7.
「せっかく来たんだ。ヘトヘトになるまで働いてくれ」
「はい、父さん。じゃなかった、父上」
「はい、父さん。じゃなかった、お父様」
「ほら、ふたりともまだまだ子どもじゃないか」
ブレンドンは、ソッコーでツッコんできた。
「すぐに慣れるさ」
「そうよ。すぐに慣れるわ」
しばらく前から、外で「父さん」や「母さん」と呼ぶのはやめることにした。わたしの場合は、「兄さん」もである。そして、つい最近ではなるべく家族だけのときでも「お父様」や「お母様」や「お兄様」と呼ぶことに決めた。すでに遅いくらいだ。
フツーの貴族の子女なら、言葉を覚えたときからそう呼ぶ。が、うちは貴族っぽくない。どちらかといえば、バリバリの貴族嫌い。だから、領地の子どもたちと同じように「父さん」「母さん」「兄さん」がフツーだった。
兄もわたしも、いずれ王都に出ることになるかもしれない。ふたりとも、ひそかに軍の学校に入学したいと思っているからだ。
どこにでても恥ずかしくないようにしなければならない。ラザフォード公爵家の家名を貶めることだけはしてはならない。
田舎貴族令嬢だとか、低能乱雑なやつだとか、言わせないようにしなければならない。
だからこそ、自覚を持たなければならないのだ。
自分がラザフォード公爵家令嬢だという、自覚を。
というわけで、まずは身近なところからはじめたのだ。
とはいえ、まだまだできそうにないけれど。
「まぁ、いいではないか。そのうちちゃんと呼べるようになるさ。それよりも、作業を頼む」
「はい」
「はい」
兄とそれぞれの場所に行き、微力ながら手伝いをした。