問えば、なんとミルリースから体調不良で欠席すると連絡が入ったのだという。
責任感の強いミルリースが新入生代表という役目を放棄して休むなんて、よほど体調が悪いのだろうか?
彼に会いに行ってみようか?
いや、やはりダメか。
これまで月一回の茶会以外に訪ねたことはない。急にどうしたと怪しまれてしまうかもしれない。
入学してからの1年をチャンスと捉えていただけに、初日にそれを挫かれてしまった。
俺はがっかりするのと同時に、どこか不穏なものを感じていた。
なにか得体のしれない不安が胸に湧き起こってくる。
自分でもどうしようもない焦燥にかられ、髪をぐしゃりとかき混ぜた。
「…………どうしたというんだ。まだこれからだというのに」
打ち消しても打ち消しても沸き起こるある思いが、俺を浸食し始めていた。
俺のクラスはBクラスだった。
残念ながらミルリースと同じにはなれなかった。
沸き起こる不安をごまかすかのように、同じクラスとなった数名を伴いカフェに寄ることにする。
ここで甘いものでも食べれば少しは気も晴れるだろう。
帰りに雑貨屋にでも寄ってなにか見舞いを購入しミルリースに届けてもいいかもしれない。
そうだ! それがいい!
そうしてこれまでのことを謝罪し、本当の気持ちを告げるのだ。
ミルリースは何が好きなのだろう。いつも本を読んでいるから本か?
そんなことを考えながらカフェに入ると、ありえない光景が目に飛び込んできた。
ミルリースだ!
体調不良で休んだはずの彼が、なぜか髪色と瞳の色を変え、見たこともない満面の笑みを浮かべ、向かいの男にケーキを食べさせてもらっている。
あれは……いつもミルリースと共にいる側近だ。
確か伯爵家の三男、シリウス。
妙に見目がいいことと、礼儀正しいのにどこか慇懃無礼な態度が鼻につくいけ好かないヤツ。
奴は茶会の度に俺を睨みつけるようにしてミルリースの傍に控えている。
そしてこれみよがしにミルリースに触れ、世話をするのだ。
気に食わない男だ。
ミルリースはヤツに向かって見たこともない可愛らしい笑みを見せている。
何故俺には向けない笑顔をそいつに向ける?!
体調不良ではなかったのか?
その瞳の色はなんだ?
どうしてそいつに「あーん」で食べさせてもらっている?
俺にはやったこともさせてくれたこともない癖に!
そもそも甘いものは好いていなかっただろう!いつもの茶会でも茶に数口口をつけるだけじゃないか!
言いたいことはたくさんあった。
なぜ!どうして!
お前の婚約者は俺だ。なのになぜお前の前にいるのが俺ではないんだ。
「……どうかされましたか、ルディアス様? 」
不自然に黙り込む俺を不審に思ったのか、友人が俺の視線の先を追う。
「いや、見知った顔があったのでな」
ミルリースに気付いた友人が「ああ、ご婚約者様でしたか」と苦笑した。
と、いつもとは違うミルリースの表情にハッとしたようにその目を見開く。
僅かに赤らむ友人の顔が妙に不快で、俺は身体で隠すようにして友人の視線を遮った。
「ミルリースか?」
なんとか気を落ち着かせ、何気ないふりを装って婚約者に声をかけた。
とたん、すっとミルリースの顔から笑顔が消えた。
「……どなたですか?」
首を傾げ、氷点下の視線を俺に向けるミルリース。
いつもの見慣れた表情。
いかにも俺とは他人だと言わんばかりの態度だ。
身体の正面はあの側近に向けたまま。
俺とここで会ったのは不本意だと、全身で訴えていた。
先ほどの表情とのあまりの違いに一瞬泣きたいような気持ちになる。
が、友人の存在もあり、それをなんとか抑え込んだ。
「まさか、婚約者の顔を見忘れたのか?」
余裕のある態度に見えるだろうか? 内心では自信などひとかけらもなかった。
でもこういう聞き方をすれば、ミルリースだって俺を無視できないはずだ。
他人のふりをしても無駄だと暗に伝えたのだが、返されたのはにべもない拒絶。
「私に婚約者などいませんが?」
カッと頭に血が昇るのが分かった。
ここまできてあくまでも他人を貫くつもりか!
そうすれば騙されるとでも? 俺を舐めているのか!?
俺がミルリースを見間違えるはずがないだろう!
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