◆◆ルディアス視点1◆◆
俺はルディアス。側妃の息子で、第三王子として生まれた。
ちなみに、第一王子、第二王子である兄たちは、正妃様の息子で双子。第一王子であるイージスは皇太子、第二王子のサージェスは騎士団長として王国騎士団を管理する立場だ。二人とも立派に国に貢献している。
そして第三王子の俺はというと、皇太子でもなく、そのスペアとしての意味もなく、早くから降家することが決まっていた。
親心なのだろう。俺が「当主として」それなりの地位を継げるようにと、父は王命により俺を筆頭公爵家であるスノーデン公爵家に婿入りさせるため、スノーデン公爵家の嫡男ミルリースと婚約させた。
当主を奪われる形ではあるが、公爵家としても王族が家系図に加わることは家門にプラスになる。どちらにとっても利益がある、いわゆる政略的な婚約だった。
婚約といっても、俺の相手は女では無い。男だ。
余計な種は後の政略争いの種になる。だから、貴族の長男以外は、他家に婿入りするか、家門に残り同性婚をするのが通常だった。
俺の場合は婿入りとなるのだが、婿入り先で王家の種を撒き高位貴族が力を増すのを避けるため、同性婚となったのだ。こうして相手に選ばれたのが、スノーデン公爵家の長男ミルリース、というわけだ。
婚約が決まったときは、お互いまだ五歳だった。
本来な公爵家の当主として妻を娶り幸せな将来が約束されていたはずのミルリースは、俺に当主の座を奪われたあげく、子を埋めぬ同性婚の妻という立場になった。
俺も貧乏くじだが、ミルリースも貧乏くじだ。
どうせ俺を憎んでいるに違いない。そう思った。
顔合わせで会ったミルリースは……美しかった。
本当に男か? ウソだろ!
キラキラと雪のように煌めく銀髪。くっきりとした二重の紫の瞳は、まるで宝石のようだった。おまけに透き通るように白い肌で、薔薇の蕾のような唇をしていた。
小さくてすごく可愛い。侍従が読んでくれた絵本のお姫様みたいだ。
こんなにキレイな子を見たのは初めてだった。
俺を憎んでいるはなのに、ミルリースは、にこっと俺に微笑んで、綺麗な礼をした。
「お初にお目にかかります。スノーデン公爵家が長男、ミルリースと申します」
「あ、ああ。第三王子、ルディアスだ。よろしくたのむ」
馬鹿みたいに胸がドキドキして、顔を見ていられなかった。思わず顔を背け、ぶっきらぼうなもの言いをしてしまう。
この最初のやりとりが後を引くことになるとは、このときの俺は思ってもみなかった。
二人で話すようにと庭に出された俺たち。
ミルリースがなにか話しかけてくるのだが、俺はそれどころではなかった。
初めての感情にうまく頭がまわらない。
鈴を鳴らすかのように可愛らしい声だし、なんだかいい匂いまでする。
そのせいで俺の顔は火照り、鼓動もおかしいまま。緊張のあまり手も足もうまく動かない。
「殿下? 大丈夫ですか? 」
ミルリースが緊張する俺に気を遣って、俺の手に触れた。
バシッ。
ビリっとしびれたような気がして、俺はとっさにその腕を払ってしまった。
嫌だったわけじゃない。その逆だ。
手が、あんまりにも白くて小さくて柔らかくって。そんな手に触れられるのがどうしうようもなく恥ずかしくて。
びっくりするあまり、思わず払ってしまったんだ。
だが思いの外強く払ってしまったようで、俺に払われた手は、赤くなっていた。
それを見た俺は、ものすごい罪悪感に襲われた。
「あ……」
ミルリースの少し青ざめた顔に、一瞬悲しみと傷ついた色が浮かんだ。
「勝手に触れてしまい申し訳ございません」
「ま、待て! ワザとではない! お前が急に触れてくるから……っ! 」
そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ!
だって、もっとお高くとまった意地悪そうなやつが来ると思っていたから!
俺に対して悪意を向けて来ると思っていたから!
「まさか、お前のようなものが婚約者だとは思っていなかったんだ! だから驚いて……」
俺の言葉に、困ったような笑顔を見せるミルリース。
それは、最初に俺に見せたはにかんだような笑顔とは全く別のものだった。
ハッとして慌てて言い訳しようとしたが、遮られた。
「いえ。大丈夫です。殿下も私が相手では不本意でいらっしゃるでしょうが、これは政略結婚なのです。
愛がなくともお互いに良い信頼関係を築けるものと思っております」
彼の「政略結婚」「愛がない」という言葉に、ついカッとしてしまった。
「私をバカにするな! 政略結婚なんぞゴメンだ! 私は愛し合って結婚したいんだ! 」
俺は馬鹿だ。間違えたのだ。「お前と愛し合って」と言いたかったのに。
俺の意図とは裏腹に、それはミルリースを完全に否定し拒否する言葉となってしまった。
パシャン
彼の心の扉が閉まったのが分かった。
感情の見えない、まるで大人のような表情。
俺はミルリースとのボタンを完全にかけちがってしまった。
そこから俺は月に一度公爵家の茶会に行き、ミルリースと交流することになった。
その茶会には何故かレオリースというミルリースの一つ下の弟が同席してきた。
不思議に思いはしたが、公爵夫人に「同じ年頃ですし、将来は家族となるのですから。仲良くしてやってくださいませね」と言われ、俺は頷いた。
将来の義弟になるのだし、子ができない俺たちは、レオリースの子を養子として貰わねばならない。将来のことを思えば、レオリースとも仲良くしておくほうがいいだろう。
レオリースは、ミルリースとは違う意味で可愛らしい子だった。ミルリースに似た銀髪。しかしそのエメラルドの瞳はいつも楽しげで、明るく輝いている。
ミルリースを月とするのなら、レオリースは太陽。対照的な兄弟だ。
ミルリースはあまり笑わない。初めて会った時のようなはにかんだ様子はもう見せてはくれず、取り繕ったような笑みを浮かべるだけ。
「このケーキおいしいですよ! 」とはしゃぐレオリースとは違い、かすかな苛立ちを見せてケーキの皿を睨んでいる。
俺はそんなミルリースにイライラした。
わざと見せつけるようにレオリースに構い、甘やかす。
「レオリースのようにお前も可愛げがあればいいのに」
「お前は可愛げがないな。レオリースを見習ってはどうだ? 」
そうすれば、無表情のミルリースにほんの僅かな苛立ちが見えるから。それがまだ俺を気にしている証拠のように思え、俺はますますミルリースの前でレオリースを甘やかすようになった。
せめてもと誕生日にはミルリースの目の色のアメジストを贈らせた。
俺の色はミルリースには似合わない。彼にはアメジストの方が似合う。ただでさえよい印象を持たれていないのだ、下手に俺を押し付けるよりこの方がいいのではないかと思ったのだ。
俺は、宝石やアクセサリーはよく分からない。だから侍従に「アメジストのアクセサリーを贈るように」と頼んだ。
「本当にアメジストでいいのか」と聞かれたが、ミルリースのイメージに合うのはやはりアメジストだ。
侍従は俺とは違ってセンスがいいから、きっとミルリースも気にいるだろう。
侍従からは「アメジストなので、大きなものを取り寄せました」と報告を受けた。それならきっと喜んでくれるはずだ。
贈ったあと、感動したミルリースが礼を言いに来るのではと期待したが、型にはまった令状が届いただけだった。
次に会ったときも「アメジストをありがとうございました。殿下のお気持ちはよく分かりました」と冷たい声で礼を言われたのみ。
プレゼントが嫌いなのだろうか? もしくは慣れている?
俺のように多くの輩が美しいミルリースに取り入ろうと色々贈っているのかもしれない。
俺はそいつらと同じ扱いなのか? そう考えると不快だった。
まるで意地になったように毎年大きなアメジストを贈り続けたが、ミルリースの態度は変わらなかった。




