第84話 なんやかんや、一週間
少年が再び寝入ってしまった為、母親に返却。
別に大した事をした訳じゃない、子守歌を謳っただけだ。
だというのに、妙に周囲がザワザワしている。
ホント、何。
「ありがとう、ございます……また、息子を治療していただいて。このご恩は、必ず」
「いやいや、ですから、俺には回復魔術なんて使えませんし。何か偶然が重なって――」
そう言って、涙を溢しながら頭を下げて来たお母さんを止めようとした所。
何故かソレをシスターは制止し、彼女が差し出していた麻袋を受け取ってしまった。
おいコラお婆ちゃんシスター、それは受け取っちゃ駄目でしょ。
これじゃ詐欺だよ詐欺、俺なんもしてないし。
などと慌てていると、彼女は首を横に振ってから。
「正直、何が起きたのかは分かりませんが……けど、貴女の詩は間違いなく“詠唱”としての役割を果たしていました」
だ、そうで。マジで?
でも俺自身MP減ってる感じも無いし、やっぱり何も発動してないんじゃ……。
「シスタークウリ。貴女は謳っている間、ずっと目を閉じていましたが……あれは、そうしないといけないものなんですか?」
「へ? あぁいえ、癖ですね。作業のし過ぎで目が疲れたわーって時に、たまに口ずさんでたんで」
周囲全体から見られていたので、恥ずかしいというのもあったけど。
「なら次に歌う時は、貴女も見て御覧なさい。自らの力を疑っているようですが、間違いなく彼を治したのは貴女です」
なんかおかしな事を言われてしまったが、別にもう一回謳えと言われている訳ではないらしく。
シスターは訪問した親子と話し始め、俺達には食事会の片付けを命じて来た。
いやはやホント、何なんだろうね。
※※※
それからまた数日程経って、そろそろお試し訓練期間も終わりそうという所で。
シスターオーキットに呼び出しを食らった俺。
今度は何がバレた?
用意された昼食が足りないと男連中が騒いでいたので、インベントリから出した食べ物で腹を満たした事か?
そのお礼だと言って、相手が隠して持ち込んでいた酒瓶を頂戴した事か?
でも飲んだ訳じゃないし、コレは怒られない筈。
それとも「焼肉は臭いが広がるから」と言って、夜中に皆でゲーム時代のアイテム、“特製ジャーキー”を齧っていた事か?
色々と心当たりがあるので、ビクビクしながら彼女の部屋へとお邪魔してみると。
「来ましたね、シスタークウリ。早いものです、貴女が来てからもう一週間経つのですから」
「あ、あはは……ソーデスネー。それで、今回はどんなお説教で……」
「私に呼ばれればお説教という認識で、よくもまぁ一週間耐えられたモノです。もう少し派手な行動は控えなさい」
「ういっす……了解です」
今までより全然派手じゃないもん! とか言い訳をしたくなったが、十分派手ですよね。
普通の訓練生、絶対聖堂で肉喰ったりはしないだろうし。
「それで、約束の件ですが……いつにしましょうか? このまま次の研修に参加するとなれば、いつでも構いませんが。この期間だけで終わりにするのであれば、早い方が良いのでしょう?」
彼女の言葉に、思わず首を傾げてしまった。
はて? 何の事だ? 何か約束とかしたっけ?
などど思いつつ、しばらく停止していれば。
シスターは大きなため息を溢してから。
「貴女が言い出したんでしょうが……一週間以内にヒールが使えるようになったら、私の旦那に合わせろと。凄腕の回復術師を連れて来るから、その代わりに呪いを調べさせろ。そういう取り決めをした筈ですが?」
「あぁっ! そう言えば! あ、でも良いんですか? 俺未だにローヒールすら使えませんけど……」
忙しさと頭の痛くなる授業ばかりで、完全に忘れていた。
そうだそうだ、シスターの旦那さんが寝込んでいるのだった。
しかも元聖騎士で、そこらの術師じゃ解呪出来ないとか何とか。
教会側の人間、しかも前線に立つ様な人でもどうにも出来ない呪い。
確かに、思い出してみれば再び興味が湧いてくる。
苦しんでいる人相手に、こんな感想は失礼極まりないのは分かっているのだけれども。
「えぇ、確かに。ですが貴女はそれ以上の魔法を行使してみせた。あの月の光は、間違いなくヒールなんて魔法より、ずっと効果があるものです。事実、あの息子さん。完全に治ったそうですよ?」
「は、はぁ……そうなんですか。でもアレって、結局何なんですか? あれ以降試してないんですけど。使う機会も無かったですし」
普通の授業が忙しかったからね、仕方ないね。
そして皆の前で鼻歌歌いたくないし。
「わかりません、但し聖属性魔法なのは間違いない。それに……個人的な見解で言えば、アレは加護の様なモノ。もしくは貴女自身が加護を頂いて発動したもの、と考えています」
加護、加護っすかぁ……これまた分かり辛いのが出て来たな。
ゲームスキルで言うのなら、加護ってのも確かにあった。
とはいえアレ、スキル名がソレっぽいだけで、結局バフなんだよな。
それで治療が出来たっていうのなら、考えられるのは“リジェネ”。
回復魔法スキルとは違い、傷を瞬時に治すと言ったものでは無く。
どちらかと言うと“再生させる、回生させる”という効果。
ヒール系が外部からの影響で身体を治すのに対し、リジェネなどは身体そのものを強化して自己再生させる、みたいな。
吟遊詩人などの職業に就いて“歌魔法”のスキルを育てて行けば、リジェネ&強力なバフが持続的に付与されるってのもザラだったのだが。
俺の場合は、ソレに近いんだろうか?
そういうサポート職の強み、例えば歌魔法なんて呼ばれているが……ゲームでは音楽だった。
それが鳴り響いている内はバフ効果が消えない、つまり制限時間が無いってのが強み。
だからこそ攻撃を受けない様に、そういったバッファーは絶対安地に置いておくのが鉄則……なんだけど。
俺の場合、無理じゃね? というか歌いながら戦闘とか、無理。
仲間にも指示を出さないといけない立場に居るので、お口はそっちに使う事になります。
と言う事で、再び死にスキルゲット。
泣きてぇ。
「ちなみに、詠唱とかって結局何なんですか? あんな適当な鼻歌でも効果が出るモノなんです?」
「貴女……攻撃術師だった筈ですよね? それなのに、詠唱を良く分かっていないって……」
すんません、俺のは魔法であってもゲームスキルなんで。
基本そう言うのありません。
「まぁ良いでしょう、では訓練期間最後の授業です。聖魔法を教える場所ですが……貴女の場合、攻撃魔術を例えにした方が分かりやすいでしょう。魔法というのは、人の想像、そして魔力の操作が何よりも重要となって来ます。そして人の想像とは意外と曖昧なモノなんですよ」
「ふむふむ」
と言う事で、最後の授業を受け始めるのであった。
いやはや、何か最後までご迷惑お掛けしっぱなし。
大変お世話になりましたぁ……。




