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6.

 ラザフォード公爵家は、武門の家系だ。モットレイ王国の東方、隣国との国境地帯を所有し、治めてきている。東西南北、それぞれの地域に軍を束ねる司令長官と、それとは別に行政長官を配置しているが、東部方面一帯を所有しているラザフォード公爵家の当主は、代々その両方を兼任している。


 父アラン・ラザフォードもまた、代々の当主に負けず劣らず名領主であり名長官であり、なにより名剣士にして名軍人だ。


 そんな父のもとにいる兵士たちの多くは、ラザフォード公爵領の出身である。あとは、他の領地の平民たち。もちろん、王都や副都市の平民たちもいる。そして、父のまわりにいる側近たちも同様だ。平民か下級貴族か没落したり何かしらの事情で働かざるを得ない貴族やその子息ばかり。


 父自身は武の道を歩み続け、社交界など見向きもしない。上流階級の人たちや他の司令長官などからは、変わり者とか野獣とか言われてバカにされている。


 わたしは、それでもいいと思っている。


 いつなんどきでも自分自身のことより家族や部下や領民のことを思いやり、考えている父のことを心から尊敬している。


 こんな父だからこそ、領民や部下たちからの信頼が厚い。肥沃な土壌ではなく、大量の金貨にかわる鉱物資源などもない。それでも、みんなが一丸となって日々をのりきっている。父が護り、慈しんでいるからこそ、このラザフォード公爵領だけは平穏である。


 ここ数年、モットレイ王国では災害や疫病が続いていて、人々は疲弊し、食うや食わずの生活を送っている。それに追い打ちをかけるかのように、王家は各領主に重税をかけている。領主たちは、容赦なく領民から搾り取っている。


 こんな状態では、不平不満が溜まって当たり前のこと。領地だけでなく、王都でも不穏な噂が絶えない。


 そんな中にあって、このラザフォード公爵領は平和である。たしかに、公爵領はたいして裕福ではない。だれもが十分満足いくだけの生活を送っているわけではない。しあわせな毎日をすごしているわけでもない。しかし、他の領地よりずっとマシなのだ。



「おまえたち、来てくれたのか?」


 父は、みずからドロドロになって兵士たちと復旧作業にいそしんでいた。


 父の副官であるブレンドン・アルドリッジの案内で、やっと父に会えた。


「ふたりとも、ビヴァリーに罰を受けたらしい。どうせふたりでここに来たいとせがみまくって、彼女もうんざりしたんだろう」

「いやだわ、おじ様。そんな子どもみたいなことしません。ねえ、兄さん?」

「そうさ。おれたちは、もうおとなだよ。わがままを言う年齢じゃない」

「おやおや。それは、失礼いたしました。ラザフォード公爵子息。それから、公爵令嬢」


 ブレンドンは、豪快に笑った。


 彼は、でっかい父よりもさらにでかい。ついでに顔もいかつい。


 父と幼馴染で、父が母をのぞいてもっとも信頼する人である。父と彼は、ずっといっしょにいる。これからも一緒にい続けるだろう。


 兄とわたしは、彼のことが大好きだ。何かと相談したり、教えてもらっている。


 いかつい彼であるが、やさしくて思いやりがあって、なにより気遣い抜群なのである。そんな彼に奥さんがいないことが、ずっと不思議でならない。


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