第88話 耐久レース、開始
「でっけぇ~……墓地!」
「トトン、静かに。この後の事を考えると、目立たない方が良い」
と言う事で、やって来ました大規模墓地。
これからやる事を考えると、非常に申し訳ないんだけど。
とはいえ、死んだ人より生きている人を優先したいので。
そんな事を考えながら、スキルの組み合わせ考えていれば。
「クウリさん……あの、こんな所で何を?」
「シスタークウリ、そろそろ教えてください。こんな所で、何をしようと言うのですか?」
車椅子に乗ったシスターオーキットの旦那さん、ソレを押すシスターが不安そうな声を上げて来るが。
呪いは呪いを喰う、その実験にはこの場所が最適なのだ。
そしてストーリー通りであるのなら、間違いなく旦那さんの方は救えるであろう布石を用意する為に。
「今から、旦那さんの……イシュランさん、でしたっけ。貴方の呪いを俺に移します。流石に、貴方へ俺の呪いを掛ける訳にはいかないので」
「はぁっ!?」
「何を言っているんですかシスタークウリ! いくら月の女神などと言われ様とも、先程の魔術で浄化出来なかったじゃないですか! 流石に危険です!」
大いに慌てふためく二人であったが、逆だ。
浄化なんぞ考えなければ良い。
解呪では無く……此方の呪いで食いつぶすか、相手を復活させてぶっ飛ばしてしまえば良い。
その際旦那さんの身体をそのまま媒体にされると、間違いなく死ぬ。
が、しかし。
俺の身体ならどうだ?
闇属性に耐性を持っており、更にはレベルもカンスト。
生物としてはかなり高い位置に存在する俺の身体。
コレをそのまま相手に使われたら、そりゃもう強いボスが登場してしまうかもしれないが。
だがそれはあり得ない。
俺は、“あの程度”のボスなら呪いという意味でも上位に位置しているのだから。
ステの数字とこれまでの経験だけを参照して考えた作戦だが、上手く行けば……誰も死なずに、ノーライフキングは“発生”する。
「シスターにも言ってなかったかもしれないけど……俺の専門、闇魔法なんだよね。それなんで、コレも実験。つまり俺の都合、という訳で~行くぞ! お前等、準備しろ!」
本気装備に変え、杖を振り上げ。
一気に墓地全体に“呪い”を振り撒いた。
エージングやカオスフィールドの様な、派手な攻撃ではない。
ただただ、相手を呪う行為。
デバフとしてのマイナス値は低い、しかしながら分かりやすい“呪い”の代表格。
しかし、まだ足りない。
アイツが出て来る為には、もっとノーライフキングが有利だと思える状況を整えなければ。
「“リビングデット”」
杖から波紋の様な紫の光が広がれば、周囲からはスケルトンやゾンビ。
それどころか、今回は結構本気で使用したが為に、それの上位種まで出現し始めた。
さて、状況は整えたぞ?
お前の好むフィールド、配下。
それら全てを“俺が”整えた。
どうするノーライフキング、そのままそっちの身体で復活して良いのか?
目の前に、もっと旨そうな生贄が居るのに。
なんて事を思いながら、ニッと口元を吊り上げていれば。
「あぐっ! ああぁぁぁぁぁ!」
「イシュランっ!?」
シスターの旦那さんが、車椅子の上で悶え始めた。
そうだ、それで良い。
お前によりふさわしい媒体が、都合のよさそうな肉体が目の前に現れたのだ。
そっちに喰い付いてこそ、ボスってもんだろう。
などと考えていれば、彼の身体から黒い霧が此方に向かって噴出し。
そのまま、俺の身体を飲み込んだ。
相手からは綺麗さっぱり霧が晴れた様で、ココに来てやっとはっきりと顔が見えた程。
おやまぁ、ガリガリになってはいるが、男前な事で。
とかなんとか思った瞬間。
『貴様の身体を、我の新しい器に――』
体の中から、そんな声が聞えて来たでは無いか。
これもイベント通り。
NPCの親がこのボスの呪いに掛かり、その呪いを解く為のクエストをプレイヤーが受ける事になる。
しかしながら、最後には娘の方が適性が高いと判断され、そちらに乗り移るノーライフキング。
きっかけとなるのが、苦しむ親の前で娘が闇属性魔法を行使してしまった事。
つまり今と同じ状況という訳だ。
このボスと戦う事になるプレイヤーだが、第一形態は村人の少女。
コレを倒すと、プレイヤーの攻撃に耐えきれなくなったボスが姿を現し直接戦闘が始まる。
しかしながらNPCの少女は、その段階でコチラの攻撃により命を落とすという胸糞展開。
だがしかしほんの僅かな時間、アイツが出て来た後も村人の少女は言葉を発するのだ。
つまり、その時点では死んでいなかったと言う事。
死ななくてもノーライフキングは直接姿を晒すと言う事。
だったら。
「勝負しようぜ、ノーライフキング。俺にとって、お前は“異物”だ。だったら俺のスキルも無効化出来ないんじゃないか?」
ニィィっと口元を、更に吊り上げた。
「退避ー! 全力で退避ー!」
「滅茶苦茶広い空間が射程になるよ!? シスターは俺が運ぶから、イズは旦那さんお願い!」
「了解したトトン! クウリ! 必要な時には呼べ! すぐに来る!」
そんな叫びを上げて、仲間達が逃げていくのを確認してから。
自らの身体に手を当てて。
「“ウィジャボード”」
ソレを言葉にしてみれば、俺の目の前には文字の書かれた巨大な板と、歪な形のプランシェットが出現する。
さて、耐久レースの始まりだ。
「これから、ありとあらゆる呪いをお前に掛ける……俺のレベルを舐めるなよ? ボスだろうが確定効果の出る呪いだって使えるからな」
クククッと笑いながらも、プランシェットを操作して一つ目の呪いを発動させる。
まずは、そうだな。
「“激痛、哀傷、嫌悪、憎悪”。ベーシックな所から攻めてみようか」
それだけ言って、スキルを発動させるのであった。
その瞬間、身体の中から激情が流れて来るのを感じるが。
あぁ、なるほど。
やっぱり俺自身に関しては自らのスキルは影響しないが、中に入った異物に関しては……どうやらそう言う訳にもいかないらしい。




