第90話 解呪
「ノーライフキング、ゲットォォォ!」
「ボスを召喚できるって、普通にヤバくない?」
「また一歩魔王に近付いたな~」
「現実であれば、テイムの制限など無いのだろうからな……でも、いいのか? コレは」
闇魔法スキルの一種、死霊術でゴーストやアンデットモンスターをテイムするというスキルがある。
ソイツを使いながら相手を討伐した結果、見事にボス級を捕獲する事に成功した……気がする。
俺が召喚しているアンデットなどもコレに当たる訳だが、何かボス相手でもちゃんと効いていたっぽいし。
ゲームでは絶対に不可能だったボスのテイム、ソレが今叶ったのだ。
ワクワクしながら試しに使ってみれば、先程まで戦っていたノーライフキングが出現し、俺に跪いて来たではないか。
「魔王クウリ、お呼びですか?」
おぉ、ちゃんとお喋りまで出来る様だ。
ゾンビやらスケルトンは喋らなかったからな、これまた意外な発見だ。
あと君、骨なのに何処から声出してるの?
「いんや、試しに呼び出してみただけだ。待てよ……? コイツボスだし、コレだけ自我はハッキリしてるって事は」
それだけ言ってインベントリを漁り、装備品を取り出してから相手に渡してみた。
「コレは?」
「いや、スケルトンとかに一応武器は装備させられたから、出来るかなぁって。お前、これ使えそう?」
なんて事を言いながら渡したのは、以前戦った事のある溶岩神ペレのドロップ品。
その杖なのだが……レベル制限とかあるから、雑魚エネミーでは装備不可だったのだ。
でもコイツはボスキャラ、それなりの装備もいけるんじゃね? と思って手渡してみた結果。
「頂けるのですか? これ程の物を……」
「別に良いよ? 普段使ってないし」
「有難き幸せ……今後とも、貴女に忠誠を誓います」
それだけ言って、ノーライフキングが杖を一振りしたかと思えば。
相手の周囲からは炎が立ち上り、更には彼の後ろから亡霊の軍隊が出現したではないか。
「おぉ~モブ召喚まで可能なのか、頼もしいねぇ~」
「これ等は私の配下、つまり貴女様の僕です。どうぞ、お好きにお使いくださいませ」
「……ちなみに、装備変更とかは」
「与えて頂けるのなら、可能です」
ちょっとぉぉ!? コレはもう大当たりも大当たりじゃないか!
ノーライフキングの後ろに出現した亡霊兵士達、でも装備品はちゃんと存在しているのだ。
コイツ等の装備を俺等が保管している、“普段使わないレアアイテム”に変更した場合、結構な軍勢が出来てしまいますが!?
皆にも協力してもらえば、それこそ今後俺等が戦う必要なんか無いかも知れない。
あの魔女と戦わせるのは無理だろうが……それでも、頼もしい限りだ。
どんな軍勢を作ってやろうかと、思わず暗い笑い声を溢していれば。
「クウリ、一旦……その、仕舞わないか? 遠目で見ている二人が、もはや半狂乱になっているぞ?」
呆れた様なイズの言葉に、離れる様指示したシスターと旦那さんに視線を向けてみれば。
何やら大慌てで、衛兵ー! って叫んでいた。
ありゃ、こりゃ不味い。
「ノーライフキング、一旦戻れ。お前の兵士達に関しては、また後で別途装備を与える」
「了解致しました、我が主」
それだけ言って、さっきまで戦っていた筈のボスが俺に従って姿を消すのであった。
あぁもう、あぁもう!
コレがゲームだったら、滅茶苦茶興奮して色々試していた事態なのに!
リアルだと使い所が難しいってのが、また苦しい!
ちくしょうぉぉぉ! 不死の軍勢試したいよぉぉ!
とか何とか悶絶していると。
「うん?」
「どうしたー? また何かあったー?」
えらく軽い声を、トトンに掛けられてしまったが。
何だろう、変な感じ。
今しがた新しいテイムモンスターを手に入れて興奮しているだけかと思ったのだが、何か違う。
なんだろう? このソワソワする感じ。
はて、と首を傾げてみたが答えは分からず。
でも何だか……妙に月明かりが強い気がするのは何故?
もう鼻歌歌ってないし、リジェネは発動していない筈なのだが。
だとしたら、本当になんだ?
「どうしたのクウリ、本当に平気? 自分で自分呪ったままだったりしない?」
「何か異常があれば、すぐに言うんだぞ?」
ダイラとイズからも心配されてしまったが、コレと言って明確な答えは返せず。
とりあえず戦闘は終わりとばかりに、シスターの元へ帰って行くのであった。
なんだろうね、レベルアップしてんのにステ振り忘れてるみたいな。
変な感じがする。
※※※
「シスタークウリ、本当にありがとうございます……」
そう言って深々と頭を下げるシスターの旦那さん。
イシュランさん……で、良いんだっけ?
あの後皆揃ってシスターの家に戻り、今ではイズのご飯を食べながらダイラの治療を受けている状態。
解呪に成功した事と、ダイラの回復と俺のリジェネをもう一度使った影響か。
随分と食欲も戻ったらしく、旨い旨いと言ってイズのご飯を端から平らげていた。
全部の食器を空にしてから、また深々と頭を下げてお礼を言われてしまったという訳だ。
さっきまですげぇ弱っていたのに、滅茶苦茶食うじゃん。
あっ、もしかしてイズの“料理人”のスキルが発動してるのか?
だとしたら、飯食う度に身体にバフ特盛になってる可能性あるわ。
「あぁ~いや、俺も今回のは興味本位というか。というかこっちにも物凄くメリットがあったので、そこまで気にしなくても……あと、シスター呼びは止めて下さい。今更ながら違和感がヤバイ、現状シスターやってないんで」
そう宣言してみれば仲間達はククッと笑い声を洩らし、シスターオーキットからは溜息を貰ってしまったが。
しかしながら、旦那さんの気は収まらないらしく。
机の上に結構重い音のする麻袋を乗せて来た。
「私の退職金です。どうぞ、コレを報酬として受け取って下さい」
「いやいやいや、言っちゃ悪いですけど、あんまり裕福じゃないですよね? 俺に払ってる場合じゃないでしょうに」
「元々このお金は妻に渡して、私と別れて貰おうと思っていたんです。先が短いのは分かっていましたから。しかし最後まで承諾せず、だったら解呪に使えと言われてしまいました。本当に迷惑を掛けてばかりでしたが……これからは、私も働けます。金は、働いて稼げば良い。だからこそ、受け取ってください」
そんな事を言いながら、テーブルに額を付ける勢いで頭を下げて来る。
わぁお、コイツは予想外だ。
むしろ興味本位で“呪いを調べさせろ”とか言ったら、逆に怒られるかもとか思ってたのに。
単純に上手く行ったからという、完全に棚ぼた状態。
しかしコレを受け取ってしまえば、この人達の生活が苦しくなるのは目に見えている。
そんなの関係ねぇ! とばかりに受け取ってしまっても良いのだが。
些か仲間達の視線が痛い上に、シスターオーキットには色々教えてもらったしなぁ。
と言う事で。
「では、ありがたく頂戴します」
「……クウリ、いいのか?」
イズは不安そうな声を上げるが、そちらにニヤッと笑みを溢してから。
「シスターオーキット。俺は貴女からシスターとはなんぞやってのを、耳にタコが出来る程説教されました。んで、聖職者ってのは皆の平穏を願い、幸せを祈る存在なんですよね?」
ペラペラと喋り始めた俺に対し、シスターはちょっと驚いた様な顔をして……その後目を細めた。
うわっ、鬼婆モードだ。
「シスタークウリ、何を言うつもりですか? それは、既に貴女の物です。貴女はソレに相応しい仕事をしたのです、受け取りなさい」
険しい顔を浮かべて、彼女はコチラを睨んで来るが。
散々この人の説教する時の顔は見て来たのだ、今更怖く無いもんね。
と言う事で、更にニッと口元を吊り上げて。
「呪術師として、もう少し調べさせてもらいます。解呪したからとはいえ、肉体が弱っているのは確かです。なので、しばらく旦那さんの状態報告をお願いします。ちゃんと肉体は元に戻るのかどうか、その情報も俺の利益になりますから。その依頼と同時に……次の段階の一ヶ月研修。それの料金として、コレをお支払いします。俺達としてはお釣りが来る程の大物をゲット出来た訳ですし」
ケッケッケと笑いながら、無理矢理彼女に麻袋をそのまま押し付けてみれば。
相手はしばらく停止してしまったが、その後フフッと柔らかい笑みを溢してから。
「全く……今の貴女はその大金よりも、あの呪いの方が価値があったと言ってるんですよ? 苦しんでいた本人の前で、それを言いますか?」
「おっと、これは失礼。でも本当に色々試せましたし、実績としてはマジで上々なんで。それに俺はあと一ヶ月タダ同然で修行出来るって訳ですから、別に損はしてませんね。ノーライフキングはゲットしたし、あと一ヶ月リジェネを調べられる。俺にとっちゃ、あぶく銭も良い所ですから」
ハッと笑い声を洩らして両手を広げてみれば、彼女は涙を溜めながら微笑み。
「本当に、困った教え子が居たものです。どうせコレを返すと言っても、受け取ってはくれないのでしょう? 変な所で頑固ですからね、シスタークウリは」
「し、しかしオーキット! 彼女達に救って貰った恩は、この程度の金額では足りない。だったら身を削っても支払うべき義務が――」
今までは車椅子に座っていたのに、解呪が成功したイシュランさんは立ちあがる事も出来る様で。
勢いよく俺たちの話に噛みついて来る訳だが。
「なら追加の依頼として、イシュランさんにも聖魔法とか聖騎士の事とか教えてもらいましょうかね。ついでに言うと、俺以外の仲間にも色々教えてもらえると嬉しいです。あ、追加料金は勘弁して下さいね?」
「諦めなさい、イシュラン。この子は、本当に言う事を聞きませんから。他の事で恩を返す他ありませんよ」
そんな訳で、俺の一ヶ月研修が決定した瞬間であった。
こりゃもう、仲間達にも続く修行に行って貰おう。




