第2話【わたし視点】翼さん、こんにちは!
森で誰にも負けないくらい強くなったわたしは、毎日、美味しいものを探したり、からい魔物を食べてパワーアップしたりして、楽しく暮らしていた。
そんなある日、森の奥深く、今まで行ったことのない場所で、どっしりとした、大きな気配を感じた。
それは、今まで食べたどんな魔物とも違う、すごく強そうで、威厳のある気配だった。わたしは、どんな相手だろうと興味が湧いた。
わたしは、好奇心に任せて、気配のする方にころころと転がっていった。開けた岩場に回り込んで、わたしは、息を呑んだ。
そこにいたのは、大きくて、かっこいい生き物だった!
頭は、鋭いくちばしを持った鷲みたい。でも、体は、ライオンみたいに、がっしりしていて力強い。背中には、大きくて立派な翼が生えていて、黄金色の毛並みが、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
そして何より、全身が、もふもふだった。絶対に、絶対に、触ったら気持ちいいに違いない。
よし、きみは今日から『翼さん』だ!
そのかっこいい翼さんは、岩の上で堂々と寝そべって、毛づくろいをしていた。時々、片方の後ろ足を気にするように舐めている。
わたしがもっとよく見ようと近づくと、彼の逞しい後ろ足に、真っ黒くて、いばらみたいにトゲトゲした、気味の悪いものが、深々と突き刺さっているのが見えた。トゲが刺さった周りは、どす黒い紫色に腫れ上がっていて、すごく嫌な感じだ。
翼さんは、わたしの気配に気づくと、面倒くさそうに片目を開け、喉の奥でグルル…と低い音を鳴らした。その黄金色の目は、明らかに「我の休息を邪魔するな、ちっぽけなものよ」と語っている。怒っているというより、格下の存在として、全く相手にしていない感じだ。
でも、わたしは逃げなかった。わたしは、あなたを食べに来たんじゃないよ。襲って来ないのは食べないよ。ただ、面白そうだから来ただけだよ。そんな気持ちを込めて、その場でぷるんと、体を揺らしてみせる。
翼さんは、わたしに敵意がないことを理解したのか、ふん、と鼻を鳴らすと、再び毛づくろいに戻ってしまった。
わたしは、チャンスだと思って、翼さんの足元まで、ころころと転がっていった。そして、刺さっている黒いトゲを、じーっと観察する。
黒くて、禍々しくて、すごく嫌な感じ。今まで食べたからい魔物たちと同じ、すごく食欲をそそる匂いがした。
うーん、これは、わたしのごはんみたいだ!
よし、いただきます!
わたしは、翼さんが毛づくろいに夢中になっている隙に、さっとその痛そうな傷口ごと、黒いトゲを、ぱくっと体の中に包み込んだ。
わあ! やっぱり、すごくからい! 今まで食べたどんなものよりも、舌が燃えるみたい! きっと、すごく強い呪いなんだ! でも、これがたまらない!
わたしのお腹の中にある、色々な不思議な力が、このからいトゲの力を、ぐんぐんと自分の力に変えていくのがわかる。
わたしが、ぺっ、とトゲの芯の食べられないところだけを吐き出すと、翼さんの足は、すっかり綺麗になっていた。
翼さんが、わたしのことを見つめて、なんだか少しだけ心配そうな音を出した。どうしたのかな? わたしの体、変な匂いするのかな?
翼さんは、足にまとわりついていた、長年の違和感がすっかり消えたことに驚いたのか、何が起きたのかわからないという顔で、不思議そうに自分の足を見つめている。やがて、わたしという小さな青い生き物が、自分を助けてくれたのだと理解したみたいだった。
翼さんは、ゆっくりと体を起こすと、改めてわたしのことを見つめた。その威厳に満ちた黄金の目には、驚きと、深い感謝の色が宿っていた。
そして、その大きくて威厳のある頭を、わたしの小さな体に、すりすり、と、優しく擦り付けてきた。
わあ、やっぱり、想像通り、すごくもふもふだ!
鳥の羽毛と、獣の毛皮が混ざったような、ふわふわで、温かい感触が、すごくすごく気持ちいい! わたしも嬉しくなって、彼の首筋に、ぷるぷると体を揺らして、応えてあげた。
それからというもの、この大きくてかっこいい翼さんは、すっかりわたしに懐いてしまったみたいだった。
わたしが森をころころと歩くと、その後ろを、大きな体を揺らしながら、トコトコと、雛鳥みたいについてくる。
わたしは、この大きくて、温かくて、もふもふな、新しいお友達ができて、とっても、とっても、ご機嫌だった。
翼さんの背中に乗って飛ぶこともあった。空を飛ぶのは、最高に気持ちがいい!




