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悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。  作者: をち。


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12/18

嫌な奴と遭遇

注文を済ませしばしのち。


机の上にズラリと並ぶ色とりどりのケーキ!

こんなに素晴らしい光景があるだろうか。


「シル、シル! 素晴らしいな! 」


あまりの嬉しさに大興奮の俺。

シルは行儀悪く机に肘をつき、、そんな俺を見て口元をによによさせている。


その甘い視線になんだか急に恥ずかしくなり、言い訳めいたことを口にしてしまった。


「……俺にとって天国みたいな状況なんだ。いいじゃないか。ちょっとくらいはしゃいだって」


「悪いとはいってない。ミルが幸せそうで俺も嬉しい。はしゃいでるミルは可愛いなって思っていただけだ」


「俺の代名詞は『可愛げのない奴』だぞ? シルはちょっと目がおかしい」


「俺にはそう見えるんだからいいだろ? 言わせろよ。俺だってずっと言うのを我慢してきたんだから。もう解禁していいんだろう? 」


「……そんなに見られたら食いにくいだろうが」


唇をとがらせて抗議すれば、シルがとんでもない事を言い出した。


「じゃあ、俺が食わせてやろう。最初はどれがいい? 」


「は? 」


「ミルが好きなイチゴからにしようか? ほら、あーん」


ひょいっと俺からフォークを奪うと、イチゴケーキのイチゴをサクッと刺して俺に差し出す。


「ま、まさかそれを俺に食えというのか? マナー以前の問題だろう! そういうことは赤子や幼児にするものだ! 」


「赤子にするだけじゃないんだけどなあ」


目を優しく細めたシル。それでも止める気はないようだ。


「悪役なら絶対にしない行動だぜ? 悪役をやめるんなら勇気を出してやってみろ! ほら! 」


甘いクリームをまとわせた魅惑的な赤いイチゴを、目の前でゆらゆらと揺らされる。

ツヤツヤと輝くイチゴに真っ白なクリームが途方もなく映えていた。

ああ……


クソっ!


あーん、と小さく口を開けば、キュッとイチゴが中に押し込まれる。


「!!」


美味い! 甘酸っぱいイチゴの果汁が口中に溢れ出た。同時に滑らかなクリームが柔らかく溶けだしてくる。酸味と甘みの素晴らしいハーモニー! 


もっと、と口を開ければ「ふは! 」と笑いながらシルがつぎつぎと口に運んでくれる。


数口食べたところで、今度は濃厚なチョコ。そして次は……

ちょうどいいタイミングでチェンジされては差し出されるケーキ。俺は夢中で口を開け続けた。


「シル! シル! これがいい! 俺はこれが気に入った! 」






「ミルリースか?!」


そこに俺の至福の時間を邪魔するものが現れた。

クソ王子、ルディアスだ。

平民の衣装だというのに、よく気付いたものだ。うざいことこの上ない。

とりあえず知らぬふりを貫いてみよう。


「……どなたですか? 」


首を傾げ、「去れ」という気持ちをのせた氷点下の視線を向ける。

だが敵もさるもの。俺の拒絶をものともせずに近づいてきた。


「まさか、婚約者の顔を見忘れたのか? 」


「私に婚約者などいませんが? 」


あくまでも他人を装う。

せっかくの楽しい時間を邪魔されてたまるか! あがけるだけあがいてやる! 


だが、王子は眉をくいっとあげ、こうのたまった。


「ふざけているのか? ミルリース。そんな服くらいで分からないとでも? 」


そこまで馬鹿ではなかったようだ。残念だ。

俺は大きくため息をついた。

仕方ない。応対するしかないようだ。せっかく楽しんでいたのに、至福の時間が台無しだ。


()()()()()()()()()()に何の御用でしょうか? ()()()()()を取らせぬよう、気を遣ってわざわざ知らぬふりをして差し上げましたのに」


いつも俺と会っているときに「無駄な時間だ」というくせに、なんなんだコイツは! 

ルディアスのいつものセリフを逆手に取って嫌味を言ってやると、さすがに決まりが悪いとみえ、少しひるんだ。


「そ、それはそうだが……。いや、お前、今日は入学式だぞ! なぜ来なかった! 体調不良で休みと聞いたが、まさかこのようなところでサボっていようとは! 」


心配より先に俺の揚げ足取りか。そこまで俺が気に入らないなら、わざわざ話しかけてくるなよ。


「熱があったのですが、もう下がりましたので。食欲がないので、せめて食べられそうなものをと側近が気を遣ってくれたのです。気晴らしを兼ねて邸から連れ出してくれたのですよ」


「食べられそうなものって……ケーキが? 」


意外そうな表情でじろじろと机一杯のケーキを見るルディアス。

悪いか! 何を食おうと俺の勝手じゃないか。


()()()()です。悪いですか? 好きなのです」


「嘘をつくな! いつも私との茶会では食べていなかったではないか! レオは喜んで食べていたというのに、お前は不機嫌そうにしていただろうが! 」


「私は()()()()()()()()のです。父に『女子供の食べるようなものは嫡男にふさわしくない』と禁止されておりましたので。それがなにか? あなたに迷惑をおかけしましたでしょうか? 」


「は⁈ 禁止⁈ 意味がわからん! レオは食べていたのに? 」


ああ、そうだよ! レオにはなんだって許して俺にはなんだって許さなかったんだ! それが公爵家なんだよ! 

再度大きくため息をつくことで、何とかいらだちを抑えた。

コイツはどうしてこんなに俺に絡むんだ? 嫌いなら放っておいてくれ。


「では、そういうことで。殿下もお忙しいでしょう? お友達が待っていらっしゃいますよ? 」


さっさと行け、という意味を込めて口だけで笑ってやる。


「ミルリース様は私がしっかりと邸までお連れ致しますので、ご安心を」


タイミングよくシルがクソ王子を促してくれる。


「あ、ああ」


ルディアスはまだ納得しないような顔で、不承不承去っていった。





「なんなんだアイツは。せっかく楽しんでいたのに! 」


怒りに任せマナー無視で紅茶をガブ飲みしてやれば、シルが意味ありげに笑った。


「……俺はなんか分かっちまったけどな? 」


「何が分かったんだ? 

シル! 今度はそれを食う! ムカついたら腹が減った!

ん? その分ケーキがたくさん食えるなら、アイツもいい仕事をしたと言えるのか? 」


「ははは! ミルを怒らせてミルの腹を減らす仕事か! 」


「うるさい! ほら、早く食わせろ! 」


やけになって「あーん」と大口を開けてやる。


「アレがまだ見ているぞ? いいのか? 」


ふん! 


「だから見せてやるんだよ。これは悪役らしくないんだろ? ちょうどいい」


今日はとことん「らしくないこと」をしてやると決めたのだ。記念すべき「俺とシルの新しいスタート」なのだからな! 



結局ケーキは五つ分くらい俺の腹に入った。いや、ちょっと話を盛ってしまった。少なくとも三つ分以上は腹に入っているはずだ。

なぜなら容量オーバーで動けなくなってしまったからだ。情けない。次回は無理をしすぎないようにしよう。


俺が食い散らかした残りを、シルは嫌な顔ひとつせず全部平らげてくれた。

おまけに動けなくなった俺を膝枕でべンチで休ませてくれている。

腹は苦しいが、悪くない気持ちだ。頭を撫でる手も気持ちいい。


こんな風にゆっくりするのは初めてだ。

知らず、口元が緩んでいたようだ。


「良かった。ミル、回復してきたのか? 」


「いや、まだだ。……もうしばらくそうしてくれ」


「ふふふ。いいぜ? 好きなだけしてやる」


うん。悪くない。

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