第82話 子守歌
「はぁぁぁ……出来ねぇ……」
二日目、早速ため息を溢していた。
昨日シスターオーキットに、あんな大口を叩いたのに。
初期聖魔法の簡単なバフさえ、まともに使えないのだ。
しかもローヒールなんて全く発動しない。
「ク、クウリさーん? 元気だしてー? 私も全然だし、一緒に頑張ろー?」
昼食は質素なサンドイッチ。
昨日も絡んで来てくれた見習いシスターと共に、教会の入り口で昼食片手に落ち込んでいた。
いやいや待って? コッチはレベルカンストのアバターよ?
しかも魔力量……というかMPだって仲間内じゃ一番多いのよ?
でもローヒールどころか、初期バフさえまともに使えないって何。
シスターオーキットの言う事では、真摯に祈る事だとか。
具体的にどうしたいかのイメージだとか、魔力放出のバランスだとか色々言われたが。
何一つ分からないのだ。
祈り? あぁ、はいそうっすかって感じだし。
どうしたいかのイメージ? 多分他の人よりも出来ていると思います。
魔術バフ何パーセントとか、何秒間効果持続とか、クールタイム何秒とか。
でも出来ないのよ、全然発動しないのよ。
最後の魔力の放出ってのは何よ? どうやって出せば良いの?
いや何となく分かるというか、スキル使う時に似た感覚はあるので、多少は出来るようになったが。
調整が物凄く難しいのだ。
気を抜くと、適当な攻撃スキルが出て来そうになって焦る。
この世界の人は、そういうポワッとした情報だけで、普通に魔法が使えるようになるの?
無理無理、俺には無理。
魔力を出すぜーって意識すると、周囲から闇属性魔法出て来そうになるもん。
むしろスキル使わなくても、あんなもんが出て来そうになった事にびっくりだよ。
「上手く行かねぇなぁ……」
「こればっかりは仕方ないよ。この期間だけで聖魔法使えるようになる人、本当に一握りらしいから。とにかくこの一週間は耐えて、その後に続く一ヶ月の研修。そこで段々出来るようになって来る人が出るみたいだよ?」
そういうもんかぁ、気が長いなぁ。
なんて事を思いつつ、仲良くなった宿屋の娘さんシスターと一緒に、大して具が入っていないサンドイッチに齧り付こうとしてみれば。
何やら、建物の影から此方を覗いている小さいのが二つ。
近所の子供達だろうか? 何やらこっちをジッと見つめているが。
「何だよーちびっ子達、見世物じゃないぞー」
「クウリさん駄目だよそんな事言ったら! きっとお腹が空いてるんだってば!」
ほう? そういうものなの?
何か結構人が集まって、賑わっていそうな都市だから。
孤児とかそういうのは、あんまりいないと思っていたんだが。
確かに、彼等の姿はお世辞にも綺麗とは言えない。
更にはあんまり肉付きが良くない。
大して意識していなかったが、こう言う子達が居るってのが当たり前の世界みたいだ。
異世界怖ぇー。
いやまぁ、恰好だけ見て孤児と決めつけるのも失礼か。
単純に貧乏って可能性もあるよね。
「あー、なんだ。腹減ってんのか? よし、こっち来い。俺の飯分けてやるから」
そう言って手招きしてみれば、二人は建物の影から姿を現して此方に走って来る。
十代前半……というか、普通に小学生くらいだな。
そんでもって。
「なんだ? お前足怪我してんのか?」
後ろに居た少年が、何やら足を引きずっているのだ。
彼は少々気まずそうにしながらも、視線を逸らし。
「びょ、病気じゃないから! う、移ったりはしないはずだから……その」
「んな事は聞いてねぇよ。どうしたんだ?」
「馬車に、轢かれて……それから、動かなくて」
うへぇ、健康保険の無い社会は大変だねぇ。
相手が貴族だったりすると、損害賠償を訴えると言う事も出来ないのかもしれない。
もしも俺の身近でそんな事されそうになったら、家ごと吹っ飛ばしてやろうかって気になってしまいそうだが。
まぁそれはさておき、二人の口に今日の昼飯として渡されたサンドイッチを突っ込んでから。
「ホレ、食いながらで良いから見せてみろ」
そう言って膝に抱えた少年の裾をまくり上げてみれば。
あぁ~こりゃひでぇ。
「一応、治り掛けって所か」
「でも、これって……」
「神経がやられちまったのかもな。それに、骨が変な風にくっ付いてる」
素人目でも分かる程に、少年の足は歪に修復されていた。
多分このままでは、この先歩ける様になっても元通りとはいかないだろう。
むしろ化膿したり、腫れあがって無いのが不思議な程だ。
もしかしたら、中途半端に治癒魔法などを受けたのかもしれない。
「今の俺じゃ治療は出来ねぇからなぁ~、何たって研修医以下の存在だ」
「けんしゅー……えっと?」
「俺は医者でも治癒術師でもなければ、見習いも見習い。ものすげぇ下っ端って事だよ。まぁちょっと試してみるか、えぇ~と何だっけ? “天を滅します我等の父よ”?」
「滅しちゃ駄目でしょクウリさん、天にましますだってば。しかも天を滅しますってどんな存在?」
何てことをやりながら魔力を放出してみれば、掌が何かちょっとだけ光った。
けど、何も起こらず。
解せぬ。
「やぁっぱ駄目かぁ、それなりに適性あった筈なんだけどなぁ……痛いの痛いの飛んでいけぇ~ってな」
ハハッと笑いながらも、彼の傷口に触れて微笑んでみる。
しかしながら、未だ不安そうな顔を向けて来る少年。
まぁ、仕方ないか。
そして随分と酷いクマを作っている御様子で、寝不足か?
「今の俺には何にも出来ねぇけど、俺のパーティにはスゲェ回復術師がいるんだ。ソイツの力なら、きっと元に戻る。だからそんなに落ち込むな、俺は“おまじない”くらいしかしてやれねぇけど」
「……おまじない?」
やけに不思議そうな顔をして来る為、コチラも一緒に首を傾げてしまった。
え、さっきの“痛いの痛いの飛んでいけ~”がそうだったんですが。
駄目ですか。
子供とはやはり欲張りさんだね。
「おまじないって言ったら、祈りか、詩……」
「あ、そうなの?」
「おまじない、してくれるの?」
や~っべ。
そういうの全然考えずに言葉を放ってしまった訳だが。
どうすっかなコレ。
とはいえ、抱きかかえた少年は期待の籠った瞳を向けているし……仕方ない、何かやるか。
一発芸みたいな事? 流石に違うか。
「お、おう。誰だったかなぁ……俺が昔聞いた事あるヤツでさ、不安が無くなります様に~って詩らしいんだけど。歌詞は覚えてねぇや」
そんな事を言いながら、抱えた少年の瞼に手を置いて。
のんびりとメロディーを口ずさみながら、こっちも瞼を下ろした。
元々は良く分からん言語の詩だった気がするので……下手すると、何かのゲームかアニメの挿入歌とかだったのかもしれないけど。
よく覚えてない、と言う事で鼻歌オンリー。
だがしかし、たまにゲーム中にフンフンフーンみたいに謳っていたら、トトンとかが寝落ちするくらいにはリラクゼーション効果があるらしいソレ。
結構好きなメロディーなので、俺としては気に入っているんだが。
よく知らんお子様に対してこんな事、普段なら絶対しなかっただろうけど。
聖職者修行のせいでダークネス厨二病が浄化されてしまったのだろうか?
とかなんとか、下らない事を考えている内に。
「おや、寝ちまったか?」
腕に抱えた少年は、物凄く満足気な表情を浮かべて寝入っていた。
コレですよ。
秘儀、相手を寝落ちさせる歌。
作業ゲーと化した時にコレをやると、トトンどころかダイラまで寝落ちる事があった程。
よし、これで一応“おまじない”は済んだって事で良いだろう。
でもヤバイ、休憩時間過ぎてもこの子起きなかったらどうしましょ。
なんて思って、“やっちまった”と頭を抱えていれば。
「今の光ってもしかして、シスターは月の女神様……なんですか?」
「はぁ? なんだそりゃ? しかも、光?」
「月の女神は癒しの神様だって、聞いた事あります」
残る少年が、おかしな事を言って来た。
生憎と、俺はそんなファンシーな存在になった記憶は無いのだが。
あれか? ローヒール失敗時の光の事を言ってるのか?
オホホホ、私が女神よ。ってか?
んな訳あるかい、生憎とこっちはアバターの皮を被った社会人男性だぞ。
ある意味そこらのモンスターよりホラーな存在だよ。
むしろ能力的にも癒しとは真逆の方向性な上、破壊の方が得意と来たもんだ。
改めて考えると、今の俺って相当ヤバイ奴じゃん。
「弟……横になると凄く痛がるんですよ。だから全然眠れなくて、家族も起きてる他無くて。だからお母さんもあまり働けなくて……なのに今は凄く気持ちよさそうに眠ってる」
「あぁ、なるほど。そういう事か。今は完全に横になってる訳じゃないし、血流の関係だろうけど。ならやっぱ寝不足だった訳だ、しばらくこのまま寝かせてやるかー」
そう言いながら、腕の中で眠る少年に微笑みを溢してみれば。
「い、いやいやいや! 月、月明かり! 昼間だって言うのに、今めっちゃ光が差してたよ!? クウリさんやっぱり何か特殊な魔法でも使ったんじゃないですか!?」
隣にいるシスターからも、そんな事を言われてしまうのであった。
んな訳あるか。
俺は今何もスキルを使っていない上に、子守歌みたいな鼻歌を謳っただけだぞ。
そんなお手軽に新しい魔法が手に入るなら、俺は歌手になるわ。




