◆◆ルディアス視点2◆◆
気づけば俺はミルリースに距離をおかれていた。
そのことに焦り、腹が立って余計にミルリースに辛く当たる。悪循環だ。
もう自分でもどうしたらいいのかわからなかった。
俺がそんな調子だからか、俺に勝手に忖度した奴らがミルリースを避けはじめた。
「あんな無表情だからルディアス様にも愛想をつかされるんだ」
「可愛げというものがない。まるで氷の令息だな。レオリース様とは大違いだ」
「ルディアス様もお可哀想に。婚約者がレオリース様なら……」
そんな噂が流れ出す。
そのたびにレオリースが
「そんな! 僕が悪いんです。ルディはお兄様のご婚約者なのに、僕が仲良くして頂いているから。それでお兄様が不機嫌に……」
「ルディの婚約者はお兄様です! お兄様が公爵家の後継なのですから。僕は次男です。公爵家を継ぐ権利がないのですから、仕方ありません」
と噂を否定しているのだが、ますます噂は広まるばかりだ。
もうどうしようもない。
ちなみに、このルディという愛称呼びも、俺とレオリースが愛し合っているという噂の根拠となっているようだ。
だがこれは、別に俺が許可したわけではない。レオリースが勝手に呼び出したのだ。
一応初めの頃に「勝手に愛称で呼ぶのはどうかと思う」と注意したのだが、レオリースにこう言って泣かれてしまった。
「ごめんなさい。僕、お兄様ができたみたいで嬉しくって……。お兄様は僕とあまり話してくださらないから。ルディはお兄様と結婚して僕のお兄様になるんですよね? だから僕、もっと仲良くできたらなって。でも、嫌ならやめます。残念ですけど」
こう言われてしまってはどうしようもない。これでダメだと言えば、お前とは仲良くしたくないと言っているようなものではないか。
それに「ミルリースと結婚したら俺が兄になる」という言葉に、なるほどと思った。どうせ兄になるのだから、もう身内も同然。ならばよいではないのかと思ったのだ。
レオリースが俺をルディと呼べば、婚約者であるミルリースも、俺のことをルディと呼んでくれるかもしれない。そういった期待もあった。
だが、ミルリースはあくまでも俺を「殿下」「ルディアス様」と呼ぶ。
「そうまでして俺と距離を取りたいのか」と俺も意地になり、レオリースをレオと呼び、ミルリースのことはミルリースと呼び続けたのだった。
レオリースといるのは楽だった。俺が何を言っても何をしてもご機嫌でにこにこしているからだ。
して欲しいことややりたい事は勝手にやるか口に出すから、ある意味分かりやすい。
でも、ミルリースは違う。
何を喜ぶのか分からないし、何を考えているのかも分からない。彼は俺の前では全く感情を見せなくなってしまったから。
本当はミルリースと仲良くしたかった。
でも、俺はそう言うタイミングも時期も逃してしまった。どう接していいのかも分からなくなっていた。
馬鹿げた見得と意地のせいで、ミルリースとの距離はどんどん開く。
その一方「王族に嫌われたミルリース」は、学校で生徒たちから避けられるようになった。
「婚約者からも見放されている氷の令息」。それがミルリースの代名詞となっていった。
しかし、俺はあえてそれを訂正しなかった。
ミルリースは俺にだけ好かれていればいいのだ。皆から距離をおかれていれば、誰もミルリースの魅力に気づかないだろう。ミルリースは俺だけのものだ。
そんな仄暗い独占欲が、確かにあった。
俺はミルリースの婚約者なのだ。王命で俺が公爵家に入ることは決まっている。どういわれようとミルリースと結婚するのは俺なのだ。
まだまだ時間はある。
高等部に入学すれば、レオリースと離れミルリースと私だけになる。それからがチャンスだ。
レオリースのいないところで、もう一度新たに話しかけてみよう。
素直に「俺は政略結婚は嫌だ。お前に一目惚れをしたのだ。今まで悪かった。俺にまたお前と仲良くするチャンスをくれ」と言って頭を下げるのだ。
そうすれば、聞き分けのよいミルリースなら、きっと許してくれるだろう。そしてまたあのはにかんだ可愛らしい笑みを見せてくれるに違いない。




