婚約を破棄した王子と婚約者 それと元世界の神の視点
世界が神の庭だとしたら、異世界転移は外来生物が意図的に移植されたか、うっかり混じってきちゃったか(風や虫に運ばれたり、服や靴にくっついてきたりしたみたいに)
ウイルスみたいに感染して宿主の情報書き換えるタイプとかありそう 別世界の記憶もそのせいだったりしたりして(異世界転生?)
かえりたい かえりたいの ここじゃないどこか もといたせかいに わたしをかえして
わたしは ここにいるの どうかみつけて わたしをかえして
*
「ローゼンブルク公爵令嬢、今日この時をもって、そなたとの婚約は破棄する!」
学園の卒業式後のパーティー会場、上段に立ち開始挨拶をするはずの王子から発せられたのは、そんな一言であった
照明に明るく照らし出されたきらびやかな大ホールに集うのは、贅をつくした衣装に身をまとった貴族の少年少女たち
王子の宣言をきいて身を引いた少年少女たちの中に毅然と立つのは、赤いドレスに身を包んだ一人の令嬢
「婚約破棄 なぜですの?
この婚約は王命ですのよ
せめて理由をお聞かせ願えますか?」
「理由? 私が運命の相手に出会ってしまったからだ
彼女は私に寄り添ってくれた 心を救ってくれた
きみはいつも私にがんばれとしか言わず、どんなに私が努力してもまだ足りないと失望してばかりいただろう
もうきみとの関係を続けるのは無理だ 私は真実の愛に生きる」
王子が背後を振り向いてうなづくと、側近たちの間から、淡いピンクのドレスに身を包んだ華奢な少女が走り出してきて、王子の差し出した腕にしがみついた
「殿下 お慕い申し上げております」「私もだ 愛しているよ」
「真実の愛、ですか それが理由ですの?」
「そうだ 彼女こそが私の運命にして唯一」
公爵令嬢は目を伏せ、何かを飲み込むように、痛みをこらえるような表情を一瞬垣間見せた
それから上げた顔にはすでに弱さは見当たらなかった
「真実の愛、ですね 婚約破棄は了承いたしました
それではこれから、ざまあに移らせていただきます
よろしいでしょうか、陛下?」
いつのまにか奥の入り口に現れていた国王陛下に礼をとる彼女に対し、王はうなずきを返した
「致し方ない
ただこのまま茶番に皆をつきあわせることもあるまい、公爵家も交えて別に話をつけるとしよう」
「かしこまりました」
国王が手をあげると、騎士服の近衛たちがさっと現れ、王子と少女、背後の側近たちを取り囲んだ
「皆の者、騒がせたな 邪魔者はいなくなるゆえ、パーティを続けるがよい
ただしこのことはみだりに他言は無用ということで頼むぞ」
国王が奥へ退出し、いつのまにか王子達も近衛と姿を消していた
公爵令嬢も毅然とした姿勢を崩さぬまま出口に向かう
見守る周囲は口をきくことも憚られ、目をかわしあうばかりだった
*
私は 夢をみていた 愛し愛される幸福な夢を 彼女がいればそれでよかった
「殿下、私との婚約はお望みどおり破棄されましたので、最後のご挨拶にまいりました」
「破棄か すまなかったな 苦労を掛けた」
「殿下 なぜ、なぜなのです ずっと頑張ってこられたではありませんか
なぜここまできて投げ出してしまわれたのですか」
「もう疲れたんだよ 王家にうまれて、国民を守り立つ大樹となるべく強くあれ、努力を怠るなと言われて頑張り続けてきたけれど
どんなに努力しても優秀な弟や君と比べられ、まだ足りない、頑張ればもっとできるはずといわれ続ける」
「彼女を愛でて癒しを求めるとしても、ほかに道はあったでしょうに」
「王族は強くあり続けなければならない 弱さは罪だ
私は彼女に出会い、恋を知ってしまった
もう戻れない 夢をみせてくれたんだ 愛し愛され ここでないどこかで結ばれる幸せな夢を」
「それはご病気です 魅了されて偽りの夢を見せられただけですわ」
「病気、そうだろうね
でも病気になるのは、私が弱かったというだけだろう
王族を名乗るほど強くあり続けることはできなかった
暫く幽閉された後は毒杯かな 彼女もまた逝くのだろう」
「お子ができていないか確認しています もし生まれることがあれば神殿に」
「神託通りということだね ではこれで君とはお別れだ 弟とうまくいくよう願っているよ」
*
神から下されたことばは古き昔より神殿に伝わる書に記されている
「みだりに命を奪うなかれ 盗むなかれ 嘘をつくなかれ … 姦淫するなかれ」
はるか昔、人は驕り高ぶり神のことばを軽視し、神の怒りをかった
神は地上を焼き尽くし、海の水で満たした
水が引いたあと、生き残った少数の民が数を増やし国をつくったが、荒れた大地に困難は多く、民の生活は苦しいままであった中、神から新しい言葉が下された
「薄桃色の花咲く蔓に巻き付かれし者が真実の愛を唱えて婚約婚姻を破棄すると言い出したらば、速やかにざまあを行い隔離除去するべし もし子供ができていたら神殿に供えるべし」
彼女はなんと言っていて?
ーーー ただ帰りたいと繰り返しています ここではないどこか別の世界に 真実の愛の相手に出会って子どもができたら、その子だけでも元の世界に帰してもらえるかもって、かみさまが と
そう 戯言と片付けるには神託通りだものね 彼女の出現には神がかかわっているのでしょう
私はどうすればよかったのかしら
殿下を追い詰めてしまったから、疲れた殿下は彼女に惹かれてしまったの?
神託があったから、彼女が現れても手出しを許されず、殿下が真実の愛と口にされるまで傍観するしかなかった
彼女の子を神はお望みなのかしら
どうして、と問うてもせんなきことではあるけれど
ひとり閉じ込められた部屋の中、目を閉じて、記憶の中から彼女のいる景色を選び取る
初めて出会ったとき、学院の庭園のはずれの木立のなか、ひとり小さく歌を口ずさむ彼女の横顔
森の中、隠れて咲く小さな草花をみつけて、ひざをついてそっと触れていた細い手
蜘蛛の巣にかかった雨粒が風に吹かれてきらめきながら転がり落ちてくるのを笑いながら受け止めようとしていた姿
私が愛を告げたとき、はじめて正面から私をみてくれた、淡い翡翠色の瞳
癖のない髪は滑らかに手をすり抜けて捕まえることができなくて
彼女は慎ましく控えめで、何かねだってくることもなく、何か贈り物をしたいといっても、分不相応だと困った顔をして辞退した
飾りも、自分には重すぎてつけるのはきつくて不要だと
華奢な彼女には確かに貴族が好んでつけるような宝飾品は大げさすぎ重すぎるように思えて無理に贈ることもなかった
ドレスも窮屈で嫌だと言われ、温室育ちの切り花も地味な自分には派手すぎて落ち着かないと
彼女が好んだのは、人のいない静かな木立や水辺、吹きすぎる風と降り注ぐ光
木陰に咲く小さな花は摘むとすぐしおれてしまうからと、地にあるそのまま愛でていて
あともう少しだけ彼女といられたら、何もいらない 王族としての矜持も命も全て捧げようと
そして今は処断を待つだけの身であれば、覚めない夢に浸ろう 彼女の声を聴こうと記憶に耳を澄ませよう
確かに彼女がいたこと、私を選んでくれたこと、それだけでいい
*
(元の世界の管理神の独白)
また活性化体の出現報告があったが、これまでの例と有意な違いはないか
ざまあワクチンの効力にも問題はないようだな
アレを勝手に持ち出されたと分かったときは肝が冷えたが
クローンで増殖できる生命力が面白いから研究用に隔離して置いてあったのに、自分の世界の彩になるかも、と断りもなく勝手に持ち出していくとは、あの神にも困ったものだ
ろくに自分の世界の管理もできないんだから、さっさと降格してしまえばいいのに
異世界に転移させられた衝撃のせいか、あの神に適当に手を加えられたせいか、アレの遺伝子がウイルスに変異した挙句にひたすら交配相手を求めて増殖する力はむしろ増しているようだ
観察対象としては面白いが、被害が拡大しすぎてもこちらまで上位神に注意されるからな
ざまあワクチンを接種することで、活性化した感染体に巻き付かれた株を特定、除去できるようになって、国が滅ぶほどの大きな被害は防げているから、対処としてはこれでいいだろう
活性化体の子にどの程度形質が遺伝するかについては、引き続き要観察ということでよいな
(設定とか)
元の世界から勝手にこっちの世界の神によって持ち出された株の遺伝子が抜き出されて移植されたけど、衝撃うけたせいか変異して、ひたすら交配相手を求めるいわば恋愛脳お花畑になっちゃうウイルスが感染爆発してこっちの世界に蔓延しちゃった
神の教えより人の身分や決まりより、自分の感じる愛こそが真実、って信じるお花畑が広がって、国が滅ぶほど荒れ、神罰受けても除去はできなかった
恋愛ウイルスが、条件の合う子を見つけたときに活性化して情報を書き換え(異世界の記憶がうっすらよみがえる)たのがヒロインちゃん 真実の愛の相手と子を作れば元の世界に帰してもらえるかも、って狂いながら信じてる
元の世界の神が作成したざまあワクチン(真実の愛という特定キーワードが出て王家や高位貴族の婚約や婚姻が破棄されたら、ざまあ発動してヒロインと魅了された王子達を排除するよう条件付けされてる)が効いて、国が滅ぶほどの事態は減った
今回のヒロインはもともとがおとなしいタイプだったから、積極的に逆ハーしようとか公爵令嬢にえん罪ふっかけようとはしてなかった
結果、まじめな王子と一途なヒロインによる命と王位を捨てた悲恋物語となる
またいずれヒロインは現れる(恋愛至上主義な世の中には浮気が絶えない=お花畑になる恋愛ウイルス蔓延してる証拠) いつか帰れるといいね
頭のおかしくなったテンプレ愚かな王子を書こうとしたのに、ただの疲れた人になったのは何故だ
元婚約者と王子の弟は、優秀な者同士で仲はよかったけど、浮気まではしてない 王子はヒロインに出会うまで本当に頑張ってたのを知ってたから、婚約者の方も王子に情はあった
王子はヒロインに出会って優しくされて、神託のことは知ってたけど、もういいや、処分される運命なんだ、もう頑張れないと思っちゃった 婚約者のことは弟が大事にするだろうと
こっちの世界の神、人には盗むなかれとか説いてたけど、自分は勝手によそから盗ってきたりするから、管理世界はめちゃくちゃになって上位神からも怒られる ヒロインからの渾身の反撃ざまあをくらったともいえる
ヒロインちゃんはヒルガオのイメージ 蔓を見つけて抜いても抜いても出てくるの 生命力すごい
ピンクの花は可憐でかわいいんだけど、実をつけたの見たことない




